【音食同源】第42回:冷しとろろそばとレーナード・スキナード「Free Bird」
昨年9月末に、それまで8年間も住んでいた下北沢界隈から引っ越しまして、現在は京王線沿線に住んでいます。引っ越しの最大の目的は、「猫を飼うこと」で、とにかくペット可で予算に合う物件ならばどこでもよかろう、というぐらいな感じで探した結果、現在の住居と相成りました。
京王線界隈は非常にのどかです。晴れた昼下がりに新宿から下り方面の電車に乗り、車窓を流れる家々を眺めていると、「ああ、このままどこか知らぬ街まで……」と思ってしまいます。そんなことを思いながらも結局いつも行かないのですが、先日とうとう決心しまして、終点の「高尾山口」駅まで行ってみることにしました。目的は高尾名物の「とろろそば」を食べることです。
アルミホイルを集めて作ったようなあの京王線の車両(失礼)に乗りこみ、調布、府中、聖蹟桜ヶ丘などの主要駅を過ぎると、窓の外はますますのどかになっていきます。こんなとき、どんなBGMがいいのか。決してシニカルなライムをアグレッシブにフロウするヒップホップでもなく、時代のムードをアブストラクトに表現するベースミュージックでもなく、ましてやTikTokで大バズり中のボカロPの失恋ソングでもありません。けだるい時の流れ、ダウン・トゥ・アースでレイドバックしたこの空気感に一番合う曲、それはレーナード・スキナード「Free Bird」しかありません。
前奏のオルガンに続いて満を持して始まるスライドギターによる音色のしびれること。歌が始まるまで1分半ぐらいイントロがあるのですが、正直もうボーカルなんてなくてもいい!と思うぐらい、このイントロ部が好きです。どうして好きになったかというと、この曲「Free Bird」は、全日本プロレスに来日していたマイケル・ヘイズとテリー・ゴディによるタッグチーム「ファビュラス・フリーバーズ」が、入場テーマ曲として使っていたからです。今映像を観ると、イントロが長すぎてやっぱりボーカルはリングインにほぼ間に合わず。大人になってから「この曲、歌あったのか!?」と思ったプロレスキッズも多かったはずです。
それにしても、「Free Bird」がまさか京王線にこんなにもマッチするとは思わなかった。引っ越してみるものですね。なんてことを思いながら到着した高尾山口駅近くの「高橋家」にて、「冷しとろろそば」を食べました。冷やしといってもつけ汁に蕎麦をつけるタイプではなく、冷たいつゆにつかった蕎麦の上に、別添えのとろろ(ウズラの卵つき)をかけていただきます。粘り気のあるとろろに負けないようにしているのか、蕎麦のコシがものすごく強い!そして美味い。まるで「Free Bird」を演奏するレイナード・スキナードそのものといった感じです。
とろろそばを食べるという目的を達成した故、高尾に来ていながら登山もせずに満腹のお腹をさすりながら、さっと京王線に乗り帰途へ(滞在時間20分)。当然、帰りの電車内でもBGMは「Free Bird」。なんとこの曲、全部で9分以上あり、5分過ぎからはテンポアップして3本のギターによるソロ合戦がエンディングまで続きます。その極端にやかましくなるサウンドと、新宿方面に向かって徐々にがちゃがちゃした街並みへと移り変わっていく様子が、やけに上りの京王線にハマっていたのでした。今回はそんなところです。ではごきげんよう。
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