見出し画像

【音食同源】  第15回:富士そばのカツ丼とエアロスミス「Eat The Rich」

12月に入り、下北沢に富士そばがオープンしました。

やっとできたのかと、思った人も多いでしょうし、僕もそんな気持ちです。下北沢付近に住みだして早5年。引っ越してきた当初あった安くてそこそこ美味しい老舗ラーメン店、親しまれていたであろう定食屋さん、小籠包のお店、フローズンヨーグルトの店、etc…色んなお店がなくなってしまいました。きっと、もともと下北に住んでいる人からすると、だいぶ駅周辺の飲食店は様変わりしているはずです。5年しか住んでいない僕ですら、「またあそこに新しい店ができてる!」ということがしょっちゅうなんですから。

そんな中、なぜかずっとなかったのが、富士そば。そもそも下北に足りないもの、として「吉野家」「かつや」などのチェーン店の名が挙げられていました。しかし以前は吉野家も富士そばもあったのだそうです。その頃を知らない者からすると、なぜこうも若者に、とくにお金のない若者に、いや若者だけではなく中年も壮年も老人も、お金を持っていなそうな人々の闊歩する下北(すいません)にそうしたリーズナブルなチェーン店がないのかと疑問に思っていました。それがなぜなのかはわかりませんが、とにかくこれまでなかった富士そばができました。年末の貧乏なときになんという吉報でしょう。僕はとりあえず少し早いサンタさんからのXmasプレゼントだと思うことにしました。

富士そばは特に珍しくはないはずですが、やはり気持ちの問題で、オープン日には行列ができる瞬間もあったようです。1週間ほど経ってようやく落ち着いたところで入店してみました。普段は何を食べるかガラスケースを見て考えて入るタイプの僕ですが、駅の目の前というガンガン人通りがある場所にあるということもあり、ほぼ何も考えずに入店するはめに。そして券売機を向かうとなぜか「カツ丼」のボタンを押していました。ここ数日、「Chrisma.com」「SILENT SIREN」「バンドじゃないもん!」と、若い女の子グループの取材が続き、時代をリードするガールズパワーに負けないようにフル回転していたため、エネルギーを消耗していたからでしょうか。「肉だ!カツ丼だよおい!」ってなっていた様子です。かくして下北オープン後の富士そばで初めて食べたのがカツ丼です。

490円のカツ丼。そこらの美味しいカツ丼とはやっぱり違います。肉が、堅い。噛みごたえがある、というレベルではないくらいのbite感。I bite at meat。しかし、肉にかぶりつくというほどの大きさではないため、噛み切ってはモグモグ、噛みきってはモグモグ。決してマズいわけではありません。そこそこの美味しさですが、やはり富士そばはそばを食べるべき、と反省しました。

そんな僕が肉を嚙みちぎりつつ頭の中で歌っていたのが、エアロスミス「Eat the Rich」(『Get a Grip』収録)です。ジョー・ペリーのイントロのリフが頭の中で肉に噛みつくスタートラインにつかせ、スティーブン・タイラーのシャウトを合言葉に衣の上をガブっといきました。そして、ご飯をかきこむと、せわしなく動くジョーのリフと対照的に♪ジャッジャーと大きく下地を作るようにコードを鳴らすブラッド・ウィットフォードのプレイがまるでカツの下に敷かれたご飯のように感じられました。「これは飯(ブラッド)が美味いから意外とカツ(肉と衣=スティーブンとジョー)も美味く感じるぞ!?」という、カツ丼におけるご飯の美味しさの重要性と、エアロスミスにおけるブラッドのバッキングギターの重要性を同時に感じられるという貴重な体験をしてしまいました。「Eat the Rich!!」そう叫ぶサビメロが登場する頃には、僕は手強いカツ丼をすっかり平らげていました。これからも「Eat the Rich」な気分でワンコインで食べられる料理をいかに美味しく食べられるかを追求していこうかと思います。

いいなと思ったら応援しよう!