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日本のアレルギー疾患アンケート調査

今日は、アレルギーポータルに掲載されていた、2022年度アレルギー疾患に関するアンケート調査について書きます。


1. アレルギーポータルで発見

先週、久しぶりにアレルギーポータルに行ってみました。このサイトは、アレルギー疾患対策法等を受け、国民がアレルギーに関する情報にアクセスできるよう作られたものです。厚労省が補助し、日本アレルギー学会が運営しています。

そこで「2022年度アレルギーに疾患に関するアンケート調査」の調査結果を発見、見てみました。

2. 調査について

  • 厚生労働行政推進調査事業「アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究班」による調査

  • 目的:全年齢層におけるアレルギー有病率と個々の合併率を明らかにし、アレルギー疾患の現状を把握すること

  • 実施時期:2023/1/6-2/18 ウェブで実施

  • 対象者:7都道府県 77病院のアレルギー疾患医療拠点病院の職員とその家族、24,444人

  • 調査内容:様々なアレルギーの有病率、アナフィラキシー既往率

  • 質問形式(食物アレルギー)

    •  これまでに医師から食物アレルギーと診断されたことはありますか。

    • 今現在、除去している食品は何ですか。また、どのような症状ですか。

    • 「診断されていないがそう思う食品」は何ですか。除去している理由は何ですか。

    • 今現在は食べられるが、除去していた食品は何ですか。

3. 食物アレルギーの調査結果

  • 全年齢の既往を含む有病率は約16%。その内、

    • 診断され寛解しているが、約5%

    • 診断はないがそう思うが、約7%

    • 診断されているが、約4-5%

  • 幅広い年齢層に分布。小児だけでなく、成人にも多く見られた。

  • 女性は20-24歳、男性は15-19歳がピーク。その後緩やかに下降傾向。アメリカの世代ごとの有病率の変化の傾向と似ている。

  • 成人は、女性の有病率が男性より高い。これも、アメリカの有病率と同じ傾向。

  • 原因物質:全年齢の1-5位は、キウイ、エビ、メロン、カニ、モモ。「診断されていないが、そう思う」人の割合が、半数以上だった。

  • アナフィラキシー(医師に診断されている): 全体で1.8%。小児期は男性、成人は女性に多かった。 原因(全年齢)は、1位が食品(60%)、2位が薬品(24%)。

4. 感想

まずは、成人を含めた様々なアレルギーの有病率の調査がやっと日本でも始まって、本当に良かったと思いました。大きな進歩だと思います。

成人の食物アレルギーの有病率も、今までの推定より、かなり高そうだということが示唆され、今後、治療体制強化に結び付くといいなと思います。

また、花粉症に加え、喘息・慢性蕁麻疹・食物アレルギーを成人発症した私にとっては、アレルギー疾患全体の有病率を把握し、成人の併発のメカニズム等、今後の治療研究に繋がるといいなと思います。

5. 収集方法についての疑問

その反面、アンケートの収集方法について、疑問が残りました。

a. 誰から集めるか

国民の全世代のアレルギーの有病率の現状把握が目的の調査で、アレルギー拠点病院の職員と家族と絞ったデータ収集は、適切なサンプル選択だったかという疑問が残ります。

アレルギー拠点病院の職員・家族というグループは、一般人とアレルギーの知識レベルも、医療へのアクセスも大きく違う。一般人より受診率・正診率・有病率が有意に高くならないのだろうか?

収集した年齢層の分布も、人口分布より0-10歳の割合が大幅に高かったり、男女比も女性が男性より29%高い。集めたサンプルデータから、人口全体の有病率を推定する上で、どのような補正をされるのかなと思いました。

データ収集について、報告書内に次のような記載がありました。

個人情報にアクセスする難しさから紙ベースでの全数調査を実施することは極めて困難であり、本研究手法は実行性の点から今後も利用可能なものと考える。

サンプルの適切性より、収集の実効性を優先されたと推測されます。もっと一般国民を代表するように、ニュートラルに、幅広く収集する方法は難しかったのでしょうか? 

