【文字起こし】 成金心理学「札束風呂の抱える問題点」




本日の講義を始めます。

まず最初に、前回のレポート課題の講評から。「なぜ左ハンドルの車の運転は荒いのか」というテーマに関する小論文だったと思います。
端的に言って全体的なレポートのレベルが低かった。
全くもって主題を捉えていない。
授業を聞いていればわかるはずのことに全く触れずに個人の主観で論理を展開している。
そのようなレポートが多い印象でした。

授業後の配布資料を読むだけでは書けないようにレポートを出題しています。気を抜かないように。

では、本日の内容に入ります。


札束風呂とは?

事前にシラバスでもお伝えした通り、今回のテーマは「札束風呂」についてです。誰か札束風呂について説明をしてくれる学生さんはいますか?発言してくれた人は、後程参加点を加点致します。

はい。では、そこの緑のシャツの君。
……その通りですね。札束風呂とは読んで字の如く、札束で作った風呂のことです。
お湯の代わりに札束をバスタブに溜めて、そこにあたかも入浴するように浸かるという行為やその状態、湯船のことを一般的に「札束風呂」と呼んでいます。下品極まりないですね。

その起源については、秋セメスター開講の私の講義「成金歴史学 上級」にて詳しくお話しますので、ここではスライドのみでの紹介とします。

今回は、我々が仮にバスタブを埋めるほどの紙幣を手にしたとき、何をするべきなのか、あるいは何が起こるのかを中心に講義していこうと思います。

札束風呂の前提

まず、大前提として札束風呂というものは一人では入りません。
必ず誰かと入る。必ずです。
その理由については後ほど。
とにかく、札束風呂には、ホストゲストの2人以上で入るものである。今はそこだけ留意していただければ結構です。

そして基本的に、ホストとゲストの関係性もある程度限定されます。
その理由は札束風呂を行う目的に深く関わってきます。
札束風呂の目的とは「ホストがゲストに金持ちアピールして口説き落とす」ことにあります。

それ故、札束風呂には一人では入らない。
親子や兄弟、単なる友人・同僚とは入らない。
仮に入ったとしても、それは札束風呂の本質に適っていないと言えるわけです。

以上を踏まえた上で、今回の講義では「外出先から初対面のゲストを家に招き、札束風呂を行う」という設定で話をしていきましょう。


では、実際に札束風呂を決行するとして、大きな3つの問題が存在します。
それぞれについて説明をしていくこととします。


札束風呂いつつくるか問題

まず最初の問題としては、ホストはどのタイミングで札束風呂を準備するべきなのかという点です。

普段暮らしている家のバスタブに常に札束が入っているのならば問題は
無い。しかし現実はそうではないということは明白でしょう。

札束風呂を行う日、ホストはどこかのタイミングで風呂の湯を抜き、浴槽の水気を拭き、札束を投入する必要があります。

それ相応の時間を要するので、札束風呂は突発的に発生するのではなく、計画的につくりだすものだということがわかると思います。

では、そのタイミングとはいつがベストなのか、いくつかのケースを挙げてみましょう。


A. 家を出る前につくっておく場合

まず、ゲストを伴って帰宅できると仮定し、家を出る前に札束風呂をこしらえておく場合を考えてみます。
この手法には、いざ家に帰った後のタイムロスが無いというメリットがあります。

しかし同時に、ゲストを家に呼ぶことに失敗した場合のリスクを負う必要があるというデメリットが存在します。

家を出る前に意気揚々と作った札束風呂。
一人での帰宅後に見るには忍びなさすぎるでしょう。
「自分はなんて無駄なことをしていたんだ」とホストが寝込んでしまったという事例もままあります。

B.帰宅してからつくる場合

では、ゲスト同伴で帰宅した後、札束風呂をつくる場合。
こちらのメリットは、先述した単独帰宅の精神的ダメージが発生しないということですね。

ですが、逆に札束風呂を準備する様子、つまりバスタブに次々と札束を投げ込んでいく光景をゲストに見られてしまうという欠点があります。

その作業を見たゲストの反応は如何様なものでしょうか?
少し近くの学生同士で話し合ってみてください。

……
はい、ではどなたか発表してくださる方……そちらの貴方。
ええ、ええ、なるほど。「テンション爆上がりのバイブスぶち上げ」
別の方の意見もきいてみましょう。どうぞ。
「引く」…ですか。

どちらの意見も各々の感想なので正解はありません。

しかし、後者の方のようにゲストに怯えられた場合、気まずい空気の中で引っ込みもつかず、黙々とアタッシュケースの中から札束を取り出し、また黙々とそれをバスタブに注ぐことになりますよね。

その状況は、控えめに言って、あまり気分の良いものでは無いはずです。


はい、そちらの学生さん。どうされましたか?
「事前に札束風呂があることを伝えてゲストを招けば良いのではないか」ですか。
良い着眼点ですね。

しかし、はたして「家で札束風呂をするから来ない?」と初対面の人物から声を掛けられて、ついていくでしょうか?
そうですね。100人に聞いたら100人がNOと答えるでしょう。

つまり、そのような悪手を打つ人は、いかに札束風呂を実現するだけの資金力があれど、そもそもゲストを家に呼ぶことなどできない。という答えでご納得いただけますでしょうか?

