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「境界線(回答編)」

はじめに(出題編・回答編共通)


以前こんな記事を書いていました。

「日記を書くようにセトリを考える」。

今回は、プレイリストを通して1つの物語になるように作ってみました。つたないかもしれませんが、コロナ禍の現在を生きる2人の大学生の物語になりました。

今回は「境界線」というタイトルで、(出題編)と(回答編)の2部作になりました。こちらは(回答編)のプレイリストになります。

音楽に、感謝を込めて。


今回のプレイリスト

今回は、こんなプレイリストを作ってみました。



Prologue(生きていたんだよな)


(2021年4月1日)

1月15日
新型コロナ 国内の感染初確認から1年 収束兆し見えず

2月23日
WHO 新型コロナ変異ウイルスは「100超の国や地域に拡大」

3月5日
首都圏1都3県の緊急事態宣言 2週間延長決定 菅首相

NHK 特設サイト 新型コロナウイルス コロナ関連記事全記録より


明ける予感のない雨。

繰り返される社会の歴史。

人間と自然との喧嘩。

報道番組では、一日の感染者数や死亡者数の情報が天気予報のように淡々と流れていく。

そしてまた一つ、どこかで命が消えていった。



1.もっと、ちゃんと言って

(2021年5月)

私はいつものように新聞を読んでいた。

1面から一通り見渡し、ふいに君の名前を見つける。

そこで、君が飛び降り自殺で亡くなったことを知った。

「被害者は精神疾患を抱えていたとのことだ。」

感情のない文章は、淡々と事実だけを述べていた。


昨日はなぜか調子が悪くて、何か不吉なものを感じていたのだった。

地震の前に、鯨が打ち上げられているように。

そして、その記事を読んでとてもショックを受けた反面、どこかほっとしている自分もいた。

この感情は何なのだろうか。


私は、彼と同じ大学に通っている。

高校も彼と同じところを出ている。

彼は私とは違うクラスだったので、高校の時はちゃんとした面識はなかったけど、私はあの頃から彼に恋心を抱いていた。

そして、偶然同じ大学に進学することになり、君と関わることができた。

告白まであと一歩、だったのだけれど。。


君のTwitterのつぶやきは昨日を最後に更新されなくなった。

今までのツイートを改めて見返してみる。

君は、ずっと社会や自分と闘っていた。

最後まで、必死に「生きる」ことにしがみつこうとしていたんだね。

遠くにいた君に、私は結局のところ何もしてやれなかったんだと、やるせなくなった。



君がいなくなってしまってから、どれくらいの時間が経っただろうか。

あれから私は違う服を着て、違うご飯を食べて、違う人間になっているのかもしれない。

何一つ生活に不自由はない。

そのはずなのに、君のことを思うといたたまれなくなってしまう。

あの頃の日々が鮮明に脳でリピートされてしまう。


いくつもの命が失われようとも、
君の命に比べてしまったらそんなのらどうでもいいとさえ思ってしまう。

ねえ、君はもう私の前に現れてはくれないんだよね?



2.未だにあなたのことを夢にみる

(2021年6月)

最近じゃ新聞もニュースも同じことしか話さなくなってきた。

今も感染症が世界中に猛威を振るっていて、たくさんの命が失われてしまうかもしれないそうだ。

はじめのうちは、すぐにこんな日々も終わるんだと思っていたけど、

一向に良くなる気配がないんだ。

それどころか、状況はかえって悪化している始末。

私はもうそんな日々に慣れてしまったよ。

感覚がマヒしているのかもしれない。

でもね、そうでもしていないと自分が平然でいられないんだ。




3-4.本当の僕は何者なんだ

(2021年9月)

私には、自分で蓋をしていた記憶があった。

そんなことを、ふいに思い出すタイミングが来る。

あの日、彼のニュースを見る前夜、実はとても不思議な夢を見ていたのだった。

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深夜の新潟。


私はとあるビルの屋上から飛び降りようとしている。

(私、何でこんなところにいるんだろう…)

そして、しばらくすると彼が私のことを見つけ、こちらに向かって走ってくる。

(彼だ、いつぶりだろう…)

彼が屋上にたどり着き、なんでこんなことをしているんだと聞いてきた。

「ねえ、私が何でここにいるか知ってる?」

  (なんでなんだろう・・・)

「そんなの、知らないよ。」

「それはね、君を救うためなんだよ。」

  (どういうことだろう・・・)

「どういうこと?」

「一緒にここから飛び降りれば、君と私は残酷なこの世界から抜け出すこと
 ができる。さあ、手を貸して。」

彼はしばらく思い悩んでいるようだったが、しばらくして決心をしたようだった。

彼は「終わりにしよう」と言った。 

そして、2人は夜に駆けた。 

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地面に落ちる直前で、私は夢から覚めた。

しかし、それは夢というにはあまりにも現実的過ぎた。

彼の手の感触、匂い、全てが「本物」だった。

(もしかして、夢なんかじゃない?)