アメリカでも、CDCがアレルギーの有病率調査を行っている。日本で毎年行われている国民健康調査に追加するとか、また、デジタル庁の協力でWeb調査で、個人情報保護法の問題クリアーできるアンケートにする等はできないのでしょうか? 

b. 役所と学会・医師の役割分担

アレルギーに限らず他の疾患でも、国民の疾病統計業務は、誰がどのように行っているのか疑問に思いました。厚労省内に疾病統計の専門部隊はいないのかな? コロナの時に問題になったけど、感染症以外は改善されていないのだろうか。本来、役所が執り行うべき疾病統計業務を、臨床・研究で忙しい医師やアレルギー学会に依存しすぎなのでは?

厚労省・消費者庁等が補助金を出して、医師が学会の権威の及ぶ範囲で、何とか調査に協力してもらえる「つて」を駆使しながら調査する。国としての国民の疾病統計のデータ収集の方法が、これでいいのか?と疑問が残ります。

今回の調査も、役所に把握する機能がなく、学会の影響力の及ぶ範囲内のアレルギー拠点病院の職員・家族を、データ収集対象とせざるを得なかったのでは、と推測します。

消費者庁の3年毎の食物アレルギーのモニタリング調査でも、同じ問題が起こっているように思われる。学会経由、アレルギー専門医に収集チャネルを頼る形で、結果的に小児に偏る収集になってしまい、成人のデータ収集やモニタリングが不十分な可能性が高い。

学会・医師が研究目的でする調査と、国民の生活や医療政策を決定する為の、公的な疾病統計のデータ収集は、目的も主体も収集方法も違うはず。

税金を投入しての公的な疾病統計、法律を受けての有病率調査等は、本来は役所主体で収集し、一般国民を反映した統計となるよう、中立的で、偏りのないニュートラルな収集方法で進めるべきと思います。

学会・医師は、医療的・学術的なアドバイスをしたり、分析を手伝ったりという役割分担が適切だと思います(希少疾患のように、医師主体でないと症例を把握できない特殊ケースを除き)。

収集計画を立て、複数の省庁から、局所的な調査が複数走らないよう整理する。税金が効率的に使われるよう、調査の費用対効果等を管理するのも、CDCのように役所の役割だと思います。

医師不足・人口高齢化の加速する日本では、疾病統計は今まで以上に大切になる。国が現状を把握し、医療対策をタイムリーに打つ、優先順位をつけてリソース配分する必要性が、益々高まると思われます。

アレルギー疾患対策基本法制定から10年。最初に把握すべき、有病率データの収集で苦労している状態に、一人の国民・患者としては、かなりもどかしい思いです。

c. 学会の壁を超えた連携

問題の根底に、日本のアレルギー問題を、アレルギー学会の影響力の及ぶ範囲で把握し改善しようとしていないか、という疑問があります。日本のアレルギー問題は、アレルギー学会の「影響力の及ぶ範囲 (Sphere of Influence)」外で起こっている事も多く、アレルギー学会内でやりくりするのが、そもそも無理だということに、気付いて欲しいです。

成人は小児と違い、幅広い診療科でアレルギーを診てもらう。他の学会や診療科の医師達と一緒に、調査・ガイドライン作り・情報発信・医療関係者の教育強化等をしないと、成人アレルギー治療の改善には有効に効いてこない。アレルギーの専門医と非専門医の垣根を、もっと打ち破っていかないといけないのでは? 

私見ですが、専門医・非専門医を問わず、最初の受診窓口になった医師が誰でも、アレルギーを適切に診断でき、早期に治療に繋げられること、そして難しい症例は遅滞なく専門性のある医師に紹介され、早期の診断・治療につながる事が、一般国民や患者さんから求められているゴールの一つなのでは? 

