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指導者に求められる「気づき」は「先回り」ではない

教育における「気づき」は、教師が生徒の学習状況や心理的な変化をいち早く察知し、適切なサポートを提供するための重要な能力です。ある研究によると、教師の気づきや共感が生徒の学習意欲を高め、クラス内での安心感と積極的な学びの雰囲気を作り出す上で非常に重要であることが示されています(Iacoboni, 2009)。しかし、「気づき」のない教師が指導するクラスでは、教師が生徒に向き合う時間や余裕が不足し、生徒との個別的な関係が薄れる可能性があります。その結果、生徒は教室を安心して利用できず、学びの成果も限られてしまいます。

一方で、気づきが「先回り」として作用しすぎると、生徒にとって不利益をもたらす可能性もあります。たとえば、教師が「危険を避けさせる」ことに過剰に気を配りすぎると、生徒のチャレンジ精神や問題解決能力を制限することになり得ます。子どもが自ら問題に取り組み、試行錯誤するプロセスは、学びにおいて不可欠な成長の一環です。Vygotsky(1978)が「最近接発達領域(Zone of Proximal Development, ZPD)」で提唱するように、教師が適度なチャレンジの場を提供することが、生徒が自らの力で成長を促進する学習環境の整備に重要とされています。

もし教師が、「これは生徒にとって負担かもしれない」と考えすぎてしまい、チャレンジの機会を意図せず奪ってしまうと、生徒は「安全」に守られすぎた環境に置かれることになります。その結果、自分で考え行動する力が育ちにくく、やがて他者の判断に依存するようになる可能性があります(Deci & Ryan, 1985)。特に自己決定理論(Self-Determination Theory)に基づく研究は、主体的に学ぶ機会を生徒に提供することが、内発的な動機づけを高め、持続的な学習意欲を育てると指摘しています。

適切な気づきによる対応とは、必要なサポートを提供しつつも、生徒が自ら試行錯誤する場を奪わないことです。たとえば、生徒が困難に直面していることに気づいたとき、すぐに解決策を提示するのではなく、「What is the issue? 問題は何なの?」「What do you believe is the cause? 原因は何だと思う?」「What do you think is the way to solve it? 解決するにはどうすべきだと思う?」「What do you think you can do right now? 今できる取り組み何だと思う?」と生徒自身がどのように取り組みたいかを問いかけたり、考えを促したりする対応が効果的です。これにより、生徒は自分で考え、解決策を見つける力を身につけて、結果的に自己成長へとつなげていく事ができるようになります。

このように、教師の役割は、生徒が成長するために必要な「適切なチャレンジ」の場を提供し、生徒が自信を持って自らの力を発揮できるように支援することです。また、このように「自立」を支援する学びの重要性を保護者にも理解していただくことが不可欠になります。なぜなら、我々教師は非常に限られた時間内で学習効果をあげる事が同時に求められるからです。ですから、保護者の方々には、結果にコミットしつつも、正攻法でアプローチする重要性を理解して頂き、適切な声かけなど、日々協力して子どもの成長を支援する重要性を理解して頂く必要があります。

引用

Iacoboni, M. (2009). Mirroring People: The Science of Empathy and How We Connect with Others. Farrar, Straus and Giroux.

Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press.

Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. Springer Science & Business Media.

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