芝居
「心療内科医涼子」(1997年10月〜12月)という連続ドラマをやった。
第一話の脚本は森下直さん、演出は国本雅広さん。
主演の涼子役は室井滋さん。
第一話のゲストは麻生祐未さんと藤田朋子さんだった。
麻生さんと藤田さんは姉妹の役で「共依存(共生関係)」という設定。
麻生さん演じる姉が「盗食癖」があるという「有名料理研究家」。
スタジオ収録をしている時、都心に居たプロデューサーの僕にスタッフから電話が入った。
「こんな描写しても大丈夫ですか?」
それは麻生祐未さんが、入院している病院の食堂の厨房で、真夜中、残飯をぶち撒けて、手づかみで残飯を次々と口に放り込むという描写。
「食べ物を人目を盗んで食べる」という「盗食癖」を抑えられない様子を麻生祐未さんは芝居しているのだ。
僕たちプロデューサーは「編集上がり」を見なければ分からないと思った。
麻生祐未さんの「こうした役作り」を見て、妹役の藤田朋子さんにも火が付いた。
第一話のラストシーン。「共依存」していた姉との関係を断たれて、「廃人」の様になった藤田朋子さんが心療内科医の室井滋さんとぶつかる。
涼子先生は必死で助けようとする。
動物的な感覚で芝居をされる室井さん。
二人の「猛獣が闘う様」な凄まじいシーンになった。
僕は、「アタマで考えて芝居する」のでは無く、「相手の出方で、ある種、格闘技の様に『役が乗り移って』芝居する」事の大切さを、麻生祐未さん、藤田朋子さん、室井滋さんから改めて教わった。
別の単発ドラマで、ある俳優さんのマネージャーに会った時、こう言われた。
「◯◯は芝居の事をすごく考えるんです。台本を読んで5パターン以上の芝居を考えるんですよ」
その時のドラマも主演は室井滋さん。共演は佐野史郎さん。
自主映画の女王と劇団出身のおふたりだ。
現場で、誰とは言わないで、「複数のパターンの芝居を台本を読んで考える俳優さんがいる事」を伝えると、おふたりは呆気に取られ、その後、転げまわって笑われた。
「芝居って、『生き物』なんだから、アタマで考えちゃねぇ・・・」
そう、芝居は「生きている役者同士」がぶつかった時、思わぬ「化学反応」を起こし、視聴者や観客をドラマや映画、舞台の世界に誘なうものなのだと僕は思う。
だから、僕は今、田中絹代の芝居が見たいし、高峰秀子の芝居が見たいのだ。
「芝居」はそれほど奥が深く、観客は、その「芝居」の「奥」に吸い込まれたいのかも知れない。