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成人アレルギーの診断が難しい理由
成人アレルギー(喘息・食物)は、どんな風に発症するのか、あまり情報がないんですよね。以前のブログで発症時のことを書いたのですが、今日はもう少し詳しく書きたいと思います。
そして、成人のアレルギー診断が難しい理由を、一人の患者の視点から考えてみたいと思います。
1. アレルギーとは思わず循環器内科へ
私は発症当時、アレルギー(喘息・食物)という認識は全くありませんでした。最初の自覚症状は、血圧上昇(上が140以上)、動悸と頻脈(100)。循環器の症状だったので、検査もできる、近隣の中規模の病院の循環器内科を受診しました。
心電図、血液検査、心エコー検査をして、問題なし。直前に膀胱炎・腎盂腎炎のような症状が続いたので、自律神経が乱れて血圧が上がっているのでしょうという診断、アーチストという血圧を下げる薬を処方されました(喘息に禁忌のお薬でした)。
薬を飲み始めて2週間後、夜中に呼吸が苦しくなり、とても寝ていられない、ヒューヒュー音も出た。
上体を起こして、朝まで何とか耐えて、朝一番で予約なしで再診。2時間半待って3分の診察。「自律神経で血圧乱れるのはよく分かんないんだよね。薬変えておきます」。新しいお薬45日分が出て終了。
2. 最初の大学病院での医師とのやり取り
変更された高血圧の薬を飲んだら、血圧が下がり過ぎ(上が70-80台)、ふらふらで更に具合が悪くなった。呼吸困難で眠れない日も週に3-4日継続。
大きな病院で、循環器でない可能性も診てもらえる所に行かないとだめだと思い、近くの大学病院の総合内科を受診することに。
受診後、血圧の薬は中止に。発症から1ヶ月後のこの頃から、アレルギーやアナフィラキシーの症状が全部揃って出てきました。
循環器∶血圧上昇(上が140、最初の2ヶ月のみ)、血圧低下(上が70-80、夜間)、頻脈
呼吸器∶SpO2低下、夜間起座呼吸、ヒューヒュー音、3分歩いたら息苦しくなって座り込む
消化器∶腹痛、膨満感、下痢、体重減少(半年で12kg)
皮膚粘膜∶顔・舌・喉・手の腫れと紅潮、飲み込みにくさ、むせる、声がれ、舌大きくなり歯に当たり痛い
一般的な皮膚表面にボツボツできる蕁麻疹は、発症後3ヶ月目に少し出始めました。
私の場合、皮膚の深い部分や粘膜が腫れる、血管性浮腫の方がより強い症状でした。舌から腸まで腫れている、という感じ。
目も、中から押されるような頭痛を感じた翌朝にバーンと腫れる。試合後のボクサーみたいな顔。瞼も動かしにくく視野も欠け、外出できない事がよく起こるようになりました。
手の腫れはほぼ毎日、赤い水風船のよう。結婚指輪や時計も1年間つけられませんでした。足指の腫れは発症から5ヶ月後に遅れて始まりました。唇もたまに腫れて、感覚が鈍り、上手く口を閉じられませんでした。
顔や手足が腫れる直前には、皮膚表面がチクチクする感じ、鼻先や耳奥がムズムズする感じがありました。
これだけのアレルギー症状が揃っていて、医師には全部伝えましたが、診断できなかったんですよね。
話は戻ります。最初の大学病院では8ヶ月通院。総合内科では全く診断がつかず。自分でアレルギーや血管性浮腫を疑い、皮膚科に紹介を依頼。皮膚科で、特発性血管性浮腫の診断。アニサキスアレルギーと喘息は、他の大学病院に転院するまで8か月間、診断がつきませんでした。その時の医師とのやり取りです。
「頻脈・動悸・血圧不安定なのは、自律神経失調症なのでは?」
「ストレスで胃腸が弱っているのでは?」
「腹痛やお腹が腫れるのは、便秘なんじゃない?」
「赤く腫れたり、手足がむくんだり、動悸・頻脈は、更年期じゃないの?」
「病院で測ったSpO2は問題ないので、呼吸器内科には紹介できません」
「食物アレルギーの場合、食べてすぐ症状が出ます。時間がたって症状が出ているので、食物アレルギーではない」
「アニサキスの血液検査もしたけれど、擬陽性でアレルギーではないです。他も全部陰性なので、食事は心配せず食べていいですよ」
「特発性の慢性蕁麻疹です。慢性蕁麻疹の70%が原因不明で分からない事が多い」
「夜間の起坐呼吸は、冠攣縮性狭心症が原因かもしれない。ニトログリセリン出すので、発作時に試しに飲んでみて」
呼吸は苦しくて眠れない、SpO2は週2-3回は95%以下、お腹は痛くて下痢、舌も喉も目も腫れている。その状態で、8か月間、医師とこのやり取りを続けるのは、本当に拷問のようにつらかったです。
SpO2が頻繁に低下し呼吸苦が起こるので、もしもの時のことを、家族に初めて頼みました。友人にも家族の連絡先を伝える程、症状は深刻でした。でも、医師の診断や治療には繋がらなかった。
「ここで負けたら終わりだ」。何とか力を振り絞り、診療ガイドライン等を見ながら、自分で突破口を見つけようとしました。
