EXテレビosaka 棺桶トーク
「今までのテレビをぶっ壊す」がコンセプトの「EXテレビosaka」のディレクターをやっていた事がある。
火曜日深夜の生放送中に「放送を終了していて、視聴率0%のNHK教育テレビにチャンネルを合わてみよう」と視聴者に呼びかけた。翌週、「NHK教育テレビの視聴率が0%から上がった事」を検証する企画は話題を呼んだ。
僕は朝ドラから異動して来て、木曜日を担当した。
木曜日は生放送ではなく収録。これも「11PM」同様、4週に1回ディレクターが廻って来た。
僕は、「今までのテレビを壊せなくて」、毎回七転八倒の苦しみを抱えながら、ノイローゼになる一歩手前で番組を作っていた。
ある時、「死を考える」をテーマに番組を作った。
葬儀社に行き、棺桶に入ってみる。中に入ると温かった。
葬儀社の人は言う。「生きているうちに棺桶に入ると長生きできるよ」と。
僕の身長は189cm、標準的な棺桶は190cm。棺桶にはいろいろ詰めものをするので、189cmの僕は標準的棺桶に入れない事が分かった。
スタジオには、平行に棺桶を五つセッティング。少し傾斜にして並べた。
棺桶の真上には、出演者用として巨大モニターを吊る。
棺桶の手前には、菜の花畑を美術さんに作ってもらった。
照明さんが棺桶だけにライトを当て、周りを闇にすると、五つの棺桶は真っ暗な空間に浮かんでいる様に見えた。
お経が流れる中、棺桶に入るのは、上岡龍太郎さん、野坂昭如さん、学者の井上章一さん、蛭子能収さんだった。
全員に「白い死装束」を着てもらい、アタマには三角頭巾。
いちばん端の棺桶にはマネキン人形を入れた。画面を見ている視聴者に擬似体験してもらう為だ。
トーク中、二台のクレーンカメラがゆっくりと上下しながら、絶えず動いている。
その映像をオーバーラップしながら次々と繋いでいく。
ディレクターの僕も必死である。時々、菜の花畑の向こうに、浮かぶ五つの棺桶の映像。
番組冒頭、上岡さんが野坂さんに話しかけても、わざと寝たふりしたのもご愛嬌
「死」をテーマにした「棺桶トーク」。
「死」と「生」は表裏一体。普段なかなか聞けない「深い人間の生き方」を聞けた気がした。
番組の最後は、ドライアイスの煙がスタジオの床に湧き起こり、五つの棺桶がフタをされるというシチュエーションで終わった。
実はこの企画の発端は、死装束で棺桶に入っている上岡龍太郎さんのカレンダーにあった。
このカレンダーを視聴者プレゼントする事になり、番組で「棺桶トーク」する話になったのだ。
企画会議で僕が担当する事になった。不安でいっぱいになっていた。本当に面白くできるのだろうかと。
会議の後、後輩からいろいろアドバイスを受け、何とかイメージが湧いて来た。
プロデューサーが言った。「お前の長所はいろんな人の意見を聞いて、それを上手く取り入れる事や」。
その言葉が心に響いた。その言葉がとても嬉しかった。
そんなディレクターがいてもイイと自分に言い聞かせた。
ちょっとだけ、テレビを壊せる気がした。