「ユニコーンに卵焼き」
たいへん。
あおちゃんは立ち上がった。おにいちゃんお弁当忘れてる。
今日打ち上げのロケットでおにいちゃんは飛び立ったばかりだった。ボボボボと輝いて小さくなっていくロケットを工房のお庭から見送ったばかりだ。こんどは火星行くんだって。すごいねえ。
だが。机の上にそれはあった。おにいちゃんのおべんとぶくろ。
最初にあおちゃんはさっと紐を解いて中を確認した。お箸良し、スプーン良し。ちゃんと入ってる。いい匂いがする。唐揚げおいしそう。卵焼きも入ってた。ひとくち味見して、結局食べた。ちょっと甘い卵焼き。指を舐めて、ブラウスの裾で拭った。
きゅっと紐を結び直し、コップ袋も一緒に持った。さて。
「おかーちゃん」呼んだけど返事はなかった。
空に口笛を吹くと、くじらが降りてきた。
上を指差して行った。連れてって。
鯨は重そうなまぶたを少し持ち上げて、眩しそうに上を見た。
「火星は遠いよ」
平気よあたし。
しかたない、じゃあ丸ごと乗せていこうか。
うん。
よし。鯨は大きく体をひねると静かに地面に潜り、あおちゃんのおとーちゃんの工房とお庭その辺りざばりと掬い上げ、飛んだ。線路と電線は上手に避けた。
ちょっとくたびれたので、あおちゃんは寝ることにした。工房の中に入ると牛と鳥のオブジェが目についた。おとーちゃんが作ったやつ。
お船の先っぽにはお人形が付いてるわね。
オブジェを持って外に出ると、空はプラネタリウムみたいに星だらけだった。きれい。
鯨の鼻の先にオブジェを置いて、あおちゃんは中に戻った。
あとはソファでお昼寝をしてるうちに火星に着いた。
宇宙船はすぐ見つかった。
おにいちゃんは驚いて降りてきた。
「宇宙に行くにはね、いっぱい訓練をするんだよ」
「くじらと来たから大丈夫。工房も一緒だし。はいこれ」
あおちゃんはお弁当を渡した。
「ありがと」一瞬迷って付け足した。
「ごめん、卵焼き食べちゃった」
「大丈夫だよ、船長がハンバーグ分けてくれるって」
おにいちゃんはにっこり笑ってあおちゃんの髪をかきあげてくれた。
きをつけてね。みんなによろしくね。
あ。あおちゃんは工房に引き返すと、ブロックのかたまりを持ってきた。
小さな赤い角の生えた、おかーちゃんの作ったユニコーン。
はい。これだいじ。
ちゃんと持って帰ってきてね。
うん、わかった。
おにいちゃんはにっこり笑って受け取った。
さあ、帰らなくちゃ。
見上げれば真っ暗。おかーちゃんが待ってる。