映画と神戸の想い出
映画評論家の水野晴郎さんが、日本テレビで「水曜ロードショー」の解説をやっていた時代、水野さんがイチ押しの映画「風と共に去りぬ」を放送する事になった。テレビ初登場。
前編・後編の2週にわたっての放送だった。
主役ヴィヴィアン・リーを栗原小巻さんが、相手役レッド・バトラーを近藤洋介さんが吹き替え。映画自体、テクニカラーだが、日本テレビが最新の技術を持って、カラー修正すると、水野さんは言う。
それがどういう事か、さっぱり分からなかったが興奮した。
当時、テレビで映画を放送していたのは、TBS「月曜ロードショー(荻野昌弘解説)」、日本テレビ「水曜ロードショー(水野晴郎解説)」、フジテレビ「ゴールデン洋画劇場(高島忠夫解説)」、NET(現在のテレビ朝日)「土曜洋画劇場(増田貴光解説)」、日曜洋画劇場(淀川長治解説)」の5つ。
映画はロードショーで観るか、名画座で2本立て、3本立てを観るかしか無かった。DVDはおろか、ビデオテープを観る事も出来ない時代だった。
映画や、毎週土曜日よる8時からNHKで放送されていた「刑事コロンボ」が好きすぎて、テレビのそばでカセットテープデッキを回し、音声だけ録音。それを何度も繰り返し聴いている友達もいた。
そんな訳で、ありがたやありがたやと思いながら、テレビで放送される名作映画を待つ日々だった。
「大脱走」「ベンハー」「荒野の七人」「猿の惑星(旧シリーズ)」「アラビアのロレンス」「戦場にかける橋」、様々なジャンルの大作映画を家に1台しかないテレビで、家族そろってみた。翌日の学校での話題もそんな映画の話だった。
テレビで観た映画のヒロインに惚れてしまった事もある。「小さな恋のメロディ」。劇中の女優トレーシー・ハイド。
幸運にも、僕と同じ気持ちになった人が多かったのか、「小さな恋のメロディ」はリバイバル上映が決まり、大阪梅田の今はなき、「三番街シネマ2」でスクリーン上の彼女に会う事が出来た。消防法が厳しくなる前で、満員御礼、立見有りのすし詰め状態。
中学高校と、映画会社の株主招待券を持っている友人と神戸の映画館に通い詰めた。
神戸三宮、阪神淡路大震災で倒壊し、今は無き映画館「阪急会館」。阪急三宮駅に隣接しているので、映画が盛り上がって、感情が高ぶっている時に限って、電車が「ゴトゴトンゴトンゴトゴトン」と通過していくのである。映画館を振動させながら。
振動で思い出したが、「センサラウンド方式」と言う上映システムがあった。映画館の中の空気を震わせて、観客に地震の様な振動を体感してもらうものだった。梅田の「OS劇場」で観た「大地震」。
スクリーン上で、地震が起こるたびに、僕の身体に大きな揺れを感じた。この揺れのせいで、天井に積もったホコリが降って来るのには参った。
テレビで放送される映画の価値は、DVDレンタルショップや配信・ダウンロードなどにより、減ったかもしれない。でも、観たい映画をやっと観れるという気持ちは大切にしたい。
「不便」という事を次々と「便利」に替えていく事が必ずしもイイとは限らないのだから・・・