私はあわててスマホで彼が自殺したニュースを調べてみる。

そこに映し出されていた現場は、昨晩わたしが夢で見ていた場所と全く同じだった。

(今まで映像で現場の様子を見たことはなかったのに…)

あまりの衝撃に、信じられなくて考えないようにしていたけど、あれはただの夢なんかではなかったのかもしれない。

私は、自分の肉体を超越しそうな「何か」を抱えていたことを思い出す。

ひょっとして、私は「生き霊」として彼の元へ行き、彼を屋上から落とさせようとしたのだろうか。

なぜだか、そんな気がしてきた。

自分の中の「狂気」に気づいてしまった。


5.本当はそういうことが歌いたい

(2021年10月)

そうはいっても、それが「本当」なのかは確かめようがない。

私が警察に出頭してあの夢の話をしたところで、警察はまともに取り合ってくれないだろう。

東京にいた私が新潟にいる彼のところに瞬間移動することはできないのだから。

そんなことを思いながらも、時間は今までと同じように流れ続けた。

大学の授業を受け、家庭教師のバイトを続け、普通の生活を続けている。

私は、今まで品行方正に生きてきたつもりだった。

夏休みの宿題だって計画的にこなしたし、

進んでボランティア活動にも参加した。

みんなのために行動したいと思っていたし、みんなの幸せを願っていたはずだった。

そんな自分にも、「狂気」がひそんでいたのだ。

私は自分が怖くなってしまった。

「彼が死ぬことが彼にとって1番幸せなのだ」と少しでも思っていたことが。

それが、残酷なこの世から離れられる唯一の方法だと。


しかし、彼の死は何をもたらしたのだろうか?

マスコミとネットを盛り上げたが、すぐにその熱狂も薄れていった。

人々は次の「エサ」探しに夢中になっている。


私は、彼の家族に合わせる顔がない。


いっそのこと、私も死んでしまおうかと思った。

全ての罪を背負って、あの世に行こうかと。

もしかしたら、彼に会えるかもしれない。


いろんな方法を試してみた。

けれど、何回やっても最後までやりきることはできなかった。


死に近づこうとすると、私の体は「生きたい」と叫んでいた。

自分自身が、生を渇望していることを知った。


やっぱり、今死ぬのは違うのかもしれない。

自分が死んでしまっても、それは罪滅ぼしにはならないのかもしれない。

自分が死ぬまで、この感覚を忘れずに頭の中に入れておくことが最大の罪滅ぼしなのではないだろうか。

そんな気がした。


6.この素晴らしい 煩わしい気持ちを真空パックしておけないもんかなぁ


(2020年5月)

その日、私は君と岸辺に来ていた。

雲一つなく、程よい暖かさが辺りを包んでいた。

君は芝生にごろんと寝そべってみる。

「何寝そべっているのー?(笑)」

「こうしてると気持ちがいいんだ。

終わりのない空を見つめることができる。

嫌なことを空に投げてしまって、君のことだけを考えていられる。」

「それなら、私の方を見ていなさいよ。」

「まあそれもそうだね(笑)」

問題は色々あるかもしれないけど、今は何も気にならない。

ああ、こんな時間が永遠に続くといいなぁ。

しかし、そんなに人生は甘いはずもなく、あの日を再び過ごすことはできなくなってしまった。



7.誰の目にも触れないドキュメンタリーフィルムを今日も1人回し続ける

(2021年11月)

私は、ある恋愛ドラマを観ていた。

そこでは、ある男女の恋が始まろうとしていた。
2人は慣れないながらもデートを楽しんでいる。
これから紆余曲折あるのだろうけど、最終的にこの恋は結ばれることになるのだろうと思う。

この2人の姿を見ていたら、かつて私がそうであった時の思い出が頭に浮かんできた。

君と一緒に歩いた岸辺。

それだけじゃない。

一緒に訪れた喫茶店、美術館、遊園地。

どれもコロナがはやる前の出来事だったけれど、スマホの写真には今も笑顔だった私たちが残っている。

もうあの日に戻ることはできない。

君と思い出を重ねることもできない。

君に謝ることさえできない。

でも、この思い出を知ってるのは私だけなんだなって。

この思い出をよかったと思えて、そしてけじめをつけることが、ある意味彼のためにもなるんじゃないんかなあと、

何をきっかけにそう思ったのかは分からないけど、そんな気がした。



8.だからさ、もういいんだよ

(2021年7月中旬)

