「アルゼンチンかもしれない」
見つけたのはメンダコだった。
ヒメコンニャクウオがひらりと寄ってきた。
何これ。
落とし物だ。ニンゲンの。
深く冷たい海の底。砂に埋もれてそれはあった。
ながぬま、と書いているな。
読めるの。
文字くらい読める。
メンダコはプランクトンのぼんやりした光を頼りに、案内板を読んだ。
「ながは永、かぎりないとき。ぬまは沼」
「淡水か。やばいな」
それどころではない。この海を陸の方面に浮上し川を遡り辿り着く沼の深く深く、地面をどこまでも深く潜った先の裏側に、
「違いない」
「きっとブラジル」「その辺りだろう」
ごくり。
ここ、入れるみたい。
すい、ゆらりと隙間から入ると、
中はイワシの群れみたいに銀色だった。
「ガンメタは魚のロマンだからね。」
ガンメタを知らないヒメコンニャクウオは言った。
「わたしは魚ではないが」
冷やかなメンダコの方を見ずに、ヒメコンニャクウオは咳払いをした。
エラから空気ががばりと漏れた。
でさ、
「どうするの」
「届けるに決まってるだろう」
でも
「ながぬま、って淡水の下の泥のもっと深くなんだろ」
「おそらく」
メンダコは入り口のハッチをがちゃりと閉めた。
これは潜るための船だ。ニンゲンが海に潜れるなら、我々も地面に潜れるはずだ。
「淡水でも?」
「大丈夫さ。おまえさんがそこを開けなければな」
メンダコは丸いボタンをえいやと押し込んだ。機体が振動し、あちこちが光り始めた。アンバー寄りの赤や緑の明滅、上がる回転数。舞い上がる砂嵐。
どこまでも行ける。冒険が始まる。
さて問題です。
ながぬまはどこでしょう、か。