内トラ
うどん屋のシーンを撮る時、急にお客さんが欲しいと監督が言った。
エキストラは呼んでいない。
こうした時、登場するのが「内トラ」と呼ばれる「スタッフが演じるエキストラ」である。
そんな「内トラ」に周りのスタッフがいたずらをした。彼が本番で食べるうどんに大量の「七味」を入れたのである。
「よーい!スタート」と共に俳優さんの芝居が始まり、その手前で「内トラ」の「美術さん」が何も知らずにうどんを啜っている。心なしか、表情が苦しそうだ。
やがて、監督のOKが出て、転げ回ってむせ返る。
犯人は誰か、恨めしそうな目でスタッフを見渡した。
誰も笑いをこらえて目を合わせようとはしない。
「エキストラ」と言えば、「外国人のエキストラ」に関しても思い出がある。
東京の場合、「外国人の俳優・エキストラを手配してくれる専門の事務所」がある。
「稲川素子事務所」とか。
大阪では、いつもの「エキストラ事務所」が神戸・北野町から、普段は「パン屋」や「ソーセージ屋」の経営をしている人達を「外国人エキストラ」として呼んでくるのである。
彼らが1日働いて得る金額を保障しないといけない為、エキストラ代は日本人の5倍以上。
「旧満州国でソ連軍が逃げ惑う日本人に襲いかかってくる」と書かれている台本が上がってきた事がある。
「ソ連軍は何人で撮影するんだい❓」
監督の山本和夫さん(元・TBSのヤマカズさん)が僕に訊いた。
「ええっと・・・スイマセン‼️なんとか、二人でお願いします‼️」
予算上、「外国人エキストラ」を2人しか頼めず、監督になんとかお願いして撮影してもらった。
まず、「内トラ」のスタッフがたくさん軍靴を履いて、前進する「足元」だけを「レール」を敷いて、「移動」で撮る。そして一番前に並んだ2人の「銃を構えた外国人エキストラ」を足元からパーンアップ。
「逃げ惑う日本人の姿」(日本人エキストラ)とカットバック。
「日本人の追い詰められた悲壮感」と「ソ連軍の怖さ」が画面から強く迫力を持って飛び出して来た。「オンエアー」では。
僕は心の中で深々と頭を下げて、山本和夫監督に感謝した。
こうして、1話の予算が250万円しか無い「朝の連続ドラマ 花いちばん」はこうして、8ヶ月間にわたり、続けられた。
ちなみに、「250万円」の予算に含まれるのは、「キャスト費」「ロケ費」「美術費」「宅送費」「キャスト宿泊費」「キャスト交通費」などなどである。
「スタジオ費」「編集費」「MA費(音楽を付ける作業)」「技術費」などなどは「局制作」の為、かからない。
もちろん、「カメラ助手」「照明助手」「助監督」「制作担当」などの「人件費」は「予算」の中から捻出しなければならない。
プロデューサーの岡本俊次さんから、「クランクイン前」、一枚の紙を渡された。
「絶対、誰にも見せないでよ‼️」
それは、岡本プロデューサーが「値切りに値切ったメインキャストのギャラリスト」だった。
半年間の放送、130本のうち、何本出演するか(本数が多いので、『ギャラの総額』は大きな金額になる)を約束した上で、「岡本俊次プロデューサーが面白いドラマを作る事」を分かって信頼している「俳優事務所」が理解をしてくれて、出演が実現したのだった。
そして、「大阪の俳優事務所」は、今でもそうだと思うが、「ギャラのランク」が「NHK大阪と在阪民放局」が「俳優事務所」と話し合って決めている。
つまり、「東京の俳優事務所」みたいに、「時価」では無く、「各俳優さんのギャラ」が決まっていたのである。
しかし、「朝の連続ドラマ」の「予算」を考えると、それでは「予算」に入らない。
「朝の連続ドラマ」という「新しいドラマ枠」を「制作」するという事で、とっても申し訳なかったが、僕が毎回「キャスティング」する時に「値切らせて」もらっていた。
今から40年近く前の1986年のドラマの話である。
「昭和」という「時代」、「テレビ」は元気だった。
とっても‼️
「キャスト」も「スタッフ」も全くの手探り状態だった。
でも、それを「体験」したおかげで、東京で「ドラマのプロデューサー」をやる様になっても、「大リーグボール養成ギブス」を付け続けた様に、「ドラマ制作」の「厳しさ」「しんどさ」に対する「耐性」もちゃんと出来上がっていた。