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あんスタに、春川宙に

[はじめに]Twitter婚の当夫婦はお互いのあだ名が安定しない。 妻のアカ名はまあまあ声に出して呼びやすいが、私の方はそうでもない。そのせいか、いろいろなあだ名が生まれては消える。 そんななか、わりと息の長いそれに『ボブ』というのがある。 スポンジのそれ。 私が妻から「トイレットペーパーは切れたら替えよう」という道徳的な学びから「Free!」などのオタクコンテンツに至るまで、いろんなことを教わってはぐんぐん吸収するさまを表現したあだ名である。 そんなわたくしがこのた

    • 乙女ゲームやってヒロインに負けた話(『ピオフィオーレの晩鐘』オルリリについて)

      『ピオフィオーレの晩鐘 -Episode 1926-』 オルロックルートのハナシ ※これまでの経過 ※ネタバレ注意 ◇ 前作。物語の舞台ブルローネで血みどろの騒乱に身を投じ、辛くも「教国」の庇護下に逃げ延びたヒロイン・リリアーナとそのお相手オルロック。 そんな二人がようやく手に入れた平穏な日常――続編『1926』はそんな一幕からスタートする。 「教国」の子どもたちを世話しながら、慎ましくも穏やかに過ごすリリィとオルロック。これには思わずにっこり。なんといっても前

      • だから私は「共依存」(『ピオフィオーレの晩鐘』オルリリの話)

        前略私の人生初となる乙女ゲーム『ピオフィオーレの晩鐘』。 結論から申し上げると、私は作中カプの一つ「オルリリ」を温かくも理解不能のまなざしで見守る一人のモブキャラと化す。勢い込んでお伝えしていこう。 (注)以下ネタバレあり。「オルロックルート」しかやってない人間の感想です。 『ピオフィオーレの晩鐘』とわたしそもそもの道行である。 こうして筆を取るのは『ピオフィオーレの晩鐘 Character Drama CD Vol.3 オルロック』(以下エピローグCD)を視聴した

        • 乙女ゲーム『ピオフィオーレの晩鐘』が我が家にやって来た。

          ノベルゲームというジャンルに苦手意識がある。 文章を読むこと。ボタンを押して「先に進む」こと。 さらには、台詞を読み上げるキャラクターボイスに耳を傾けること。 これらを並列に処理することには一定の「器用さ」が求められる。 そう思っていた。 ◇ 2021年はそんな私が2つのノベルゲームにハマる、記念すべき年となった。 1つは『After…』という旧きギャルゲーである。 私は『After…』が展開するエピソードの一つ、実妹ヒロイン「高鷲渚」と主人公「祐一」による実兄妹

        • あんスタに、春川宙に

        • 乙女ゲームやってヒロインに負けた話(『ピオフィオーレの晩鐘』オルリリについて)

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        • 乙女ゲーム『ピオフィオーレの晩鐘』が我が家にやって来た。

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        • 妹小説
          6本
        • Ciel『After…』プレイ日記
          8本

        記事

          短編小説 宇宙人と女子高生の代理戦争

          静止した車。色をなくした空。目から光を失った通りすがりの人たち。 「ごめんね、里香。でも本当のことなの。あたしは宇宙人で、あなたたち人間のことはおもちゃだとしか思っていないの」 いま・ここには、私と、目の前のカナの二人だけなんだと直感的に分かった。唐突すぎる告白に悲鳴も出なかった。それまでどんな会話をしていたかさえ忘れた。おかげで、我ながら不自然なくらい自然に言葉を返した。 「そうなんだ。じゃあやっぱり、カナがいつもお弁当箱2つ持って来てたのって、彼氏のじゃなくて」 「いや、

