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菜の花雛
このお雛様、珍しいお雛様だと思いませんか?
そう、菜の花の精のような、菜の花雛なのです。
実はこのお雛様、人形作家だった母の作品で、自宅に残っている数少ない作品の一つです。
この菜の花雛は、木彫彩色という手法で作られた伝統工芸品です。
木彫彩色人形について
この手法は人形作家平田郷陽の流れを受け継いだもの。桐の木を小さく切り、頭部および体の各部分を丁寧に彫刻します。この雛人形は、手や足は一体となっているので、頭部と体に分けて作られました。
彫刻刀で木が丸くなるように削り、やすりで磨き上げることで、滑らかな丸い顔になって行きます。この工程は、桐塑という桐の粉を固めて作る手法と異なり、はるかに力や根気の必要な作業だと思います。
この上に胡粉を塗る為、完成作品より深く掘り込むという工夫も必要になります。着物を着ている身体の部分も彫り彩色します。かわいい菜の花も一つひとつ、彫り、彩色したものです。
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和光の雛人形
春が近くなると、銀座和光で雛人形展が開催されます。
母は毎年、工夫を凝らした作品を出品していました。すみれ雛、あどけない童雛、動き出しそうな童雛など。母の心の中には湧き出して来るように、様々な子どもの心象があったのでしょう。
菜の花雛も和光に展示されていましたが、手元に残したかったので求めたものです。
ひな祭りの季節になると、和光の展示の華やかさや、背中を丸めて人形制作に打ち込んでいた母の姿が思い出されます。