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【音食同源】第43回:とんかつサンドと武藤敬司の旧テーマ曲「The Final Countdown」

先日6月6日(日)に行われた『CyberFight Festival 2021』(サイバーファイトフェスティバル2021)を観戦してきました。この大会はDDT、ノア、東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスという、「サイバーファイト」に所属する4団体の合同興行で、メインイベントはGHCヘビー級チャンピオンの武藤敬司vs丸藤正道でした。

当日に思い立ち、急遽さいたまスーパーアリーナまで足を運んだのですが、「STARTING BATTLE」の開始が12:45ということもあり、最寄りのさいたま新都心駅に到着したときにふと、コンビニでごはんを買って行こうと思い立ちました。そこで購入したのが、セブンイレブンの「三元豚のとんかつサンド」です。ズシっと手にも重たいボリューム感、三元豚という、わかっているようで正直わかっていないブランド感で、満足度は100%が約束されています。これなら長時間の観戦にも耐えうることでしょう。

これは良いものを買った。そう思ってホクホクしながら会場の入り口に着く前に、気が付きました。コロナ感染拡大防止のため、会場内では水分補給の飲み物以外飲食はできないということを。そりゃそうです。今の社会常識を理解していない、己の社会生活不適合者ぶりを再認識させられました。そうとなったら仕方ない、会場入りする前にたいらげないといけません。さいたまSA正面ゲートの裏でこそこそと、いやこそこそする必要はそもそもないのですが、ひっそりと人気のない場所で「三元豚のとんかつサンド」を実食。パンがあんまり好きじゃないのでサンドイッチのたぐいは食べない方ですが、これは美味い。締まった肉質の三元豚の歯ごたえと旨味、パンと肉をしっとりと仲介するソースの絶妙な味。普段はほとんどの食べ物に醤油をかけてしまう僕にもストライクな味付けです。これはマジで美味い。とんかつを食べたときにも似た充実感を得ることができました。

そしていざ会場へ。オープニングからさまざまな名シーンが生まれ、あっという間に時間が過ぎていきました。満腹状態で観戦を始めたのですが、決して眠くなるようなダレたところはありませんでした。客席ではもちろん食事をしている人もいないですし、大声を出すような人もいない。じつにマナーの良いお客さんばかりでした。ああ、よかった。「三元豚のとんかつサンド」を客席で食べなくて。そんなことをしたら大会自体に水を差してしまいそうなぐらい、素晴らしい試合続出でした。そしていよいよクライマックスのメインイベントへ。「天才vs天才」との煽りに誰もが納得する熱戦で、手に汗握りつつリングを注視していました。そこで飛び出したのが、武藤敬司のムーンサルトプレス。それまで5時間以上、黙って試合を見守り、手拍子などで盛り上がっていた会場中から、「うおぉぉぉ~!」と自然に声が上がりました。僕も思わず声が出ただけでなく立ち上がりかけました。膝を人工関節にする手術を受けるために封印したムーンサルトプレス。僕はそのことをテーマにした著作『さよならムーンサルトプレス』も買いましたし、書泉グランデで行われたトーク&サイン会にも参加しました。サインをしてもらうときに「武藤さん、トーク面白かったです」と言うと、サインを下記ながら「ほんとに~?」と、なんとも軽妙な感じで応え、「うぃ~し」と言いながら握手をしてくれました。本当に「うぃ~し」って言うんだなあ、とそのときは思ったものです。

話は戻りますが、武藤のムーンサルトプレスは、とにかくものすごい衝撃でした。そのときに思ったのは、コロナが取りざたされ出した昨年の春ぐらいから、常にコロナのことが頭にあったこの1年ちょっとの間、本当にコロナのことをすっかり忘れられたのが、この一瞬だったということです。音楽のライブやプロレス、展覧会等、仕事柄もあり色んなイベントごとに参加してきましたが、武藤がコーナーポストから宙返りをしたあの瞬間、ほんの1,2秒は、自然に声が出て立ち上がるぐらいに、コロナから解き放たれた初めての瞬間だったんです。

試合後、ネット上には称賛の声と共に、膝のことを心配する声も多数ありました。しかし、武藤がコーナーから飛んだ瞬間を目の当たりにした、あの会場にいた人々、配信をリアルタイムで観ていた人たちは、その瞬間に「膝が心配だー!」と叫んだでしょうか。そんな人はいないと思います。決死のムーンサルトを繰り出した結果、リアルなお客さんの「うおぉぉ~!」という声が返ってこなかったら、武藤は飛んだ甲斐がないのではないでしょうか。そのとき、僕は本当の意味で「ライブであること」の大切さを知りました。1秒後、「膝大丈夫なの?」と心配になるのはわかります。しかし、それはもう「ライブ」ではありません。その瞬間の感動、それがライブの醍醐味。コロナ禍において、本当の意味で「ライブ」であることの大切さを教えてくれたのは、武藤敬司だったのです。

さいたまSAで2013年に行われた「LOUD PARK 13」で生で観たヨーロッパの「The Final Countdown」は、かつて「スペースローンウルフ」時代の武藤の入場テーマ曲でした。そんなことも重ね合わせつつ、あのムーンサルトはプロレスラー・武藤敬司のファイナルカウントダウンも感じさせるものだったなと、無理やり音楽につなげてみました。今回はそんなところです。ではごきげんよう。


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