【音食同源】 第27回:キャビアとTHE MACKSHOW「リンカーン・コンチネンタル」
先日、恵比寿BATICAに某バンド主催のライヴを観に行ったときのことです。お店に行く途中で、駒沢通りにくそ長くて白い車が現れました。「リンカーン・コンチネンタル」です。
道路沿いに停車したその車の後部座席がものものしく開けられて、車内の人物が降りてくる瞬間を、同行者と共に固唾を飲んで見守りました。いったいどんなお金持ちが出てくるのだろうか。もしかして芸能人?神田うのとかかな?いや、ちょっと時代が違うかな。もしかしたらサッカーのなんとかジーニョとかいう人かも。ぜんぜん知らないけど。いや、レインメーカー・オカダカズチカだったら似合うんじゃないかな?などと、一瞬にして頭は妄想でいっぱいです。そんな我々の前に現れたのは、フツーの人。思わず声を合わせて「フツーじゃん!」と口に出してしまい、そのごくごくフツーな20代くらいの女性に聴こえてしまったのでは、と思い私たちは足早にその場を立ち去りました。
しかし、ふと考えてみると、これはもしかしてとんでもない大物なのではないかと思ったのです。なぜならば、ごくごくフツーの格好をしていながらそんな大げさな車から登場するというのは、かつて「キャデラックとかリンカーン・コンチネンタルでタバコを買いに行くのが夢」だと公言していた若き日の矢沢永吉そのものだからです。つまり、そのフツーの女性は、もしかしたらお金持ちの女性で、成り上がりビッグ・サクセスを手に入れたため、YAZAWAイズムを実践しているということなのではないでしょうか。恵比寿にショートホープ1箱を買うためにリンカーン・コンチネンタルに乗ってくるフツーの女性。なんて素敵なんでしょう。さっきからフツーフツーと繰り返し書いてますが、本当にフツーだったのですいません。
ところで、このYAZAWA語録的なエピソードをもとに曲を作ったバンドがいます。その名はTHE MACKSHOW(ザ・マックショウ)です。「リンカーン・コンチネンタル」はアルバム『狂騒天国』に収録されており、ライヴでもここぞというときにやる人気曲です。
この曲は「リンカーン・コンチネンタル」をキーワードに、サクセスしようとしている男のスピリットを歌っていますが、キモになっているのが繰り返しサビで歌われる ”そいつは誰かの 誰かの為じゃない” というフレーズです。正直、恵比寿で見たときに思ったのですが、とにかくリンカーン・コンチネンタルなんて、この狭い日本の道路事情からしたら、邪魔以外の何ものでもありません。とにかく、長い。こんな不便な乗り物を好んで買いたい、という気持ちは、やはり「自分がサクセスした証」をそこに象徴として求めているからなのではないでしょうか。そしてそれは、誰かの為では決してありません。食べ物に例えると、キャビアでしょうか。正直、ほとんど食べた記憶がないほどですが、とりあえず高級なものの象徴として挙げてみました。もしや今はぜんぜんそうでもなかったらすいません。とにかく、キャビアも別にそんなに美味しくて他の食べ物とも合う合理的な食材ではないことは間違いない気がします。つまり、立ち位置的には「リンカーン・コンチネンタル」と一緒。「サクセスの象徴」です。キャビアを腹いっぱい食べたい、なんて歌はないでしょうが、リンカーン・コンチネンタルでタバコを買いにいく曲はあります。
”そいつは誰かの 誰かの為じゃない”
3コードのロックンロールという縛りであえてやっていて、歌う内容も決まった世界観が多いTHE MACKSHOWですが、こういうフレーズに人生観をサラッと入れるさりげなさがいい。
自分もそんなスピリットを持って何ごとも取り組んでいきたい、そう思わされる曲が「リンカーン・コンチネンタル」なんです。今まさに、これを書いているのも、誰かの為ではありません。かといって、自己満足なだけでもありません。このニュアンスがわからない人とは友だちになれないでしょう。
”そいつは誰かの 誰かの為じゃない”
「リンカーン・コンチネンタル」、良い曲です。聴いてみてください。