アメリカでのスピード違反

僕は快調に車を跳ばしていた。ロサンゼルスからサンフランシスコまで車で約8時間。

アメリカのフリーウェイは中央分離帯では無く、上下線の間に50メートル以上の緩衝地帯が設けられている。

一人での運転。眠くなったら、その緩衝地帯に車を乗り入れて、仮眠を取る。

午後、ロサンゼルスを出発してもサンフランシスコ到着は夜。ナビ付きのレンタカーなのだが、英語の表示。道路標識を目視しても、英語表記、しかもあまりにも通り過ぎるスピードが速すぎて、どの道を選ぶかの判断ができない。

サンフランシスコ市内。今夜宿泊のホテルに行きたいのだが、一方通行が多過ぎて、なかなか辿り着けなかった。数時間を費やす。

ホテルの前に着いたら、フロントでホテルの駐車場の場所を訊き、車を廻して駐車。すべてが終わったら、午前1時過ぎになっていた。

サンフランシスコを観光後、翌々日、ロサンゼルスを経由して、グランド・キャニオンに向かう。

フリーウェイを気持ち良く走っていると、突然、後ろからサイレンの響きが。赤いランプが回っているのがバックミラー越しに見える。英語(当然)で何か言っている。
この光景、アメリカ映画でよく見るやつだ。

車を路肩に寄せ、止まる。
警察官がパトカーから降りて来て、ウィンドウをコンコン。

社外に降りて、彼の話を聞く。「スピード違反」である。時速160キロを出していたらしい。

ここで僕は気付いた。アメリカの車の速度計の表示が「マイル」である事を。

1マイル=1.6キロだから、速度計は100を指していても、160キロ出していた事になる。

反則切符を切られた。こんな事がこの後、もう一度あった。アメリカの広い大地を走っていると
知らず知らずのうちにスピードを上げてしまうのだ。車が少ない上に緩衝地帯があるので、スピードを出しても圧迫感が無い。

3回目に捕まった時は西部劇のロケ地で有名なモニュメント・バレーに向かう途中。
目的地に着くのが先か、日が暮れるのが先か、僕はかなり焦っていた。

フリーウェイの横に止まっている数台のパトカー。警察官たちが談笑している。ブレーキを踏む余裕も無い。
その横を猛烈なスピードで通り過ぎる僕の車。

またまた、サイレンが鳴り、赤色灯が回った。

僕は、
「どうしても西部劇の舞台になったモニュメント・バレーを見たかった。日が暮れてしまう」
と。

原住民の警察官が言った。
「この辺りは素晴らしい土地だ。今からではモニュメント・バレーに着くのが夜中になってしまう」


「僕も素晴らしい場所だと思う。スピード違反、日が暮れる前にモニュメント・バレーを見たい一心でやった事だ。なんとか見逃してくれないか?」

彼はしばらく沈黙。考えている様子だった。
「分かった。今回は見逃してやろう。これからどうするんだ?」


「モニュメント・バレーがこんなに遠いと思わなかった。今夜のホテルはサンディエゴなんだ。インターステート(州と州を結ぶフリーウェイ)はどっちに行ったらいいか教えて欲しい」

警察官
「私がパトカーで先導するから付いて来い」

3回目、僕は反則切符を切られる事無く、フリーウェイでホテルに向かって走っていた。

サンディエゴに着いたのが、夜中の2時前。予約していたホテルが暗すぎて見つからない。街の中をあっちこっちと彷徨う。

そのネオンは車のすぐ左手に突然現れた。急ハンドルを切って、泊まるホテルの駐車場に乗り入れる。

やっとホテルにたどり着きホッとしている僕。車を止めた。長時間運転した疲れがドッと出た。

ホテルの警備員が大声で叫んでいる。しかも銃口を僕に向けて。一体、何が起こっているんだ!

警備員が車から出るな!と言っている。どこかに電話している様子。
深夜に突然現れた車。不審者に思われたのか。

5分程して、警察官が現れた。ウィンドウを開けると、何かの検査をしている。

「酒酔い運転をしているかの検査」だった。

警察官が警備員に頷き、警備員の誤解も解けた。銃は下ろされた。

僕は無事ホテルにチェックインする事が出来た。

帰国後、スピード違反で切られた反則切符をよく読んでみると、「来年の◯月◯◯日に◯◯郡の裁判所に出頭する事。裁判によって、あなたの罰金は決められる」と書いてあった。

これをクリアにしておかなければ、二度とアメリカに入国する事は出来ないのではと思い、裁判所宛に手紙を書いたが返事が来ない。

「日本に住んでいて、裁判所に伺えないので、罰金の金額を教えてもらえれば、必ず振込みます」という内容。

長らくアメリカに住んでいた友人に手紙の文面を見せると、これではダメだという事になり、彼が改めて書面を作ってくれた。

裁判所から手紙が返って来た。二つの裁判所から日本円にして、約四万円ずつ。合計八万円。小切手で郵送する事、という内容だった。

僕は銀座の三井住友銀行に行き、小切手を作ってもらい、アメリカに送った。

それからまだアメリカに行く機会は無い。僕は入国できるのだろうか?

アメリカで交通違反をすると、手続きが大変なので、要注意!

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