【音食同源】 第10回:チーズバーガーとボブ・ウェルチ「Ebony Eyes」
ある日、とある街の駅ビルにあるハンバーガーショップに友人と2人で行ってみました。そのハンバーグショップはとても洒落ていて、店内の装飾は本場アメリカのレストランのような雰囲気で、まるで外国に来たかのようでした。
そのとき店はそこそこ混雑しており、店員さんも忙しそうだったのですが、僕たちがカウンターに座るとすぐにやってきた女性店員さんがいきなり「おきまりですか?」と聞いてきました。「いや、座ったばかりでまだメニューも見てないので…」と困惑していると、店員さんも「あっすいません」とメニューを取りに行ったのですが、そのまま戻ってきません。水ももらっていなかったので、しばらくして厨房近くまで行って「すいません、メニューとお水を…」と言おうとすると先ほどの店員さんが顔を出して「何名さまですか?」と聞いてきます。いや、さっき来た客なんですが、というとまた「あっすいません!」。
どうやら天然な感じでしたが、その後オーダーを取りに来たときは驚かされました。本格的で豊富なメニューが並ぶ中、どれにしようか迷ったあげくに僕はチーズバーガー、連れはアボカドバーガーか何かを頼みました。そして、飲み物はコーラとジンジャーエール。ごく普通なオーダーだと思うのですが、その女性店員さんはオーダーを確認する際に、「バーガー系2つとドリンク2つですね」と言ったのです。「バーガー系」って。そりゃそうだろうけど、オーダーの確認になっていないのでは…と不安になりつつ、なんとなく「はい、そうです」と答えてしまいました。
もしかしたら、自分たちの中で「もしかしたら全然違うメニューが出てくるかもしれない。寿司とか」等と、妙な期待感があったからそのように返事をしたかもしれません。厨房の方を見ると、店長らしき人が苦笑いしています。どうやら他のお客さんへの接客でもしくじっている様子。店長の表情は「こりゃこの娘ダメかな~」と言わんばかり。どうもそのうちクビになってしまいそうなほどのドジっ子のようです。なんだかかわいそうになってきてしまいましたが、やはり食べたいものがオーダー通りこなければ心を鬼にして言わなければいけません。我々はドキドキしながら、どんな「バーガー系」もしくは、バーガー系以外のもの、そしてどんなドリンク系がくるのかを待ちました。待っている間、店内にはボブ・ウェルチのヒット曲「Ebony Eyes」が流れています。
♪ I’d like take har out of her chains
あの子を縛る鎖から解き放ってあげたい
そんなことを思いつつ、でも
♪ Your eyes got me hopin
おまえの瞳が俺に期待させる
果たしてメニューはちゃんとオーダー通りにくるのか?とんでもなくトンチンカンなものが出てくるのでは?という期待を胸にボブ・ウェルチの歌に合わせて口ずさんでいると、やってきたメニューはちゃんとチーズバーガー、コーラでした。なんだ、ちゃんとわかっていたんですね。ちょっとがっかり、でも食べたいものが食べられた安堵感、そしてチーズバーガーは想像以上に美味しく、期待をはるかに超えていました。
店内の音楽は、僕が次に期待した同じボブ・ウェルチの代表曲「Sentimental Lady」(悲しい女)ではなく、スティービーワンダーの「Sir Duke」に変わっていました。その日、僕は家に帰ってからいつまでもボブ・ウェルチ気分で彼の大ヒットアルバム『French Kiss』をひたすら聴いていました。超キャッチーでコマーシャル、洗練されたポップスが詰め込まれたこのアルバムは、昨今のシティ・ポップ好きな方には間違いなく気に入ってもらえる作品だと思います。
ドジでおっちょこちょいな女の子と、フリートウッド・マックで一時期バンドの中心人物となった頼りがいのある男・ボブ・ウェルチ。そんな彼の存在感はこの世を去って5年を経ても、音楽の中で今なお輝き続けています。