3. 呼吸器内科クリニック受診も、診断つかず
大学病院の総合内科初診から6週間経った頃、何の診断にも繋がらないので、自分で調べ喘息を疑い、近くの呼吸器内科クリニックも受診。
呼気NO検査で22ppb、喘息かどうかグレーゾーンだけど、取り合えずレルベア(喘息用長期管理吸入薬)試してということで、吸入開始。
再診時、呼吸器の症状(呼吸苦・SpO2低下)と皮膚粘膜症状(顔・手・喉・舌の腫れ・紅潮)がいつも同時に起こる事を伝えました。喘息なら、どうして皮膚粘膜症状が出るのか聞きました。分からないとのことで、更年期用の漢方薬が追加されました。
次の再診時、症状が悪化している事を伝えると、喘息ではないかも、大学病院で診てもらってということで終了に。
その先生も、中規模の病院の呼吸器内科でトップをされた後に開業され、地元の医師向けに喘息のセミナー等をされている、呼吸器専門医・総合内科指導医の先生でした(アレルギー専門医ではない)。それでも、成人の喘息や食物関連アレルギーの診断は難しかった訳です。
念の為、婦人科で更年期かどうかホルモン検査もしてもらい、全く問題なし。腫れも更年期の出方と全然違うのにね、と言われました。
中年女性の不調と言えば、何でもまず更年期が疑われる。合計3名の男性の医師に更年期を疑われました。
大学病院でも、中年女性の更年期に多い、冠攣縮狭心症は疑われても、喘息や食物アレルギーは疑われませんでした。喘息の方が発症率は高いのに。
更年期とアレルギー疾患の鑑別方法も明確にした方がいいと思います。診断がつかない不調を、すぐに更年期と片付けられてしまう。診断・治療が遅れ、患者は不調が続き、つらい思いをします。
成人の食物アレルギーは、日本でもアメリカでも、女性の方が発症率も高そうなので、注意が必要だと思います。
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4. 振り返り
循環器内科で最初に処方された、アーチストという薬。後で調べたら、喘息の人には「禁忌」の薬でした。その薬によって、呼吸困難が悪化した可能性があるのかなと、推測します。
この循環器内科の再診時や、大学病院の総合内科で、喘息やアレルギーの可能性が疑われて、呼吸器内科やアレルギーを診る診療科に院内紹介してもらっていたら、長期間苦しまなかったと思います。
特に大学病院の救急兼務の総合内科で、喘息も食物アレルギーも鑑別にあがらないというのは、かなり問題だと思いました。救急でアレルギーが診断できないのは、命に関わる。
私の場合は、喘息、食物・食物関連アレルギー、血管性浮腫が併発したので、少し厄介なケースだったかもしれません。
ただ、素人の私でも、日本内科学会の呼吸困難の日本の起こる疾患のリストや、日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインを読んで、「喘息、食物アレルギーによるアナフィラキシー、血管性浮腫の可能性があるのでは?」と自分で疑うことはできました。
ガイドライン通り素直に進めば、正しい診断に至る可能性が高い。すごく難しい病気ではないのに、なぜ一般の医師の鑑別にあがってこないだろう。
結局、二次救急の中規模の病院、大学病院、呼吸器クリニックの合計6名の医師が、診断がつかなかった。
循環器、呼吸器、総合内科・救急、皮膚科、どの科でもだめだった。何度も診断に繋がる機会があったのに。
ということは、特定の医師個人の診断能力や技術の問題ではないと思います。
5. 診断できない理由
なぜ、成人のアレルギー診断が難しいのか、自分なりに原因を考えてみました。
a. 非特異的症状、成人の鑑別疾患の幅が広い
アレルギーで出る症状が、他の病気でも起こり得る。その上、中年期の成人は、鑑別しなければいけない病気の範囲も広くなる。患者本人・患者の家族・医師も、アレルギーを最初に疑う可能性が、小児より低くなるのでは?と推測します。
小児の場合、蕁麻疹・下痢・呼吸困難の症状が出て小児科に行けば、アレルギーを疑われる可能性が高いと思います。私が疑われた更年期、心不全による起座呼吸、冠攣縮狭心症は最初に疑われないですよね。
成人の場合、蕁麻疹が出てなければ、アレルギーを疑われないことが多いのでは? そして、その診療科でよく診る病気(例 循環器だったら高血圧、心不全、狭心症等)が、まず候補に挙がってくる。検査で異常がなかった場合、アレルギーが次の候補としてあがらず、「ストレスでしょう」「更年期でしょう」となり、診断がつかないという事もあるのかな、と推測します。
いきなり更年期や不定愁訴等に診断が飛んでしまう前に、アレルギーや他の鑑別疾患が検討されるステップが入るといいですよね。そのもう一歩に繋がる為には、何が必要なんだろう?