他に質問が無ければ講義を続けます。


C.第三者の手を借りる場合


次に考えて頂きたいのは、ホストが家を出た後、第三者に札束風呂の作成を依頼する場合。
家に誰かを待機させた状態で、必要に応じて札束風呂作成の指示を出せば、帰宅後の喪失感に苛まれるリスクも低く、ゲストの前で湯船に札束を溜める必要もありませんね。

しかし、誰にそれを頼めば良いのでしょう?手伝ってくれそうな人を少し考えてみてください。

……
………
近年の研究によれば、このようなシチュエーションでは、ホストから依頼を受ける人物のタイプは大きく2つに分けられると言われており、
それぞれ執事型弟分型とよばれています。順に説明していきます。


執事型の特徴は、ホストと金銭的な関係で繋がった間柄であることです。
その名の通り、代表的なのは執事ですね。
自分に仕える執事に「札束風呂をつくっておいてくれたまえ」と頼んでおけば、おそらく帰宅時にはバスタブいっぱいに札束が詰め込まれていることでしょう。

ですが、そもそも執事を雇っているような人物が札束風呂なんぞをつくるとは考えづらい、という問題があります。

具体例を挙げてみましょう。
国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」に出てくる富裕層の家庭の息子、花輪クンにはヒデじいというお世話係がいますよね。いうなれば正真正銘のお金持ちです。
彼であれば、札束風呂の実現も不可能ではないはずです。

しかし、イメージできますでしょうか?
花輪クンが札束で溢れるバスタブを背景に「これが札束風呂だよベイビ~」とか言っている様子を。
できませんよね?品の良いお金持ちの家庭で育ち、とびきりの人格者でもある花輪クンはいたずらに自分の財力をひけらかすような真似はしないはずです。

やはり、札束風呂はあくまで成金の小悪党の遊びのように思われます。
よって、執事を雇うような人間が、札束風呂などという低俗で下劣な遊びを興じるとは考えにくいのです。

このように「簡単に札束風呂を実行できる財力を持つ人間が、その財力に裏付けられた品位の高さによって、実際には札束風呂を行わないこと」を、執事型のジレンマ、あるいは花輪クンのジレンマと言います。
重要な語句ですので、しっかり覚えるように。


一方、弟分型の特徴は、ホストとの間に、憧れや忠義心などの精神的なつながりがあることです。

弟分に札束風呂をつくるように頼んだ場合、やはり執事と同様に、要求通り額に汗して、せっせと湯船に札束を放り込んでくれるでしょう。
その上、弟分をつくるのは、執事を雇うよりは容易だという気もしますね。

だが、しかし。
自分を慕ってくれる弟分にそれを頼むというのは、あまり印象がよろしくないですね。
有り体に言えばダサい

「ちょっと今から帰るから、バスタブに札束溜めといてくんね?」なんて言ってしまえば、どんなにカッコいいアニキでも、一気にただの俗物、俗物中の俗物に成り下がってしまうことは明白。
それに、ゲスト的に見ても「弟分に札束風呂の準備をさせる奴」はお世辞にもカッコいいとは言えないでしょうから「そんなヤツと札束風呂に入るのはノーサンキュー!」となってしまう恐れがあります。

そもそも、成金の小悪党であろうとも、弟分から尊敬されるような人物は、札束風呂をつくってみっともなくはしゃぐことはしないというのが専門家の間での通説です。

以上のような理由から、弟分に札束風呂をつくるように依頼することもまた、難しいと言えます。

「札束風呂をつくってくれるほど慕ってくれる者がいても、そのような人間関係を築ける者は札束風呂に手を出さないという現象」のことを、弟分型のジレンマ、あるいはプロシュート兄貴のジレンマと呼びます。
あわせて覚えておいてください。


このように、札束風呂を行う以前の準備段階で、既に大きな障壁があることがわかりましたでしょうか?
いくつかのケースを紹介しましたが、未だに最適解は発見されていないのが現状です。

2018年の統計によると、世の成金達は、一番最初のパターン、つまり家を出る前に自らの手で札束風呂を用意することがほとんどということですが、これも他のデメリットを鑑みた上での消去法での選択でしょう。


では、次の議題へ進む前に、5分の休憩を挟みます。

……

………

札束風呂で何をすれば良いのか問題


講義を再開します。
では、実際に入ったとして、ホストとゲストは札束の風呂の中でどういう行動を取ることができるのでしょうか?
当然のことですが、札束風呂に入っても、体の汚れは落ちませんし、芯まで温まることもありません。
アヒルを札束の上に浮かべることもできませんし、アヒルも札束の上に乗せられては迷惑でしょう。
これも、札束風呂に付随する大きな問題のひとつです。
「つくったはいいものの、何をすれば良いかわからない」

アメリカの成金経済学者にニヒリズム=アイダ博士という人物がいます。
彼が行った成金学の実験で一般に「アイダ実験」とよばれているものがあります。

実験の内容としては、無作為に選んだ成金と一般人を2人1組のペアにし、札束風呂に入れた場合、どんな行動を取るかを観察するというものです。

これによると、実験参加者の63%が札束を互いに掛け合い、20%は札束をスポンジに見立てて身体を洗うフリをしてたわむれたという結果が出ています。

いかがでしょうか?

