友だちのうちはどこ?
「友だちのうちはどこ?」
昨夜観た映画のタイトルである。
会社で新聞を読んでいたら、俳優・西田敏行さんの追悼記事が載っていた。
映画「釣りバカ日誌」の監督・朝原雄三さんにインタビューしたものだった。
朝原雄三さんがまだ山田洋次監督の助監督で、山田作品に付いていた時の話。
偶然、主役の西田敏行さんと二人っきりになる機会があった。
憧れの西田さんに何を喋っていいか分からなかった朝原さんはもう夢中で自分の撮りたい映画の話をした。
「僕は『友だちのうちはどこ?』の様な映画を撮りたいんです!」
「そんな映画だったら、俺を是非出してよ!スケジュール空けるから連絡待ってるよ!」
と西田敏行さんはおっしゃったそうだ。
つまり、西田さんは「友だちのうちはどこ?」という1987年に撮られたイラン映画の事を知っていたのだ。
朝原雄三監督は「西田敏行さんとの飲み会」、そして「『友だちのうちはどこ?』の様な映画に出演してもらう事」、この2つが実行出来ぬまま、西田敏行さんとの永遠の別れを迎える事になったと語る。
昨夜、帰宅後、「Amazonプライム・ビデオ」で探したら、この映画があった。
しかも会員なので無料で観られる!
トルコの巨匠アッバス・キアロスタミ(1940年〜2016年)の1987年の映画だ。
この監督の名前は以前から何度も聞いていたが、映画を観るのは初めて。
上映時間1時間21分。
ここからはネタバレになる。
カスピ海近くの寒村にある小学校。
みんなひどく貧しい。
どこか諦めるしかない環境。
8歳の主人公の男の子は小学校に通っている。
先生はとにかく厳しい。
ノートを忘れて宿題が出来なかった生徒に、「次回ノートに宿題をしてこなかったら、退学させる」と告げた。
放課後、家に帰った主人公は、たらいで洗濯する口やかましい母親から、赤ちゃんの世話や宿題を早く済ませろと言われ続ける。
主人公は「次に失敗したら退学」を言い渡された友だちのノートを間違って、持って帰って来てしまっていた事に気付き、母親にそれをなんとか伝えようとするが、母親は聞く耳を持たなかった。
それどころか、宿題が終わったら、父親が帰って来る前にパンを買いに行け、という母親。
孫が言う事を聞かないなら、げんこで殴っても、言う事を聞かせなければならないと独善的に思っている祖父。
そんな大人たちの、身勝手な思惑と目を掻い潜って、少年はとても離れた隣村の友だちの家まで、彼のノートを届けようとする。
彼が「退学」にならない為に。
しかし、彼の家がどこにあるか知らない。隣村は広すぎた。
少年の前にそうした難問が次々と立ちはだかる。
そんな中、脚の悪い親切な老人が友だちの家まで少年を案内してくれる。
老人は昔、村々の「木の扉」を作っており、まだまだ使えるのに、村人みんなが一生使えると言う「鉄の扉」に替えていく事を嘆く。
「人間の一生」はそこまで長くは無いと。
結局、友だちにノートを返せなかった主人公の少年。
翌朝、小学校。
厳しい先生の授業が始まっている。
遅刻して来る少年。
隣村の親切な夫婦の家に泊めてもらったのだ。
先生がギロリと目を光らせて、少年とその友だちのノートに書かれた宿題をチェック。
「よし!」
先生は言う。
やっと、難関をくぐり抜けた。
少年は昨夜、泊まった家で遅くまでかかって、二人分の宿題をやったのだった。
「職業的俳優」を使わず、「素人」を使ってドラマを組み立てた監督の手腕に圧倒される。
「社会の常識」の中で生きる「大人の身勝手さ」に翻弄される子どもたちを通して、「人間」の描き方が素晴らしい。
西田敏行さんも朝原雄三監督も惚れ込む映画だと思った。
「新聞記事」から「一本の映画」と出会えるなんて、本当にラッキーだ。