          短編小説 宇宙人と女子高生の代理戦争

          「私とは何か」という問いはもっと俗っぽくなればいい

          偉い人が言っているように「私」は主体なので対象にすることは難しい。それにしたってもう随分長いこと「私」ってなんだろうは問われ続けて、いろいろな答えが提出されてなお「?」のままでいる。 ◇ 「私たち」一人ひとりが「私」であるから、みんながみんな、「私」の問題として「私」に向き合うわけだ。そうした構造上、その都度問われ直される「私」に分かりやすい答えがありえると思うことはナンセンスなんだろう。「私とは何か」と言って、偉い人が教えてくれるのは答えではなくヒントでしかない。 ◇

          「私とは何か」という問いはもっと俗っぽくなればいい

          大将!(ギャルゲー)やってる?【Ciel『After…』プレイ日記】

          やってるよ。 前略。私はゴールデンウィークにCiel出『After…』という鬱エロゲに手を出し重い傷を負った。重い傷とはひとこと「妹萌え」である。私は実在しない妹「高鷲渚」のシスコンと相成った。敬具。 「妹萌え」と端的に申し上げたが、そうは言ってもその「妹萌え」が殊の外深刻だと、そういうお話である。 『After…』のキモと兄妹の物語『After…』とは、鬱要素とちょっとしたファンタジーを盛り込んだノベル型ギャルゲーだ。 実妹・渚ルートに関わらず、主人公は確実に死ぬ(

          大将!(ギャルゲー)やってる?【Ciel『After…』プレイ日記】

          ショートショート 高橋さんは妹にならない

          「高橋。折り入って頼みがある」 「聞こうか」 「俺、妹が欲しいんだ」 「親に頼むやつ。なんでまた」 「今まで黙ってたんだが、実は俺、妹萌えなんだ」 「墓場まで持ってってくれればよかったのに。それで?」 「俺の妹になってくれないか?」 「うわあ」 ◇ 「えっと……どうしよう。幼馴染の乱心を止めてあげたい。そうは思いますけど」 「高橋が妹になってくれればそれでいいんだ」 「ちょっと黙ってて」 「はい」 「うん、はい。まずね、なれないと思うんだけどね。物理的にね。私、あなたの幼

          ショートショート 高橋さんは妹にならない

          短編小説 魔造兄妹

          男の言葉がうまく聞き取れず、反射的に聞き返してしまった。 「すまない。もう一度言ってくれないか」 聞き返すと同時に己を恥じた。大切な儀式の場で、相手がなんと言ったか聞き漏らすなどあってはならない。 だが、相手の男は相好を崩して応じた。どうやら、彼もまた、いくらか緊張していたらしい。 「ブックマンでも緊張するんだな。ちょっと安心した」 「いや……」 「ブックマン」と呼びはしたが、男の言葉は友にかけるそれだった。恥の上塗りと自覚しながら、ブックマンは、自分はいい友人を持ったものだ

          短編小説 魔造兄妹

          管理者コードは妹を知っている

          「はい。時間になりましたのでね。はじめていきます。今日でこの講義も十五回目ということで、最後になります。 この講義『非実在過去論考』は過去を、かつて存在したモノ、コト、文化、習俗、思想などを形式に囚われず雑多に紹介してきました。大切なことは、これらの知識ではありません。大切なことは、みなさんのなかで、私が紹介したことどもが点の知識でなく線の知識になることであり、情報としてではないなにかとして蓄積されて、ある種の、閾値を越えてもらうことであります。そういう方が受講者百七名のう

          管理者コードは妹を知っている

          短編小説 実妹トリビュート・ライブ

          「あの……これ」 「なに、これ」 「ち、チケット。じゃあ」 あいつは、渡すというよりその紙切れを置いてさっさと行ってしまった。え? なに、押し売り? 「へー。君も隅に置けないね」 田中さんが僕のノートを何度かシャーペンで叩いた。 「なにが?」 「それ、今度の文化祭のお誘いってことでしょ。遊びに来てねってことじゃない」 「そりゃそうだったら嬉しい。そうだったらね。実の兄を誘ってどうするの」 「え? 君って妹さんいたの」 「いるよ」 言われてみれば、話したことなかったっけ。 「ふ

