アラフィフからのアイドリッシュセブン番外編 「大和と武蔵」
このツイートが50いいねを頂きました。ありがとうございます。書きっぱなしではいかんなと思い、責任を取ることにしました笑
二次創作的妄想なので、いつものような理屈をこねくり回したような文を書くより、本人に語って貰おうと思いました。
100%捏造です。一部分ラビチャの内容を含みます。喋り言葉に違和感を覚えましたらご指摘ください。
モノローグだけでは地味なので、ゲストをお迎えしております。ご容赦ください。
タイトルに捻りがなくてごめんなさい。
なんでも許せる方向けです。
よろしければ。
「大和と武蔵」
今日は久しぶりのオフ。
新しい台本に目を通す。
キャストの一番最初に二階堂大和の名前。
身が引き締まる。
役者にはならないと言っていた自分がこんなところに名前を刻むことになるなんてな。
と思っていたところに大っきい方のアイナナ最年少がやって来た。
「なーなーヤマさん、武蔵貸してくんね?」
武蔵というのは、お掃除ロボットの名前だ。今、絶賛稼働中。
「いいけどタマ、ここ終わってからな。部屋はちゃんと片付けたのか?」
「ちぇー、ヤマさんもそーちゃんと同じこと言うのなー」
「床に何か置いてあったらこの子乗り上げちゃって動けなくなるでしょうが」
「じゃあ片付けたら貸してくれる?」
「よーし、じゃあ後でチェックしに行くかー」
「来なくていい!来なくていいから。ちゃんとやるから」
やけに慌ててるのは何故なんだ、良からぬものでも置いてあるのか?
つい口が緩んでしまう。
大型犬みてえで可愛いわ
「そういえば、さ。」
「ん?」
「何でこのロボット、武蔵っていうの?」
「あー、」
「何でだったかな」
「忘れたな」
「…ヤマさん、もう物忘れ始まったの?」
「ったく、誰もかれも俺をおっさん呼ばわりしやがって」
ほら早くと促されて、タマはとぼとぼと俺の部屋を出る。
めんどくせえなーって言いながら。
嘘だ。
忘れるわけない。
武蔵でないといけない理由。
あれは小学校の低学年だったか
二階堂の家に出入りしていた人間から誕生日プレゼントを貰った。
映画監督やディレクター、俳優…多くの芸能関係者が集まる場所
それが二階堂家
皆、たくさんのお土産を持ってくる。
食べ物、果物、調度品…
俺向けのおもちゃや文房具、本
その中に小学生向けの日本の歴史の本があった。
マンガと説明文、大きめの資料写真で構成され、漢字には読みやすくルビも振ってある。
低学年には難しい内容だけど大和くんは賢いからすぐに読めるようになるよ、と何冊かに分かれた本のセットを渡されたんだった。
ペラペラめくって見て目に入った単語を見て
「ねえ、やまとって書いてある!」
と言ったら、
「おお、どれどれ…「大和政権」か。」
親父が本を覗き込み、そう言った。周りの取り巻きも、「習ったなー」「懐かしい」などと口にしてた。
「この頃の都は奈良にあったんだよ」
「なら?」
「そう、近畿地方にある県の名前。」
「奈良の地名が大和でね」「そこから日本をひとつにして行ったんだ。」「それから今の日本のことを大和って呼ぶようになったんだよ」
周りの大人が色々教えて来たっけ。
まだその頃は、教えて貰う単語一つ一つが新鮮だった。
「大和は日本なの?」
そう問いかけたら、父親がやたら笑顔になったっけな。
「じゃあ、東京は昔はなんて言ったの?」
「武蔵国」
「そうなんだ!」
まだ小さかったから意味が良く分かんなかったけど、なんか手当り次第に質問してたんで、周りの大人も喜んで答えてくれた。
まあ、自分の名前が出てくるのは素直に嬉しかったよ。
スケールのデカい話じゃん、ガキにしたら。日本と同じ名前ってさ。
高学年になって社会で歴史を学ぶようになったら読んだところが出てきたし、飲み込みも早くて昔の地名なんかもすぐに覚えたんだけど
大和って結構いい名前だなって思うようになって
それから間もなく、テレビであの二人を見たんだ
それからは…まあ、お察し。
父親はもちろん、取り巻きの顔も、おべっかを使ってる顔にしか見えなくてさ
今は、それぞれの愛情でものを言って来たって分かるんだけど
もらった本も気持ち悪くなってほっぽらかした。
友達とも気まずくなって、休み時間は隠れるように図書室に行ってた。
時間はあるから、本を片っ端から読みまくってた。
そのうちに、高学年向けの日本の歴史の本を見つけたんだ。
大和の国なんてとうにどうでも良くなってて、なんか戦争の話を読みたくなってた。
何でかわかんないけど、そういう…武器とか好きになるような年頃だったのかもしれないし
…その頃には反抗心が生まれて来てたのかもしれないし
まだ復讐とか考えもしなかったけど、さ。