今回の調査には、小児アレルギーの医師だけでなく、様々な診療科、成人のアレルギーの医師も参加されて、その結果、疾患の幅も年齢層も広く把握することができてよかったと思います。 

今後行われる、全世代が対象のアレルギー調査は(消費者庁の食物アレルギーモニタリング調査も含め)、ぜひ同じような体制で進めて欲しいです。ニュートラルで偏りの少ないデータで、全体を把握した上で、国のアレルギー対策として、どこを優先的に改善・強化するか、判断して頂きたいと一国民として思います。

そして、アレルギー学会自体も、日本小児アレルギー学会と日本アレルギー学会があります。

患者や国民の視点では、一本化された組織の方が、小児から成人までカバーされメリットが大きいように思います。専門医にとっても、幅広い年齢層の症例に触れる機会や視野を持てたり、専門は違っても、良いやり方を学び合えるメリット、コラボによるシナジー効果もありそうですが・・・

小児科医の減少、成人発症のアレルギー患者の増加等で、特に地方では、1人の医師が、小児・成人患者の両方、複数のアレルギー疾患を今よりフレキシブルに診れる体制が必要になってくると思われます。そういった、医療の需給ギャップを検討をしていく上でも、学会が一つの方が、足並みを揃えて良い対策が打てそうだと思います。

d. 患者さんからのデータ収集

食物アレルギーに話を戻します。今まで、日本の食物アレルギーの有病率(全年齢)は1-2%と、低く推定されすぎていた事は明らか。今まで把握できていなかった患者さんが多くいると思われる。

次に出てくる疑問は、把握されていなかった患者さんの特性、どこでどういう治療を受けているのか、困り事が起こっているかどうか。

地方では成人を診てくれる病院がない、何件も渡り歩いた、小児科に行っても断られて諦めた、予約が数ヶ月取れない等は、成人の食物アレルギー患者さんからはよく出てくる問題。また、小児から成人に移行期の患者さんには、違った問題が起こっている可能性もある。患者さんのアンケートや治療できる病院の分布等も見ながら、データで問題点をはっきりと現状把握できるといいと思います。

こういう分析に発展していく際にも、アレルギー拠点病院の職員からのサンプルデータでは、一般人を代表できない。アンケート調査は継続されるようですが、次の調査の際、例えば医療へのアクセスについてや、発症から診断までの期間等の質問を追加したくなっても、一般人と大きく違うサンプルの集団で、意味がない、深堀りできない。

やはり、有病率のようなデータは、特殊な集団からサンプルを収集するのではなく、できるだけ一般の国民を代表できるような人たちから、データを収集するべきだと思います。

患者さんから見たアンメットニーズも現状把握され、医療の現場で有効な対策に繋がるといいと思います。

6. アニサキスの方針を話すべき

調査結果の食物アレルギーの原因物質が、甲殻類や魚、でも診断はまだ出ていないと回答されている方の中に、アニサキスアレルギーの方が潜んでいるかも、と思いました。

寄生虫アレルギーのアニサキスを、食物アレルギーの調査上どう扱うのか、厚労省・消費者庁・農林水産庁・アレルギー学会等の関係者で、まず方針を話し合った方がよいと思います。

患者・消費者の視点では、食物を食べて、最悪の場合にはアナフィラキシーショックになるアレルギー。でも、医師・研究者の学術的な視点では、寄生虫アレルギーで、狭義の食物アレルギーではないので、分析から常に除外されている。

アニサキスは、救急受診の成人アナフィラキシーの原因のトップクラスになりつつある。アニサキスも食物アレルギーの分析に一緒に加えて、現状把握や注意喚起をした方が、患者さんや消費者的にはいいと思うのですが、何かデメリットがあるのでしょうか? 

命を落としてしまう患者さんが出てからでは遅いので、分析から除外せず、適切な注意喚起をして頂きたいです。

先週、初めて消費者庁と厚労省の国民の声窓口に電話しました。アニサキスアレルギーの注意喚起と、入院食・介護食のアレルギー対応(アニサキスに限らず全般的に)をお願いしました。

時間がかかるのに、診療報酬が低すぎて、アレルギー専門医のなり手がいないという問題。食物アレルギーに関しては、成人を診れる専門医が、日本で20名程度かもしれないという、難病のような問題。

成人患者は小児の患者さんと違って、治療経験や意見をはっきりと話せます。医師だけでなく、もっと成人患者が一緒になって、国や厚労省に働きかければ、改善に繋がりやすいかもしれません。国のアレルギー対策の検討に、患者が参加できる機会を増やして欲しいです。

いろいろぼやきましたが、アレルギー疾患について、現状把握した上で、適切な策を考えていこうと、取り組んで下さっている方々に、本当に感謝します。

ブログの次の記事はこちらです。


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