中谷美紀さんと乾杯‼️
「ハイ!チーズ!」
キャスト・スタッフ・マネージャーが集まって、記念写真の撮影。
夕方、多摩川の河川敷。
中谷美紀さん、椎名桔平さん、渡部篤郎さん。そしてそれぞれの子供時代を演じた邑野未亜さん、浅利陽介さん、勝地涼さんも。
子役の撮影はオールアップしているのに、記念写真の為だけに駆け付けてくれた。
「永遠の仔」(2000年4〜6月)最終話の山場のシーンの撮影がこれから夜を徹して行われる。多分、200カット以上あっただろうか。
夜の撮影。照明さんの準備に時間がかかる。
太陽が西の空に沈む前からリハーサルを繰り返し、夜になるのを待ちかねて、第1カットの撮影が始まった。
ここまで小さなトラブルはいろいろあったが、最終話の撮影まで来るとプロデューサーの役割は少ない。本当に手持ちぶたさ。
ベースと呼ばれるカメラの映像と音声が見聞きできる場所の近くに陣取り、確認はしているが、基本監督にお任せする。
撮影時間が長いので、ベースと撮影現場を何度も行き来する。
僕は「多動症」である。それゆえ、1つの場所にずっといるのが苦手だ。
だから、スタジオやロケに行ける「番組制作」という仕事を選んだのかも知れない。
2022年大晦日から2023年元旦にかけて、「BSよしもと」で放送された「ワレワレハワラワレタイ・吉本芸人100人へのインタビュー」という映画で、大阪の漫才師・大木こだま・ひびきさんのこだまさんがこうコメントしていた。
あの「チ」というシールを貼った親指を出して、「チッチキチー」というギャグを言う芸人さんである。
「ワシ、いろんな職業に就きました。ガソリンスタンドの店員やら、飲食店の従業員、サラリーマンとか。でも、1日8時間、同じ事をしてる仕事は出来ませんねん。その点、芸人は15分の舞台が1日3回。あとは自由。これがよろしいんです。生まれ変わっても、芸人しか出来ません」
この発言をテレビで観た時、僕の身体に「ビビっと走るもの」があった。
じっと8時間、サラリーマンとして、デスクに座り続けているのはやはり、僕にも耐え難い事なのだ。
話はかなり脱線(笑)したが、撮影現場は大好き。だけど、一ヶ所でじっとしていられない。
痴呆がきた母親に銃を持たせ、渡部篤郎さんが自殺を図る。そこに駆け付ける中谷美紀さん扮するヒロインと椎名桔平さん演じる刑事。
河川敷にある古寺の境内での芝居が続いた。
徹夜で撮影しても、周りの民家に音が全く聞こえない場所。
良い場所を探して来たものだ。
夜はゆっくりと更けていく。漆黒の闇が辺りを支配する。
撮影現場以外は静寂が訪れている。
煌々とライトが照らす。
長い長い時間が過ぎた。
やがて、遠くから電車が多摩川の鉄橋を渡る轟音が響いて来る。
東急田園都市線の始発電車だ。
ロケ場所は「二子玉川駅」の多摩川を挟んで、斜め向かい側にある。
空が白み始めている。しかし、まだロケは終わらない。
昨日、夕方、記念写真を撮った時間から12時間が経過しようとしていた。
空が白み始めた。
本日、100カット超のラストカット。
「OK!オーライ!」
監督のかけ声で、撮影は朝になって無事終了した。
中谷美紀さん始め、キャストがベースに集まる。みんなお互い握手をしていて、すごく幸せそうだ。
「ビール飲もうよ!今P(僕の愛称)」
中谷さんがクーラーボックスから冷えたビールを二本取り出し、一本を僕に手渡してくれた。
椎名桔平さん、渡部篤郎さんと一緒に乾杯!中谷さんの笑顔がもの凄く眩しかった。
中谷美紀さんは、「永遠の仔」の撮影期間四ヶ月、実の父親から「性暴力」を受け続けたキャラクターを演じ続けていた。
それは「心」に「重い西洋の甲冑」を着て、演技し続ける事だった。彼女はそこまで役にのめり込んでいたのだ。消耗し切っていた。
「永遠の仔」。最終話のラストシーンだけ、原作とテレビドラマでは違う。原作者・天童荒太さんに許諾をもらい、ドラマ独自に足したシーン。
中谷美紀さん演じるヒロイン・優希が全てが終わって、とある小さな漁師町の診療所で看護師として働いている。
小さな子供が車に轢かれ、診療所に担ぎ込まれる。医師と共に必死で治療にあたる優希。子供は命を取りとめた。
漁港に佇む優希。その細い手が空に向かって上がり、真っ白な包帯が風にたなびく。
自分の中で忘れる事の出来ない「過去」を持ちつつも、彼女は希望を持って、「未来」への第一歩を踏み出す。
これがこの「永遠の仔」というドラマの本当のテーマだったのかも知れない。
それにしても、多摩川河川敷で朝陽の中、飲んだビールの味は一生忘れられない。
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