「シナリオ」が読みたい‼️

ドラマの「シナリオ」が本になる時、小説の形を取って、「ノベライズ」される事がほとんどだ。

僕は山田太一のドラマが大好きで、「ドラマのプロデューサー」を志した。

今はそのほとんどが絶版の「山田太一シナリオ全集」をほとんど全て持っている。

倉本聰さんも「北の国からシリーズ」のシナリオを全て集めた。

そして、僕がいちばん敬愛する素敵な台詞を書き続けた向田邦子さんの、新潮文庫から出ているシナリオも全て買い、読破した。

先日、脚本家の遊川和彦さんと食事をした時、訊いてみた。

「遊川和彦さんはどうしてシナリオを本で出版しないんですか?シナリオが『ドラマの設計図』で、映像化されたものが『完成品』だと思っているからですか?」と。

遊川さんの答えは、
「どこからもシナリオを本にしたいというオファーが来ないからだよ。オファーが来たら、いつでもシナリオを本にしたいと思ってるよ」

遊川和彦さんの「予備校ブギ」(TBS系1990年)、「ADブギ」(TBS系1991年)、「オヤジぃ。」(TBS系2000年)、「さとうきび畑の唄」(TBS系2003年)などのシナリオをじっくり読んでみたい。

関西テレビの連続ドラマ「エルピス」(関西テレビ制作フジテレビ系2022年)をプロデュースした佐野亜裕美プロデューサーは関係各部署に根回しして、「エルピス」のシナリオを本にした。

フジテレビの連続ドラマ「silent」(フジテレビ系2022年)のシナリオも本になっている。台詞が素晴らしいドラマだったから、シナリオ本も売れるとフジテレビが判断したからだろう。

もちろん、プロデューサーの村瀬健さんも脚本家の生方美久さんのシナリオをたくさんの人に読んでもらい、本として残したいという思いも強くあったと思う。

僕は「A型肝炎」で3週間入院した時、「黒澤明全集」全巻を夢中になって読んだ。黒澤明が監督した映画のシナリオが全て載っている。他の監督の為に書いたシナリオも含めて。

僕の知り合いの助監督は、この全集の中の映画「用心棒」のシナリオを勉強の為に、「手書き」で書き写したという。

そうする事によって、黒澤明監督がどういう意図を持って、そのシナリオを書き上げたかが朧げながらに分かってきたそうだ。

僕が今いちばん読みたいシナリオは木下惠介監督のもの。

木下惠介監督はシナリオ作りをする時、旅館の和室に敷かれた布団の上に寝転んで、シナリオを「喋り」、「口述筆記」で助監督がそれを書き留める。

木下監督の「口述筆記」をした助監督の一人が後の脚本家・山田太一である。

木下監督は映画全編の「口述筆記」が終わると、それがそのまま「決定稿」になり、撮影に臨んだ。天才と言うしか無い。

山田太一は木下惠介が疲れて寝ている間に、自分ならこの先のシナリオがどうなるかを紙に書き留めていた。

木下監督が起きて、「口述筆記」を再開すると、山田太一が想像もしていなかった展開にシナリオはなっていった。

1997年放送の連続ドラマ「心療内科医涼子」。

脚本家・森下直さんの書いた第一話のシナリオを読んだ時、その素晴らしさに僕たちプロデューサー陣は心が激しく震えた。

そのホンには、「宝石の様な台詞」が散りばめられ、「構成」もしっかりと作り込まれていた。

これで、室井滋さん演じる主人公・涼子先生のキャラクターは成立したと僕たちプロデューサーは思った。涼子先生が動き始めた瞬間だった。

「シナリオ」、それは「ドラマの設計図」であるかも知れないが、僕自身はそれ自体が「ビビットに完成された文学」だと思う。

「ノベライズ」を出版するのは止めて、「シナリオ」を出版して欲しいというのが僕の切なる願いである。

皆さんはどう思いますか?

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