【音食同源】 第5回:ハンバーグとALVVAYS「Archie, Marry Me」
ときどき、夢見るようにごはんを食べている時間ってありますよね。いや、夢とまではいかないまでも、「孤独のグルメ」の名セリフ「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」のような時間というのは確実にあります。
以前、雑誌とWEBで立て続けに肉料理を取材したことありました。その際、色んな肉料理がある中で一番印象的だったのが、ハンバーグでした。高級な店から庶民的な店、50年以上営業している店から最近できたばかりの新店。店の佇まいも含め、千姿万態という感じで、ハンバーグ本体の見た目や味も似ているようでまったく違いました。
そんな中で、最も心惹かれたハンバーグが2つありました。1つは、新橋の洋食店「はと屋」。もう1つは学芸大学駅前の「びーふてい」です。共に和牛を使ったハンバーグながら見た目はとてもシンプルでした。そして、両方のハンバーグに共通していたのが、とてつもなく優しくふわふわな食感だったことです。
正直、これまで真剣にハンバーグのことを考えてみたことがなかった気がします。いや、普通は考えなくても良いと思うのですが、「マルシンハンバーグ」や「イシイのチキンハンバーグ」みたいなお弁当に入っているハンバーグも同じテリトリーに入れてハンバーグを認識してきたことをちょっと反省せざるを得ないほど、人の手で丁寧に作られたハンバーグは優しくてふわっふわで美味しいことを知ったのです。まるで恵まれない幼少期を過ごしたかのように書いてますが、そうではありません。ごく一般的なサラリーマン家庭に育ったので普通にハンバーグを食べてきましたし家庭で食べるハンバーグも美味しいですが、洋食屋さんのハンバーグはさすがプロの味。美味しさのベクトルが違うといいましょうか、よくわからないですが、とにかくそんなハンバーグを食べてる時間は、まるで時を忘れた夢の中。ドリーミーポップな世界にいるのです。
無理やり繋げた感はありますが、世界にはドリーミーポップとカテゴライズされる音楽があります。例えば、2017年9月に3年ぶりとなる2ndアルバム『Antisocialites』をリリースしたカナダ・トロント出身のALVVAYSです。「Archie, Marry Me」に代表される、女性ボーカリストMolly Rankinの甘酸っぱくて優しい歌声と、エフェクティヴなギターによるノスタルジックなサウンドは、ふわっふわのハンバーグを食べているよう。思わずこっちからMarry Me、と言いたくなってしまうほど夢見心地にさせてくれます。
美味しいハンバーグを出す店の店主にこだわりなどを訊いてみると、たいてい「いやあ、別に特別なことは何もしてないよ」と謙遜します。一方、アルファベットの綴りに「V」2つを入れることで「W」と読ませているALVVAYS。「いや、オールウェイズって別に意味はないんすけどねw」とか言いそうなバンド名の照れ隠しっぷりに、同じく奥ゆかしさを感じて優しい気分になるのです。