例えば、私のような中年期の女性が、血圧上昇・頻脈・呼吸苦等で、循環器・呼吸器内科を受診するのは、珍しくないと思います。
循環器・呼吸器の病気の検査が終われば、自分の専門範囲の診断は終わった、という感じなのでしょうか?
症状から原因や病気を絞り込むというより、その診療科で頻度の高い病気の検査を一通りやって、異常がなければ、病気でないというプロセスのように、私は感じました。
アレルギーが原因で、循環器や呼吸器の症状が出て受診している場合も、その診療科の診療範囲内という意識は、そもそもないかも、と感じました。だから、アレルギーが鑑別候補として挙がってこないのでは?
アレルギーが疑わしい患者さんを、正しくスクリーニングして、専門医に紹介するステップまでが、最初に診察した非専門医の役割と意識付けられたらいいのでは?と思います。
「こんな症状の、隠れ成人アレルギー患者さんに要注意」キャンペーンをやったら良さそう。
成人がよく受診する診療科の学会と連携して、成人アレルギーの診断見逃しを防ぐための、注意喚起が必要かもしれません(希少疾患で診断がつかない時に行うのと、同じようなアプローチ)。
せめて喘息については、呼吸器専門医でない一般の医師であっても、症状からを喘息を疑える状態であって欲しい。
b. 幅広い診療科での非専門医の診察
成人の場合、幅広い診療科で非専門医が最初の受診窓口の可能性が高いと、正しく診断できなくても、仕方ない部分もあると思います。でも、アレルギーの専門性を補完する方法はあると思います。
大きな病院なら、他の診療科にアレルギー専門医がいる場合も多い。原因不明、診断がつかない場合、院内紹介でそのアレルギー専門医のアドバイスを受けたりという事は、できないのかなと思います。
会社の環境であれば、難しい問題で行き詰まったら、他の部署にもお願いして、アドバイスしてもらう。問題が起こっているのに、いきなり異常なし、終わり、とはならない。各自が自分の専門性を提供し、助け合って一緒に問題を解決する。医師の世界は違うのでしょうか。
例えば、私が最初に行った大学病院には、総合内科と皮膚科にはアレルギー専門医はいなかったけれども、呼吸器内科・耳鼻科・小児科には専門医がいました。院内紹介で連携すれば、早期にアレルギーの診断がついた可能性もあったのでは?と思います。
私の場合、呼吸器内科に何度も紹介を頼みましたが、断られました。皮膚科で呼吸苦の診断はできない。皮膚科で特発性血管性浮腫の診断確定前に、呼吸器内科のアレルギー専門医へ院内紹介し、アレルギー専門医の知識や能力をもっと有効活用すべきだったのでは、と思いました。
それから、アレルギーを見逃してしまったり、誤診しても、気づかない医師も多いのでは?と推測します。
私の場合、診察した6名の医師の内、紹介状を書いてくれた最後の1名以外には、喘息やアニサキスアレルギーだった事は伝わっていないと思われます。
何らかのフィードバッグ・ループが出来ればいいのにな、と思います。誤診を続けたい医師はいないし、アレルギーだった事が分かれば、次は気をつけますよね。
医師にとっては、誤診は知りたくない事実かもしれない。でも、国としてアレルギーの法律まで出来て、対策強化をしている。アレルギーの誤診が分かり、次の診断に活かしてもらう事も必要なのでは? 医療費や税金の無駄遣い削減にもなる。マイナ保険証で、そういう仕組みはできないのかな?
c.「食物アレルギー=小児」診断バイアス?
非専門医の間では、成人発症の食物アレルギーは発症頻度が低いと思われているのでは? 今まで出ている統計が、小児の食物アレルギーの発症頻度を強調するあまり、成人の診断にバイアスをかけてしまい、鑑別に挙がりにくくしている可能性もあるのでは?