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僕は死んでいる。

実体はないが、なぜかまだこの世界にいる。

病気は消えてしまっているし、ピンピンしているが、僕は世界に何一つ影響を与えることはできない。

ただ、傍観者として世界を見ている存在。 


僕は街を歩いている。

1人1人が自分の役割を全うしている。

こうして見てみると、生きているときには気づいていなかったこともたくさんあるみたいだ。

悪いことばかりが起きているというわけでもないんだな。

僕はもう死んでしまったけれど、君には長く生きてほしいな。

僕が生きれなかった分だけ。

そして、どうか幸せになってほしい。

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9.今こそその歌を僕たちは歌うべきじゃないかなあ

(2021年12月)

コロナは、いまだに収束する兆しすら見えない。

いずれかはこの騒ぎも落ち着いてくる時がやってくるのだろうけど、それはいつなのか、見当もつかない。

もう、この非常事態が通常運転の日々みたいになってしまった。


私は、歴史に少し思いをはせていた。

例えば、東日本大震災。

例えば、第二次世界大戦。

例えば、スペイン風邪。

例えば、十字軍遠征。


非常事態は、何度も繰り返されていくのだろう。

あの時、人々は何を思っていたのだろうか。

どうやって非常事態は収まっていったのだろうか。


こんなことを考えていたのは、最近歴史の勉強を重点的にやっていたからかもしれない。

私は教員を目指して教員採用試験の勉強をしている。

今日は、喫茶店「エルマ」で問題集と向き合っていた。

あのニュースの直後はすべてが無気力になっていたけれど、なんとか力をよみがえらせることができた。

それでも、自分の将来を考えると、不安なことばかりだ。

試験に合格することはできるんだろうか。

先生になる資格は、自分にはあるのだろうか。

この重苦しい社会の中で、自分には何ができるのだろうか。


帰り道にSpotifyでシャッフル再生で音楽を聴いていたら、

いつでも微笑みを

と歌う曲に出会った。


10.「何かが終わり また何かが始まるんだ」

(2022年1月)


ついに年が明けてしまった。

就職試験の年がやってきてしまった。


勉強の方は、自分の中では一生懸命やってきたつもりではあったが、まだ不十分なところもたくさんある。

試験本番までに間に合うかどうか、まだ自信は持てない。

でも、それ以上に不安なのは実技の方だ。

今までの人生の中で、試験のほとんどは筆記だった。

実技となると、自分の人間力を試されてくる。


型にはまったことをやるのは得意なのだが、自分自身をアピールするのは、あまり上手な方ではない。

対策は色々やってはいるが、うまくいく自分をまだ想像できずにいた。


人間力といえばーー

私が彼にしてしまったことはもう戻せない。

それはわかっているのだが、

自分が子どもたちに対してちゃんと向き合うことはできるのだろうか。

ふとしたときに、魔がさしてよからぬことをしてしまわないだろうか。


私は、自分の無意識がとても怖い。

自分の意思を超えて何かをしてしまうのなら、それを止めるすべは何もないんじゃないか。

でも、何かやれることもあることもあるんじゃないかと思って、ネットや本で情報収集をしてみた。

テクニックは色々見つかったけど、一番は心の持ちようなのだろう。

私を従えられるのは、最終的には私しかいない。

強い意志を持って、

自分の将来と自分の在り方を自分でコントロールしていかなければいけない。

自分の将来のために。 彼のために。 子どもたちのために。

私は強い決意を胸に、眠りについた。





11.貴方だけ

(2022年3月)

外は少しずつ暖かくなっていき、春の訪れが近づいてきた。

試験対策はまだ不安も多いけど、自分ができることを日々淡々とこなしている。


それでも、たまに彼のことを考えてしまう。

彼は私にとって全てだった。

この世にはもういない彼は、今どこにいて、どんなことを考えているのだろうか。

私には見当もつかなかった。

でも、そのうちきっといい景色を見せてあげるからね。

まだ時間はかかるかもしれないけど、

その時までどうか待っていてほしい。




Epilogue(あなたはそれを見るでしょう)

(2021年 4月〜)

時間は何の影響も受けず、今まで通り淡々と過ぎていった。

そしてついに、試験当日になった。

過去は変えられない。

一度失ったものはもう手に入らない。

でも、未来はまだ決まってない。

私が未来を否定しちゃったら、あるはずのいい未来も消えてしまう。

私は、今自分が守れるものをちゃんと守り抜くんだ。


少し頼りない胸に手を当て、深呼吸をする。

「今日も良い日になりますように。」

私はその足で試験会場に向かった。

*この物語はフィクションです。



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