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ある寒い夜、赤坂の焼き肉屋で



ある冬のとても寒い夜、僕はスポーツ紙の記者に伴われて、後輩の女性宣伝マン「マル」と赤坂の「高級焼き肉屋」にいた。

そこに大手芸能プロダクションB社の宣伝部長Kさんが顔に温かみのある微笑みを浮かべて現れたのである。

僕と「マル」は異常に緊張していた。

スポーツ紙の記者から、その前にいろんな話を聞いていたからである。

彼は「スポーツ新聞社」に入社早々、大手芸能プロダクションB社の担当になり、会社には全く出社せず、毎日の様にB社に朝いちばんから通って、デスクの掃除から始めて、やがて社長に声をかけられる様になり、遂には昼ごはんに誘ってもらえ、「芸能情報」を聞き出す人脈を作っていったとの事。

「各スポーツ紙」の紙面を取り仕切るのは、赤坂の高級焼き肉屋に徐ろに登場したB社の宣伝部長Kさんだったのである。

「ザ・芸能界」の重鎮に僕と「マル」はかなりビビっていた。

Kさんと名刺交換をしたのだが、「部長」という肩書きしか書かれておらず、「◯◯部」という部署名はどこにも無かった。

それがより一層不気味だったのを昨日の事の様に憶えている。
背筋が冷たくなった。

焼き肉(イメージ)
焼き肉(イメージ)



しかし、当時70歳を過ぎた初老のKさんはとても優しくジェントルマンで、僕たちの為に焼き肉も焼いてくれ、甲斐甲斐しく取り分けてくれた。

酸いも甘いもよく知った人だった。

とてもとても紳士的な人柄。

話は「芸能界の裏側」の事などで、すごく盛り上がり、気がつくと、もう24:00は回っており、終電が出た後だった。

僕はこんな機会は二度と無いと思い、Kさんに怒られるのを承知で、質問をした。

「連続ドラマで主演を務めている人気絶頂の女優Aさんをなんで今、格下のタレントZさんと結婚させるのですか❓」

すると、Kさんは事も無げに即答した。

「女優Aは3年で『行って来い』させます」と。

そして、その言葉は現実となった。

3年後、タレントZさんはAV女優と浮気をして、離婚させられたからである。

Kさんの意図としては、「女性層の人気が今ひとつだった女優Aさんを格下のタレントZさんと結婚させる事」によって、「女性層へのイメージアップ」を図り、それが終わったら、元に戻すという作戦だったのだと僕は推測する。

Kさんがそう考えていたかどうかは今となっては分からないが。

「浮気相手」を仕込むのは容易い事だったのかも。

「女優Aは3年間で『行って来い』させます」

その言葉通りになった。

Kさんが僕の質問に答えたこの言葉以外は、僕の「推測」「憶測」「想像」である事をここに断言しておこう。

「真相」は「闇の中」。

もちろん、女優Aさん本人も全く知らなかった事なのかも知れない。

昨年2023年11月14日、Kさんは亡くなった。

各スポーツ紙が記事を書いた。各スポーツ紙の紙面を長年取り仕切っていたKさんに弔意を込めた記事に僕は思えた。

一般の読者には「誰の訃報」かさえ分からなかった事だろう。

Kさんの死去を伝える記事を読んで、Kさんが「渡辺プロダクション」に最初に入って、その経歴をスタートさせた事を知り、「芸能界の歴史」に思いを馳せた。

「渡辺プロダクション」は「近代的芸能事務所」の先駆けで、「大学卒の社員」を最初に採用したのも同社だったから。

「一期一会」

Kさんに会えた「あの赤坂の焼き肉屋の夜」の事はきっと生涯忘れられないだろう。

僕にとって、とてもとても「貴重な体験」になった。

1人の「芸能界のプロフェッショナル」があの時、あの焼き肉屋には確かにいたのだ。

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