もしそうなら、医師コミュニティ内で、成人発症のアレルギーについて、もっと注意喚起してもらう必要があるかもしれません。
d. 活動範囲が広く、原因を絞り込みにくい
アレルギーが疑われても、成人は活動範囲が広く、アレルギーの原因探索の範囲も幅広い可能性もある。
仕事・趣味・食生活・住環境等、高度な探索技術や経験、長い問診時間が必要な事も多いと思われます。
制限のある診察時間内に、原因にたどり着けず、特発性・原因不明となってしまうケースも多いのかな、と推測します。
非専門医の視点に立てば、こういう様々な条件下で、成人の食物・食物関連アレルギー・喘息を鑑別に挙げ、正しく診断するのが難しい状況にあるのかな、と推測します。
6. どうすればいい?(私見)
a. アレルギーが鑑別にあがる事をまず目指す
非専門医がアレルギー疾患の可能性がある成人を診察する際、アレルギーが鑑別にあがってくる状態を、まずは目指さないといけないのではないかと思います。
そのためには、非専門医から「何がアレルギー疾患を疑いにくい原因になっていると思うか?」「どういう支援が必要か?」等をヒアリングやアンケートで聞いてみてはどうでしょうか?
また、成人アレルギーの患者さんからのアンケートで、以前に受けた他の診断名・診療科名、受診した病院数、発症から診断までの期間等のデータが集められるといいですよね。
b. 「診断」の品質の現状把握、必要な品質改善へ
そういった現状把握をすると、アレルギー診断という医療サービスの品質が、客観的にどういう状態か認識され、必要な改善につながりやすいと思います。
また、アレルギーとの鑑別が難しい病気が特定されれば、そこに焦点を当てた詳しい鑑別方法を非専門医と共有し、正診率を上げることも可能かもしれない。
c. 品質・業務改善の専門家も必要かも
品質の改善は、エラー・ばらつき等の現状把握、要因分析、そして根本原因に効く改善策を入れていくという基本ステップを踏めば、改善が可能。サービスの品質改善、診断学の専門家等を入れて、分析をしてみるのも一つかもしれません。
そして、改善策が決まり導入する際には、是非、Acceptability(受け入れやすさ)にも気を配って頂くとよいと思います。
改善効果(Impact)= 解決策の質(Quality)x 受け入れやすさ・実効性(Acceptability)
アレルギーポータルの医療従事者のページに、長いPDFをペタっと貼るだけだと、Acceptabilityが上がらず、改善効果に繋がりにくい。PDFの中身はネット検索でも、ヒットしにくいです。
例えば、ガイドラインよりも踏み込んだ、成人発症のアレルギーの特徴や実践的な鑑別のコツをまとめたチェックリストを作る、問診を再現したビデオを作る、ケーススタディ式のオンライン研修を実施する、Doctor-to-doctorの相談窓口を作る、他の学会とコラボで診断見逃し撲滅キャンペーンをするとか。
診断プログラムやAIの活用、効率的な事前問診の仕組みなど、限られた診察時間で正診率を上げるための、業務効率改善ツールも必要かもしれません。
成人アレルギーの最前線にいる非専門医にも、武器になる実践的な知識やツールを提供し、興味を持って積極的に学んでもらいながら、全体の診断の質を上げていく必要があると思います。
d. 役割の見直し・明確化
アレルギー専門医の役割の見直しも必要かもしれません。海外のように、難しいケースの診断、急性期の治療は専門医が担当。その後は、非専門医のかかりつけ医に逆紹介し、専門医がいつでも相談に乗れる形で後方支援する等。専門医の限られた時間を、より緊急性やリスクの高いものに集中させる必要もあるかもしれません。
拠点病院で成人食物アレルギーの診察予約が4ヶ月先まで取れないといった問題も解決する必要があると思います。
海外で行われているように、アナフィラキシーや喘息発作を併発していないか等、予約時に看護師さんが確認するようなトリアージも必要かもしれません。また、一般の企業で普通に行われている、業務改善やオペレーショナルマネージメントの専門家を入れての、客観的な業務の見直しが必要かもしれません。
非専門医の役割についても同様に、今後のアレルギー医療の中でどういう役割を果たしてもらいたいのか、もう少し明確化する必要があるかもしれません。
最初の受診窓口で、アレルギーの可能性が疑わしいケースを正しく鑑別でき、必要に応じて専門医に繋ぐ役割を、しっかりと担ってもらうのが、まず大切なのでは、と思います。
その役割を担ってもらう為に、必要な支援は何か、非専門医の現場の困りごとは何か等、非専門医の視点も積極的に取り入れる事も、大切かもしれません。
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