でまあ、戦艦とか好きだったのよ。連合艦隊とかさ、砲撃して敵の戦艦をなぎ倒す的な
ガキだったからかっこ良さそうってだけで飛びついて貪り読んで
そんで、「戦艦大和」を知ったのさ
「大日本帝国海軍が建造した大和型戦艦の1番艦。2番艦の武蔵とともに、史上最大にして唯一46センチ砲を搭載した超弩級戦艦である」
ウィキペディアの完全な受け売りだけど、そういう戦艦。なんたって超弩級だぜ。
昔のSFアニメはこれが元だったんだな。
「大和」と「武蔵」は姉妹艦として伝えられてる。
でまあ…残念ながら大和は沈んだと書いてあった。武蔵も沈んだ。
小さい時、歴史の本を読みながら喜んで聞いた名前がついた戦艦
その2つともが撃沈された。
しかも、戦果を得る前に空襲で浸水して沈んだ。
爆撃を受けてからたった数時間で、だ。
戦艦大和は秘密裏に建造が進み、進水式も公表されず
時の天皇陛下の行幸も実現せず
式の中でも、「大和」の名前は聞こえるか聞こえないかくらいの小声で呼ばれたって話
敵に存在を隠していただけだったのかもしれない。
でも軍の中では公然の秘密で名前もおおぴらには呼べない存在
そして---沈んだ。
ご自慢の46センチ砲は、40キロ先の標的だって撃つことが出来たんじゃなかったのか
何も出来ずに
自分と同い年くらいの奴らを乗せて、
沈んだ。
…なんだよ、俺かよ
大和という名前の人間は日本にたくさん居るだろうが、日本の芸能界の重鎮の息子、しかも内輪では有名なのに、世間的には居ないことになってる人間は多分俺しか居ない。
俺は何かを一生懸命にやろうとはせず、
ただ、自分の身と名前と父親を呪った。
何が大和は日本そのもの、だ。
自分は日本の父代表のような顔しやがるのに、何も守ってくれないじゃないか
母親は俺が守りたかった。
母も、居ないことになっていたわけで。
俺が父親と来たかった遊園地、
ただを捏ねる俺と夜の闇に浮かぶ遊具を見ながら、
母は何を思っていただろう。
俺には兄弟も居ない。
だいたい、俺が生まれたのも、本当は間違いだったんだろうし。
誰かに寄り添うことも出来なかった。
…でも、
例えば弟が居たら
武蔵という名前の弟が居たら
この気持ちは分かち合えただろうか。
弟を守るために父親や芸能界に喧嘩を売っただろうか。
…いや、
弟はむしろ源義経を守るために盾になった武蔵坊弁慶のように
矢の的になりながら俺を守ったかもしれない
大和の名前を残すために
どちらにしても兄は…
最後には沈んだだろう
新進アイドルによる異例の記者会見
俺はこの口を開き、暴露し、幾百幾千もの恨み言を連ねるつもりだった。
父親は世間から叩かれ、自分もIDOLiSH7を壊して叩かれて消えるのを望んだ。
俺は大和の名を捨てて日本を出ようとも思った。
でも本当は父を罵る言葉とは無縁で生きたかった。
ただ愛して欲しかっただけだった。
誰か俺の口を塞いでくれ
本当は海の底で物言わぬ貝になりたいんだ。
…なんか、歌の歌詞みたいになっちまったけど
沈んだ戦艦と同じ名前がついた、俺と同名の奴らまで悲しまなくていい。
悲しむのは俺だけでいい
そんな、妙なニヒリズムで生きてたあの頃。
スカウトされて暮らし始めたこの寮。
俺の部屋にはテレビとベッドとリクライニングチェアと掃除ロボだけを持ち込んだ。
寮の掃除機は借りるつもりはなかった。
一切借りは作らない。
はなから消えるつもりだった。
なぜかロボットには無性に武蔵と名前をつけたくなった。
そして…
そして今、その武蔵を貸してくれーと頼んでくる弟分が居る。
「ヤマさーん片付けたー」
「おー?早いな。散らかってたもん全部ベッドに置いて片付けた気になってるんじゃねえのか?」
「そんなことねーし」
おい、目が泳いでるじゃねえか
「借りるよー」
たく、しょうがねえなあ
じゃあ持ってけ、と武蔵の電源を切ろうと立ち上がったら台本を落としてしまった。
タマが拾い上げる。
「ヤマさーん、これ、新しい台本?」
「そうだよ」
「へえ、気になるー。読んでいい?…あ、やっぱ、いいわ」
「ん?」
「ヤマさんのかっこいいとこ見たいから、ネタバレはなしー」
「かっこいいかどうか分かんないぞ?」
「かっこいいに決まってっし!」
台本をこちらに返すと、軽々片手で武蔵を持ち上げて出て行った。
反逆を起こして壮絶な死を遂げる役なんだが…
と思ったところで、
「いっちょ暴れ回ってやりますか」
と独りごちた。
戦艦大和の仇?
いや、
かっこいい父親を越えて、
二階堂大和で居る為に。
台本に書かれたタイトルは、
「三日月狼」
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