最強のロック・プリンセス=アヴリル・ラヴィーンデビュー20周年にしてリリースされた傑作アルバム『ラヴ・サックス』までの道のりを振り返る
2002年にアヴリルが弱冠17歳の時にリリースされたデビュー・アルバム『Let Go』に世界中が魅了されてから早20年。ずっと時代の最先端を走り続けるも、彼女らしいアクションとスタイルは変えることなく、デビュー20周年となる今年、通算7枚目となる最新作『Love Sux』がリリース。
トラヴィス・バーカーを始めとするポップ・パンクのVIPのバックアップを受けつつ、新しくも懐かしい、フレッシュでエネルギーに満ちた<こんなアヴリルが聞きたかった>と誰もがうなるロック・プリンセス、アヴリルならではの傑作の誕生です。
今回は、日本盤のアルバムにてライナーノーツ執筆も担当しているライターの鈴木宏和さんに、アヴリルのアルバム、そして彼女の歩んできた道のりについて解説いただきました。
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人生は、短い。アヴリル・ラヴィーンの文字通り鮮烈なデビューを、昨日のことのようにとまでは言わないまでも、はっきりと覚えている。
しかし、あれからもう20年も経っているのだ。20年と言えば、当たり前だが、当時の赤ちゃんは酒もタバコも堂々とやっていい歳になっているわけで。なるほど、こうやって中身が伴わないまま歳だけ取っていくわけか……などど、ため息混じりにひとりごちてしまうわけだが、もちろんアヴリル・ラヴィーンは違う。
世界デビュー直前の初インタヴュー時に、
と小声でぶっきらぼうに答え、かと思えば
と目をまん丸にしていた少女は、今やセレブリティであり、Z世代に敬愛されるロック・アイコンであり、結婚(と離婚)を2度経験し、命に関わる難病も乗り越えた、酸いも甘いも噛み分ける大人の女性である。
※最新A写真
その見た目の成長ぶりは、デビュー作『レット・ゴー』と前作『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』のジャケット写真を比べてみれば、一目瞭然だろう。
しかし、そこからのさらに大きな変貌で驚かせてくれるのが、デビュー20周年のアニヴァーサリー・イヤーにニュー・アルバム『ラヴ・サックス』でシーンに帰還した、最新モードのアヴリル・ラヴィーンなのだ。
露出多めの黒の衣装で大開脚。手にはこれまた黒の風船というジャケットは謎だが、本人いわく
とのこと。
確かに、赤と黒というのは、グリーン・デイも大好き、Sum 41のデリック・ウィブリーも大好き、勝手に乗っかれば僕も大好きなパンキッシュな色使いだ。
そう、『ラヴ・サックス』は、20周年の大きな節目に自身の原点を見つめ直すような、ど真ん中直球のポップ・パンク・アルバムなのだ。
正直なところ、個人的には『ラヴ・サックス』を原点に“回帰”したアルバムとは捉えていない。原点を見つめ直し、再評価どころか、かつてよりも格段にポップ・パンクに魅せられてしまったアヴリル・ラヴィーンが、2020年代にある意味まっさらな気持ちでそれを体現しようとした作品だと感じている。そしてその背景に、トラヴィス・バーカー(ブリンク182)の存在があることは間違いない。
そもそもの出会いこそ『ベスト・ダム・シング』時にさかのぼるものの、ヤングブラッドやマシン・ガン・ケリー、フィーバー333などの新世代に熱いパンク・スピリットを注入し、極上の作品に仕上げていく近年のトラヴィスにインスパイアされたであろうことは想像に難くない。
アルバムのオープナー「キャノンボール」を、リード曲となった「バイト・ミー」を、タイトル曲「ラヴ・サックス」を聴いてみてほしい。
ここまで激しくアグレッシヴに振り切れ、しかも“f***”を叫びまくるアヴリルなど、今までどこにもいなかったのだ。
原点という言葉が出たところで、ここでアヴリル・ラヴィーンのプロフィールを押さえておきたい。
1984年9月27日に、自身が「小さくて、めちゃくちゃ退屈な町」と語る、カナダはオンタリオ州のナパニーで生まれた彼女は。12歳のころからギターを弾き始め、自ら曲を作ってデモ音源を送るようになる。
マネジメント会社とのソングライター契約を経て、16歳の時に当時アリスタ・レコードの社長だったL.A.リードに紹介され、パフォーマンスを披露したところ、即契約。2002年に、17歳にして世界デビューを飾る。
デビュー・アルバム『レット・ゴー』は、バンド・マナーのオルタナティヴ・ロックやポップ・パンクと、シンガー・ソングライター的な要素が融合し、ヒップホップの隠し味も効いたハイ・スペックな作品だ。
「コンプリケイテッド」「スケ8ター・ボーイ」など楽曲も粒揃いで、日本でも大ヒットを記録した。ちなみに「マイ・ワールド」では、フライドチキンの店でアルバイトしていてクビにされたことなど、ナパニーでの経験が歌われている。この年、初来日。ショウケース要素が強い公演で、会場は東京の赤坂BLITZだった。
2004年には、一転して内省的な美しさを醸す2ndアルバム『アンダー・マイ・スキン』をリリース。「ドント・テル・ミー」「マイ・ハッピー・エンディング」など、ダーク・トーンのメランコリックなナンバーが並ぶ作風について
とアヴリル。
デビュー作でのいきなりのブレイクによるプレッシャーも、少なからず背負っていたようで……。
自分の中で何か変わった? という質問には、こう答えた。
