貨物列車の「車掌車」の妄想

子どもの頃、憧れた「貨物列車の車掌」。国鉄時代、貨物列車の長い編成、いちばん後ろに連結されているのが車掌車。その車掌車に乗って、旅してみよう。

貨物列車は走り出すと、長い間駅に止まらない。車掌車には、夏なら蒸し暑い、冬なら肌寒い風が吹きつける。汗だくになったり、ガタガタ震えたり。自然に四季が味わえる。

街の灯りが前から後ろへと通り過ぎて行く。駅を通過する時だけ、白い蛍光灯のラインが流れる。

食事は愛妻弁当だ。喋る相手はいないが、その分、味を吟味して食べられる。時間は山ほどある。妻と子どもの事を考えながら・・・

都会の真ん中を走っている時は、満員の通勤電車の隣を走る。あんなに混んでいてはストレスも溜まるだろうなぁ、と僕はつぶやく。

特急が並走する。駅弁を食べて、ビールを飲んでいる人たちが明るい窓越しに見える。車掌車の電球の薄暗がりから見ると、特急の車内は蛍光灯の灯りで極めて明るい。

特急は次第に速度を上げ、貨物列車を追い抜いて行くが、駅に止まらない貨物列車は特急が駅に停車している横を余裕で通り過ぎる。

自分が運転手と二人っきりで、この長い長い貨物列車を動かしているのだ。

貨物列車を引っ張っている電気機関車が汽笛を鳴らす。ゆっくりと機関車が減速して、何十輌という貨物車輌が少しずつ時差を置いて停車する。

車輌と車輌を繋いでいる連結器の振動が伝わって来るのが気持ち良い。車掌車に乗らないと分からない感覚かもしれない。

深夜にたどり着いた操車場。僕は任務を終えて、操車場の車掌控室に向かう。

そんな車掌車も今は無い。貨物列車のいちばん後ろには、まんまるの赤い印が2つ付いているだけだ。それに国鉄時代に長々と連なった貨物列車もトラック輸送に押されて、短くなってしまった。

あの車掌車にトイレはあったんだろうか?そんな事を考えた。

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