          短編小説 実妹トリビュート・ライブ

          短編小説 お兄ちゃん召喚の儀

          たぶん。いや絶対。これは魔法陣だ。 床にばら撒いたコピー用紙を大きな模造紙に見立てて、そのうえに筆で描いた六芒星。筆て。真ん中に俺の写真。がに股で両手を前に突き出す妹。驚いた顔を俺の方に向ける妹。いや。こんな蛮行してるやつがすんなそんな顔。 「……」 「……」 たっぷりの間。 「お、おかえりお兄ちゃん」 「ただいま」 「ノックくらいしてよね!」 「インターフォンを押したが。よっぽど熱中してたんじゃないか?」 「してたね。成功したし」 「成功」 「おかえりお兄ちゃん!」 「い

          短編小説 お兄ちゃん召喚の儀

          短編小説 地獄兄妹

          「うわっやっとつながった。うわって言っちゃったよ。兄貴久しぶり! 今日そっち行っていい?」 五年ぶりに聞く妹の声は、懐かしいより騒々しいと思ってしまった。 「いやだ。それよりお前さ、なんで俺の連絡先」 「えーっいいじゃん。もうすぐそこまで来ちゃったよアタシ」 「いや、だからなんで俺の住んでるとこ」 「じゃっまたあとで!」 「俺の話聞いて……。あ、切りやがった」 近くに来てるだって? うそだろ。あわてて表に出る。 うわっ。あいつ金髪にしてやがる。でも、五年ぶりでも一目で分かる

          短編小説 地獄兄妹

          ギャルゲー『After…』〜頼むから仲良くしてくれ ラブコメ Edition【SS】

          我孫子慶生「祐一ってさ。渚ちゃんのこと好きだろ」 高鷲祐一「は?」 滝谷紘太郎「ば」 紘太郎「慶生お前、なに言ってんだよ」 慶生「なに言ってんだもなにも」 慶生「紘太郎だって気がついてるだろ。兄妹のくせに、祐一と渚ちゃんが普通じゃないってさ」 祐一「なんだよお前。その言い方」 慶生「ほんとのことだろ」 祐一「だれとだれが普通じゃないって」 慶生「い、いたい。なんだよ。だってそうだろ」 祐一「なにがだよ」 紘太郎「ばかお前ら。いまどこだか分かってるか。山だぞ山。せっまいテントで

          ギャルゲー『After…』〜頼むから仲良くしてくれ ラブコメ Edition【SS】

          高鷲渚「いつもお兄ちゃん、」〜『After…』【SS】

          高鷲渚(あたしはいまお兄ちゃんと二人暮らし。お父さんとお母さんは、もうずっと海外で仕事をしていて、家を空けている) 祐一「…ふあ。おはよう、渚」 渚「お兄ちゃん。おはよう。今日も遅いね」 祐一「まだ正月休みだからな…」 渚「いつもお兄ちゃん、寝坊してるじゃない」 祐一「う。辛辣…」 渚「ふふふ。朝ごはん、もうできるから。卵はスクランブルでいいよね?」 祐一「うん。ありがとう」 ◇ 渚(お料理とかお洗濯とか、家事はあたしの仕事。好きでやってるからいいんだけど。お買い物も楽

          高鷲渚「いつもお兄ちゃん、」〜『After…』【SS】

          実妹食らわば鬱まで〜SSという行為あるいは生き方

          当方「SS自給自足マン」である。SSは文字を使った二次創作である。 なにが良いって手軽で気楽だ。持論だがSSは作品ではない。たとえるなら一次創作に存在しないシーンをリプレイする道楽である。 ◇ ただいま絶賛『After…』のSSを書くのにハマっている。主人公・高鷲祐一と妹の渚のカプが愛おしくてたまらないので「存在しないシーン」を幻視して文字に起こして反芻しているわけだ。 それでいまちょっと困っている。 というのもこの『After…』というゲームは鬱い。このゲームには

          実妹食らわば鬱まで〜SSという行為あるいは生き方