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メディアあれこれ 7 マスメディアとソーシャルメディアの連携の時代へ(27年前の予見)


以下は、「日経情報ストラテジー」1997年3月号所載に書いた文章です。27年前ですが、古びてない印象です。


◇新聞連載「サイバースペース革命」の新発想

 1996年の11月は日経産業新聞に何度か夜更かしをさせられた。なかなか貴重な体験をさせてもらったのだ。
 ある日、帰宅して、パソコンで電子メールを見ると、同紙の「サイバースペース革命」取材班から「至急意見求む」のメッセージ。その締め切りがなんと、翌日の夕方なのだ。それは私にとって、事実上、その晩のうちに書けということであった。
 「サイバースペース革命」新シリーズは、新聞が配達されるのとほぼ同時にインターネットにも載った。しかも新聞掲載分にとどまらず、記事中で引用した人の意見の全文が同時にアップされている。記事のその人の名前のところをクリックするしかけである。
 ギャラがあるわけでもなく、私は内心、虫のいい方法だなあと思いつつ、参加するのがおもしろくて、要請があるたびに、ついパソコンの前で午前様をしてしまった。朝起きられるだろうかと気にしつつ、これはマスコミの新しい形を先取りしているぞ、と確信を強めていった。大げさかもしれないが、ここで行われていることは、記者と読者の共同編集である。あくまでもマスコミの、プロとしての主体性を前提としてはいるが、マスコミが他者の視点を取り込みながら記事を書くという方法を獲得したのだ。

◇インターネットは関係性変革のメディア

 一般的に言えば、これは新しいメディアの活用によって、それまでの「関係」を変革した例だろう。インターネットという新しいメディアの特性を生かして、送り手と受けてという一方的な関係を、「共同編集」という新しい相互的な関係に変革したのである。
実は、現在のマスメディアの中では、まだ上記のような革新的な例はまれである。残念なことだが、マスメディアの人たちの中に、インターネットを関係性の変革のメディアとして理解している人が少ない。一見近いところにいるので、かえって新しいメディアの特性を素朴に見ようとしないのであろう。
 そういう目で一般企業に視線を移してみると、マスメディア広告を扱ってきた広告宣伝部門と、集中大量処理のシステムを作り上げてきたシステム部門に、上記と同様の傾向がある。全部がそうだというわけではないが、マスメディア体質を引きずっているのだ。ここから脱却するには、どのような視点を持ったらいいのか。まず、やれインターネットだ、イントラネットだ・・・という流行の追っかけをやめることはもちろん、いわゆる業務改革の発想もいったん止めるのがいいだろう。

◇マスメディアとネットワークメディアの連携・融合の時代へ

 代わりにどう発想すべきか。それはもっとずっと基本的なところに立つことだ。例えば市場とのコミュニケーションという命題をおいてみよう。「自社の製品の開発段階から発売後までのすべてのプロセス」を想定したとき、見込み客を含む顧客との間にどのようなコミュニケーションの形とメディア利用を構想して新しい関係を創造するのか。このような問いかけの中から、情報技術の活用、またマスメディアの新たな利用などの方向が浮かび上がってくるだろう。
 20世紀はマスプロ・マスセールスの時代であった。また、それと合わせ鏡の関係にあるマスメディアの世紀であった。来たるべき21世紀は、私はマスメディアとネットワークメディアの連携・融合の時代だと思う。こうしてみると、市場とのコミュニケーションを見直すという基礎作業が、そのような新しい時代の経営のフレームを再構築することにほかならない気がしてくる。
注1)本論においては、インターネットをメディアと言っていますが、大小さまざまなメディアを乗せることのできるメディアという意味でなので、メディアのプラットフォームないしインフラと表現する方がよいと現在では考えています。また、ネットワークメディアと言っているのは、現在ではソーシャルメディアと言うのが普通だと思われます。
注2)中見出しは今回noteに掲載に当たって新たに付けました。