結婚の翌年の2007年には、夫のデリック・ウィブリーがプロデュースとギターで、トラヴィス・バーカーがドラムで参加した3rdアルバム『ベスト・ダム・シング』をリリース。
今度はガーリーでチアフルなポップ・パンクで、思い切りはっちゃけてみせるのだった。ヴィジュアル的なインパクトもあり、一般的には本作のリード曲「ガールフレンド」が、アヴリル・ラヴィーンの代名詞的なナンバーとして位置づけられているのではないだろうか。
さて、時代は急速に移り変わっていて、2020年代ではちょっと考えられない事実がある。ここまでの3枚のアルバムのトータル・セールスは、なんと4000万枚を超えている。さらに日本においては、3作連続ミリオン・セールス(100万枚超え)を達成。まさに前人未踏の記録を、アヴリル・ラヴィーンは打ち立てているのだ。
来日公演の規模も作品を追うごとに拡大し、『レット・ゴー』を携えての正式な来日公演では日本武道館、『アンダー・マイ・スキン』時には日本武道館、大阪城、横浜アリーナほか、そして『ベスト・ダム・シング』の時には東京ドームのステージにも立っている。
その間に女優デビューも果たすと、ハリウッドに豪邸を手に入れ、自身のファッション・ブランドや香水もプロデュース。また、重い病気や障害を抱えた子供たちを支援するため、<アヴリル・ラヴィーン・ファンデーション>を設立する。
前回大会のトリノ・オリンピックの閉会式でパフォーマンスしたアヴリル・ラヴィーンは、続く地元カナダでのバンクーバー・オリンピック閉会式でもパフォーマンス。
映画『アリス・イン・ワンダーランド』主題歌に書き下ろした新曲「アリス」の発表などを経て、
離婚後の2011年に4thアルバム『グッバイ・ララバイ』をリリースする。
という本作では、またしても一転、シンガー・ソングライターとしての魅力が全面的に打ち出されている。
チャド・クルーガー(ニッケルバック)と電撃結婚した2013年には、チャドも参加した通算5作目にして初のセルフ・タイトル・アルバム『アヴリル・ラヴィーン』をリリース。
今度はハード・ロック、エレクトロ、インダストリアルと振れ幅の広い楽曲群を見事に歌い切り、マルチなヴォーカリストぶりを存分に発揮する。<♪ミンナサイコー、カワイイ>と日本語で歌われる、その名も「ハローキティ」と題された楽曲のミュージック・ヴィデオは、日本で撮影された。
離婚後の2015年、自身がライム病で一時は寝たきりだったことを雑誌で告白する。
2018年には、オフィシャル・サイトにファンに向けたオープン・レターを公開。2014年のワールド・ツアー時から体調不良に苦しみ、ライム病と診断されて闘病していたこと、闘病中にはビリー・ホリデイやアレサ・フランクリンを聴いていたことを綴り、以降も音楽を続けていくことを誓った。
そして2018年、6thアルバム『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』をリリース。
病に侵され苦しみながら書き上げたタイトル曲は、掛け値なしにアヴリル・ラヴィーンの表現がネクスト・レヴェルに達したこと伝える傑作バラードだ。
この曲が象徴するように、本作では崇高とも神聖とも形容したくなるなるほどのソウルと生命力を宿した歌声が、存分に堪能できる。
2019年には約5年ぶりとなる来日を果たし、プレミアム・イヴェントを開催。
アヴリルの大ファンだという中条あやみが、『レット・ゴー』から『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』までの作品にまつわるコスチュームをまとった、スペシャル・プロモーション映像も話題を呼んだ。
考えてみれば、本人の言葉にもある通り、アヴリル・ラヴィーンは同じようなアルバムを世に送り出していない。
それでも『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』から『ラヴ・サックス』へのギャップに、驚いている人は多いのではないだろうか。かく言う僕もそうだ。
ここで僕は、自分の誤りを正しておかなければならない。本人自ら「ルーツに戻った」と言っているので、やはり原点回帰作という位置付けが適切なのだろう。
個人的には、アラニスはさておきグー・グー・ドールズにパンクの要素は見出せないし、デビュー時にはフェイス・ヒルやディクシー・チックス(現ザ・チックス)もお気に入りに挙がっていたので釈然としないところはあるのだが、何はともあれアヴリル・ラヴィーンの現在地は、紛れもなくポップ・パンクであるということだ。
人生は、短い。あまりに濃密な20年を、脇目も振らず自身の信じるままに駆け抜けてきたアヴリル・ラヴィーンは、そのことを何より知っているのかもしれない。
多くのファンとともに、来日公演のいち早い実現を願いつつ、最後は今回のインタヴューのこんなやり取りをご紹介して、締めさせていただきたい。
20年前のデビュー時のあなたが、現在のあなたに声をかけるとしたら、何と言うと思いますか?
※文中のコメントは、筆者が2002年、2004年、2007年、2010年、2013年、2018年、2022年に行ったインタヴューからの抜粋です。
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デビューから20年、原点回帰にして最新のサウンドを打ち出したアヴリル・ラヴィーン。ポップで爽快なサウンド&ポジティブなメッセージが皆さんの心に届きますように!