みなさんの表情から察するに、正直どれも楽しくなさそうであると感じていると思います。
それは君達が札束風呂と縁遠い一般人だからではありません。
驚くべきことに、実験に参加した成金たちも札束風呂での行動について、全くピンと来ていなかったというのです。

これが意味することはすなわち、札束風呂は実際には楽しくもなんともないエンターテインメントだということであると言えます。

しかしながら、ホストがゲストに対して、あるいはゲストがホストに対して「なんか思ってたのと違うね」というわけにもいきません。

ホストは札束風呂を用意した手前引っ込みがつかず
ゲストは札束風呂を準備したホストを気遣い
互いに本音を言うことができなくなってしまうのです。

その結果として起こるのが、2人とも楽しくないのに、2人とも楽しいフリをするという現象です。
この現象のことを、有名な童話になぞらえて「愚者の贈り物現象」と言います。

今日の講義では覚えるべき語句が多いですが、成金心理学において非常に重要なテーマですので、しっかりと復習していただきたい。


札束風呂あがり問題

ここまで駆け足で進めてまいりましたが、次が最後のテーマです。
当然のことですが、札束風呂に入った以上は、札束風呂から出ないといけません。

お湯の風呂なら、風呂上りには、体を拭いて髪を乾かし、肌を保湿をするといったタスクを行うわけですが、札束風呂では、入浴後に要求されるプロセスも一味違うわけです。


一旦、皆さん、目を閉じてイメージしてください。札束風呂から上がった後の……そうですね、ホスト側の気持ちになってみましょう。
そのままバスタブから飛び出して、冷やしたコーヒー牛乳を冷蔵庫から取り出し、グイッと飲むことができるでしょうか?
あるいは風呂上りの楽しみとして、ゲストとふたり、ベッドに寝転がってオセロやUNOに興じることができるでしょうか?

多くの学生さんが首を横に振ってくれた通り、そうすることはとてもじゃないけど、できません。

こちらをご覧いただきたい。これは、2015年にオーストラリアで発表された調査結果をまとめたグラフです。

見てわかるように、札束風呂に入った後は全員が、普通の入浴をしたいと答えています。

何故でしょうか?

これに関しては様々な学説がありますが、中でも有力視されているのが「お金は汚い」という理由です。
「金は天下の廻りもの」と言うように、現金には世間のあらゆる汚れが少しずつ付着しているというイメージが原因でしょう。

だからこそ、札束風呂に入った後、多くの人は、一般的なお湯での入浴を求めるというのです。
しかし。現実ではそれは簡単には叶わない。

なぜなら、現在バスタブを満たしているのは、あったかいお湯ではなくて大量の札束なのだから。

ここから入浴をしようと考えた場合、バスタブいっぱいの札束を浴室から運び出し、アタッシュケースかなにかに仕舞いこまないといけません。
さらに、当然札束が入っていたバスタブは汚れているわけですから、丹念に掃除をして、そこからお湯を張って入浴をする必要があります。

これはとんでもなく手間な作業です。
ゲストは「何をしているんだ、早く風お湯に浸からせてくれ」と憤り、ホストの財力ではなく、ありえない程の段取りの悪さだけが印象に残ってしまうでしょう。

この入浴後の問題に関しては、2023年現在においても、未だ一切の解決策が見つかっていません。
この課題がある限り、スマートに札束風呂を遂行することは叶わないのです。


まとめ


では、今週の講義の総括に入ります。

札束風呂は成立が難しい上に、非常に下劣な文化である。

また、札束風呂をつくるタイミング、札束風呂の中での振る舞い、風呂上がりの気持ち悪さなどの課題を抱えている。

そもそもマトモな感性の人間は札束風呂をつくろうなどとは考えない。

しかし、札束風呂に関する研究は、世界中で、経済学や歴史学、民俗学や宇宙工学など、あらゆるアプローチで今後も続いていく

といったところが、今日の重要なポイントです。
各自しっかり復習するように。

課題について


それを踏まえて、今週の課題です。「現代の若者の目線から見た札束風呂」というテーマで2000字のレポートを書いて来てください。

ただし。
スライドのような「貧乏人が全財産で札束風呂をやってみた」みたいな実験レポートを提出する学生が毎年一定数いますが、やめてください。
仮にそれを提出した生徒は問答無用で落第とします。

くだらないので
いや、マジで。
マジで。

では、今日の講義はここまで。


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