女優・根岸明美さん
黒澤明監督作品の常連でもある女優根岸明美さん。
「朝の連続ドラマ 京一輪」の撮影の時の話。
僕は「AP(アシスタント・プロデューサー)」をやっていた。
蒸し暑い夏の日の事。
その日は大阪・京橋の「局」を出発して、車で2時間、琵琶湖の畔、「近江今津」でのロケだった。
根岸明美さんは午後からの出演予定だった。
僕は根岸さんに「大阪駅」から「近江今津駅」まで「特急雷鳥」に乗ってもらい、駅にロケ車で迎えに行くと提案した。
しかし、彼女は朝からロケバスに乗って行く方が気が楽だとおっしゃった。
ロケ隊は午前7時に「局」を出発して、午前9時頃には、ざあざあ降りの雨の「近江今津」に着いていた。
僕は根岸明美さんと「ロケ地」に近い「控え室」にいた。
時間は十分ある。
「AP」としては、「女優・根岸明美さんの話し相手」をするのが当然だと思った。
彼女が戦後「日劇ダンシングチーム」に入ったところから話を聞き始めた。
根岸明美さんが出演した黒澤作品についても一本一本聞いていく。撮影現場の裏話も。
昼の弁当も食べ終わり、彼女のロケが始まる予定の午後2時になっても、助監督は呼びに来ない。
僕がその事を心配してると、「私の事は気にしないで!大丈夫だから」と根岸明美さんは言う。
再び、黒澤明の話に戻る二人。
日が暮れそうになった頃、ようやく助監督が根岸明美さんを呼びに来た。
ギリギリ、デイシーンが撮れるという時間。気付くと、僕は女優・根岸明美さんと7時間近く話していた。
彼女はその間、常に凛としておられた。そんなところが黒澤明監督に気に入られたのかもしれない。
彼女との時間を全然長く感じなかった僕。
大好きな黒澤明の話を、その作品に出ていた女優さんから聞けるなんて最高の「時間」だった。
こんな楽しみもドラマの撮影現場ではあるのだ。
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