アイデアが「閃く」ための作業手順【後編】
次の7つのステップを順番に適切に経ることで、アイデアが閃くようになります。
① 脳の中に「空っぽの問いの箱」を用意する
② 情報を収拾する
③ 問いの解決策を必死に考える
④ 問いを抱えたまま、考えるのをやめる
⑤ 日常生活中に勝手に「新しいアイデアが降りてくる」
⑥ 降りてきたアイデアをすぐ捕まえる
⑦ その新しいアイデアをベースに考えを肉付けする
①と②の詳細はこちら。
③ 問いの解決策を必死に考える
問いに対する解決策を考え出そうとします。ああでもない、こうでもないと考えます。良さそうな案を考えては検証する、考えたアイデアを人に話して反応を得る、を繰り返します。
アイデアは「既存の要素の新しい組合せ」と言われます。過去にない解決策を考えるべく、それまで繋がっていなかったもの同士を関連付けて、新しい組合せを作り出します。 アイデアを考えるほど情報感度が高まり、更に情報収拾ができるようになり、新しい情報を加えて考え直すことを繰り返します。
2週間3週間と解決策を考え続けることで、脳内に複数の仮説が形作られていきます。場合によっては2年3年と考え続ける場合もあります。 必死になって考えた結果、良いアイデアが形作られることもあれば、どれだけ考えても良いアイデアにたどり着かないこともあります。
④ 問いを抱えたまま、考えるのをやめる
どれだけ考えても良いアイデアに到達できず、考えが行き詰まってしまったら、考えるのを諦めます。
他の作業に取り掛かるもよし、買い物に行くのもよし、寝てもよし、人に会いに行くもよし。その時の確からしいアイデアや仮説を考えるのをやめ、何か別のことをしましょう。
考えるのをやめたとき、「意識的な脳」ではその問いについて考えない状態になります。一方で、実は「無意識下の脳」には残ったままになっています。四六時中あることを考えていると、常にそのことが頭から離れず、無意識のうちに問いや周辺情報が頭にこびりつくことになります。意識的に考えようとしなくても、脳内にこびりついてしまうのです。
そのような状態のときに、何気ない日常の光景や、何かの拍子に世界の見え方がかわり、それまでと違う風に捉えられることがあります。 未解決の問いを、無理やり結論に至らせるのではなく、モヤモヤしたままの状態で抱えて過ごす知的忍耐力が求められます。考え抜いた後に考えるのをやめるとは、アイデアがひらめくまで問題を抱えたまま待つということです。
⑤ 日常生活中に勝手に「新しいアイデアが降りてくる」
考えるのをやめ、日常生活を普段通りに過ごしていると、ある時どこからともなくアイデアが降りてきます。その到来を全く期待していない無欲で無心のときにこそ、アイデアのひらめきがやってきます。
閃いたアイデアは、降りてきた後はあまりにも自明に思えてしまい、それ以前になぜ気づかなかったかのかもわかりません。徐々にわかってくるのではなく、ある瞬間に、突然パッとアイデアが降りてくるのです。
アイデアがひらめくのは、日常生活中やリラックスしている最中です。入浴中、歩いている時、眠りにつく時、調理中、車の運転中、朝の外出準備をしている時など、ごく普段の日常生活中にアイデアが降りてきます。長期休暇などでリラックスしているときもアイデアがひらめきやすいです。脳の状態としては、何か特定のことに集中せずにぼーっとしている状態の時にひらめきます。
入浴中に閃いた例として、古代ギリシアのアルキメデスさんは、お風呂に入った時に湯船から溢れる湯を見て、アルキメデスの原理のヒントがひらめいたそうです。 日本人初のノーベル賞学者の湯川秀樹氏は、風呂の中で中間子論が閃いたそうです。iPS細胞の山中伸弥氏も、アパートでシャワーを浴びている時に素晴らしいアイデアがひらめき、それがiPS細胞発見につながりました。
散歩派の有名事例はニュートンさん。リンゴの実が木から落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見したそうです。研究室や部屋の中ではありません。
ベートーヴェンさんは散歩は日課だったそうで、散歩しながら交響曲第6番田園の2楽章「小川のほとりの情景」の構想を練ったそうです。アップル社創業者のスティーブ・ジョブズ氏も頻繁に散歩に出かけたといわれます。
長期休暇でリラックス中にひらめいた例として、ソニーの盛田氏はスキー場で聞こえる音楽が気に入らず、自分の好きな曲を聴きながらスキーしたいという発想が、後のウォークマンになりました。セールスフォース社創業者のマーク・ベニオフ氏は、休暇中にハワイで泳いでいるときに、クラウド型のソフトウェアサービスのアイデアが閃いたそうです。
ぼーっとして何も考えていないのに、どうしてアイデアがひらめくのか。
それは、ぼーっとしている時こそ、脳は活発に活動しているためです。ぼーっとしている時、脳は「デフォルト・モード・ネットワーク」という状態にあり、意識的な活動時より20倍も活発になっています。
脳が「デフォルト・モード・ネットワーク」にある時に中心的な役割を果たすのが記憶を司る「海馬」であり、無意識のうちに「記憶の断片」を様々なパターンでつなぎ合わせます。それが、過去にない新しい組み合わせになり、思わぬ「ひらめき」を生み出してくれるのです。
⑥ 降りてきた新しいアイデアをすぐ捕まえる
アイデアがひらめいたら、すぐに捕まえる必要があります。無意識の中でアイデアが降りてくるのは一瞬のため、すぐにメモに書き留めないと意識から消えてしまいます。
アイデアは、文字として降りてくることもあれば、絵や図として浮かぶこともあります。心に響く音のように降りてくることも、身体に感じる衝動としてこみ上げることもあります。文字であるとは限りません。常にメモを取れるように環境を整えておきましょう。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、創業直後にビジネスサイクル図をレストランの紙ナプキンに描いたといわれます。
ゼネラル・エレクトリック(GE)社を再建したジャック・ウェルチ氏は、夫人とレストランで食事中に「No1・No2戦略」を着想し、その場にあった紙ナプキンに描いたと言われます。レストランで思いつき、手元にあった紙ナプキンにメモしたのです。
ひらめきが脳内に留まる期間はとても短く、何か別のことに意識が向かってしまうと、脳内のひらめいたところに戻れません。思い出そうとするほど、「思い出す」という意識的な脳内活動が活発になり、思い出すことができません。アイデアがひらめいたら、それを捕まえるためにすぐメモを取りましょう。
⑦ その新しいアイデアをベースに肉付けする
ひらめいたアイデアは、常に素晴らしいとは限らないため、その内容が良さそうか意識的に確認や検証をします。
その新しいアイデアが素晴らしいと確認できたら、新しいアイデアをベースに肉付けをし、新規事業の企画を深めていきます。
アイデアがひらめくことは、才能ある一部の人だけのものではありません。「ひらめく」ための手順を適切に踏むことで、アイデアが降りてくるようになります。
まず脳の中に解くべき「空っぽの問いの箱」を設置します。その問いの適切な解決策を生み出すべく、情報収集と解決策の検討を繰り返します。ああでもないこうでもないと考え抜いた後に、その問いを考えることから少し距離をおきます。するとある時、考えてもいないのに、どこからともなくアイデアが降りてきます。
ひらめく頻度や内容は、人によって異なるものの、再現性をもって計画的にひらめくことができるようになるでしょう。
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