「オンリーユー」記者会見が大混乱

連続ドラマ「オンリーユー 愛されて」(1996年1〜3月放送)。僕がAPで付いたドラマ。
脚本は神山由美子さん、プロデューサーは山本和夫さん(現・ドラマデザイン社代表)。そして、演出は国本雅広さん他。

湘南を舞台に、鈴木京香さん演じるトップモデルと大沢たかおさん演じる知的障害を持った純粋な男の子が恋に落ちる物語。

冬、極寒の湘南に何度通った事だろう。まるで、連日冷凍庫の中で撮影している様だった。

第一話の完成が近づいて来ると、記者会見が行われる事になる。

当時の宣伝マンがいい加減な人だった。僕の、彼との打ち合わせにも甘かった点もあった。

主な出演者とプロデューサーの会見が終わり、「囲み取材」(出演者それぞれ、別のテーブルに一人ずつ座ってもらい、記者がその周りを囲んで取材する事)に移った。

100名以上の記者が「記者会見場」から「囲み会見」のテーブルに移動する。

ここで大きな問題が起きた。宣伝の担当者が、どのテーブルにどの出演者が座るか、全く決めていなかったのだ。

会場は大混乱。罵声が飛び、騒然となる。

「どうなってるんですか?どこに座ればいいんですか?」
出演者のマネージャーに詰め寄られる僕。

慌てて、近くにあったマイクを取り、
「出演者の皆さん、記者の皆さん、その場でお待ち下さい。すぐに、どのテーブルにどの俳優さんが座るかを決めます」

僕はプロデューサーに確認する間も無く、独断で出演者の座るテーブルを決め、速攻で記者の皆さんを誘導した。
本当に肝を冷やした。胸のドキドキが治らなかった。

このドラマ、ピュアな恋愛ドラマという事もあって、ロケ場所の問い合わせが非常に多かった。特に女性から。

まだ、インターネットが無い時代。問い合わせは電話と手紙。

ドラマ「silent」の「小田急・世田谷代田駅」周辺がドラマファンの聖地になっている様に。

凋落しかかっているトップモデル、障害を抱えつつもレストランの下働きで黙々と誠実に働く男の子。

二人の心の中に少しずつ、恋愛感情が目覚め始める。

恋愛ドラマで重要なのは「音楽」。

ドラマ「silent」も、今BSフジで放送している「101回目のプロポーズ」も視聴者の気持ちを、より盛り上げる様に音楽が入っている。

「オンリーユー 愛されて」の主題歌はオリジナルラブの「プライマル」。そのインストバージョンもドラマの中で効果的に使われているが、もう一曲、大事な曲が使われている。

このドラマの制作会社イーストの会議室。

撮影の始まるずっと前に、音楽監督の近藤由紀夫さん、小西香葉さんがある曲をプロデューサーたちに聞かせてくれた。

チャールズ・チャップリンが映画「モダンタイムス」のエンディングの為に作曲した名曲「スマイル」である。

この曲を使いたいと二人は力説した。

「スマイル」がこのドラマにハマった。視聴者の心を昂らせた。

最終回のロケ。鈴木京香さんと大沢たかおさんが湘南の海の中にゆっくりと消えて行くシーン。

チャップリンの「スマイル」が静かに流れ始める。

このシーンはまず海の中に
入って行くところを実際の湘南海岸で撮る。

完全に水中になってからは、湯河原にある「ダイバーの訓練用、深さ9メートルのプール」の中で撮った。

海面から差し込む陽光をバック
に二人はゆっくり水中で揺蕩う。

それを水中撮影専門のカメラマンが撮影する。

無音の中でお互いの顔を見つめ合う二人。手が差し伸べられ、二人の手が繋がった。

二人の心が一つになった瞬間。
「スマイル」の優しい響きが消えて、静寂が訪れた。ほんの数秒。

湘南海岸の海。再び、手を繋いだ二人が海面に現れた。

「スマイル」が素晴らしいメロディーを奏で始める。その響きが最高に達して・・・

二人は一つになれた。二人の「恋」は成就したのだった。

この「スマイル」。DVD化の際には全て別の曲に差し替えられている。

チャップリンの著作権が残っており、その著作権料が高すぎて使えないからだ。

うちのドラマ、他局と一線を画す為に、外国曲を使ったものが少なからずある。

それゆえ、再放送出来なかったり、DVD化出来なかったりしている。

著作権はとても重要なものだが、一ドラマファンとしては、完全オリジナルで観たい。

それゆえ、最近のドラマはDVD化、海外番販、配信などの事を考えて、著作権を全てクリアにして、制作されている。

「オンリーユー 愛されて」、本放送の時に全話録画しておいたら良かったと後悔している。

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