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ショートショート:挟まれた男

俺は挟まっていた。何を言っているのかわからないかもしれない。俺もこの状況がわからない。とにかく俺は今、何かに挟まっている。

挟まっていることに気づいたのは10分ぐらい前だろうか。何が起きたのか全く分からない。挟まっているからだろうか、頭がはっきりしない。

挟まっていて身動きが取れないが、体が全く動かないわけではない。頑張って左手を抜くことが出来た。だが全身を抜くのは厳しい。左手につけた時計をチラリとみる。買ったばかりの最新のスマートウォッチだ。どうやら時間は午前5時半のようだ。こんな時間では挟まっている俺を引き抜いてくれる人が現れる可能性は低いだろうか。

周りは真っ暗だ。冬の朝は暗い。俺を見つけてくれる人はいるだろうか。夏だったらそろそろ明るいから見つかる可能性もあったかもしれない。でも夏じゃなくてよかった、夏だったら脱水症状を起こしていたかもしれないからだ。密着しているからだろうか、この時期でもちょっと暑いぐらいだ。逆に助かったかもしれない。

再び時計を見る。午前5時45分。再びだんだん意識が朦朧としてきた。あとどれぐらい猶予があるだろう。15分ぐらいだろうか。このままだと死んだおばあちゃんに会えそうだな。タマゴローにも。タマゴローはいい猫だったなぁ。よくなついていた。ふふふ。

そんなことを考えていたら、遠くから足音が聞こえてきた。俺は少し安心したが、それと同時に不安が頭をよぎった。近づいてくる人は俺に気づくか?気づいたとして助けてくれるだろうか。もし悪い奴だったら?足音が近づいてくる。なんて声を掛ければいい?どうすれば?さらに足音が近づき、朦朧とした意識が急速に覚醒する。ああ、すべてがわかった。その瞬間、足音の主と目が合う。俺がこいつに言うべき言葉は一つ。これだ!

『あ...あと10分だけ...』

『いい加減にしなさい!今日は早朝出勤なんでしょ!早く布団から出なさい!』

俺の願いも空しく、俺を挟んでいた布団の片割れは無慈悲にも妻に引き剥がされてしまった。

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