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新市場型破壊的イノベーションの作り方【事例】

これまで世の中にない事業創りは、これまで解決されてない問題に取り組み、それを解決する新プロダクトを創ることであり、名著「イノベーションのジレンマ」の著者クリステンセン教授のいう「新市場型破壊的イノベーション」な事業です。

新市場の創出を狙い、「無消費者」に向けた新プロダクト創りの事例を2つ書きます。

■無消費者向け新プロダクトで新市場創造事例1:受験サプリ

リクルート社のスマホ予備校「受験サプリ(現スタディサプリ)」は、無消費者層に、既存と全く異なる新しいプロダクトを提供し、新市場を創造した新規事業の成功事例です。

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「無消費者を捉える」
大学入試セミナー試験を受ける高校生は当時約55万人で、そのうち予備校通いは30万人ほど。既存の大手予備校などは、その30万人を各社で取り合っている状態でした。その差分の25万人の中には「塾に行きたくても値段が高くて諦めている子」や「地域に良い塾がないから、学校の勉強だけで済ませてしまっている子」もいるはずですが、無消費者となっていました。

「無消費者が抱えるジョブを捉える」
無消費者の抱えるジョブも、既存予備校に通う子のジョブも本来的には同じで、進学したい大学に合格することを望みます。その実現に向けて必要なジョブをこなすために、良質な学びの機会を得たいはずです。

「無消費者にとって、既存解決策のイマイチな点を捉える」
無消費者が、既存の予備校を利用できない理由は「塾は値段が高いこと」や「住む地域に良い塾がないこと」です。

「そのジョブを解決するソリューション・プロダクト案を検討する」
受験サプリ新規事業リーダーの山口氏は「既存の大手予備校が絶対に真似ができないビジネス」を作ろうとしました。
大手予備校は、既に高い売上があり、それを支える大きな固定費と人件費を抱えています。それに対して受験サプリでは「塾に行きたくても値段が高くて諦めている子」や「地域に良い塾がないから、学校の勉強だけで済ませてしまっている子」が利用できるように、立地の自由度、勉強時間の自由度、教師の質を追求したうえで、徹底的な低価格で提供しました。
そのターゲット層に加えて、全科目は塾通いできないから「特定の科目だけ安く勉強したい」ニーズを持つ学生にも対応しました。

「既存プロダクトと、新プロダクトの金額対比」
・既存プロダクト:高校3年生が通塾すると年間30〜50万円
・新プロダクト:受験サプリは年間1万円程度
既存プロダクトより圧倒的に安価に提供し、無消費者も気兼ねなく使えるようにし、無消費者を消費者に転換し、新市場を創造しました。

■無消費者向け新プロダクトで新市場創造事例2:マイシェフ 

私が起業して立ち上げた、出張シェフサービス「マイシェフ」も、無消費者層に、既存と異なる新しいプロダクトを提供し、新市場の創造を試みた事例です。 

「無消費者を捉える」
 出張シェフは非常に高価で、ごく一部の富裕層(超富裕層)が利用するサービスでした。
出張シェフの料金やメニュー表はどこかにあるわけでもなく、富裕層の間の口コミのみで広がるものでした。 超富裕層を除く大半の人は、出張シェフの注文方法さえわからず、ほとんどの日本人は無消費者となっていました。ほとんどの日本人は、出張シェフはテレビで見たことあるけれど、自分とは関係ないものと認識していました。 

「無消費者が抱えるジョブを捉える」
出張シェフの無消費者=ほとんどの日本人であり、そのままではジョブ特定はできません。そのためターゲット層を「外出が困難な人たち」、具体的には赤ちゃんのいる夫婦に設定しました。
独身時代や出産前は、お祝い事をレストランで美味しい食事で祝う方も多いです。しかし出産後は、赤ちゃん連れでレストランに行くのは困難になります。夫婦の結婚記念日や子供のお祝いを、本当は祝いたいけど、祝いづらいというジョブの存在を捉えました。

 「無消費者にとって、既存解決策のイマイチな点を捉える」
 赤ちゃんのいる夫婦は、レストランに行くのは困難なら、シェフに来てもらえば良いでしょう。しかし既存の出張シェフは「明らかに高い」、「注文しづらい」、「何をどうすれば良いかわからない」ものでした。 

「そのジョブを解決するソリューション・プロダクト案を検討する」
私はその無消費者のジョブ解決のために、「明らかに安くて明朗会計」、「旅行チケット購入のようなオンライン注文」、「注文〜当日までの作業を効率化・標準化・見える化」な出張シェフサービスを作ろうとしました。
レストランが行う出張シェフは、レストラン営業を休業して出張シェフする形になるため、店を休業するだけの金額でないと、出張する意味がありません。 それに対してマイシェフでは、料理人を雇用する形ではなく登録制にし、レストラン本業の休みの日に副業的にやってもらう形にしました。その方法で固定コストをなくし、圧倒的な低価格を可能にしました。
既存の出張シェフは「お客様のご要望通りになんでも作ります(高いけどね)」なスタイルが一般的でした。富裕層はこのスタイルに慣れている一方で、初めての人は何をどうすれば良いかわかりません。 一方でマイシェフは、「4品コース限定」とし、「苦手食材、当日集まり目的」だけ聞いて、それに合わせてシェフが具体的なメニュー提示する方法にしました。顧客に対して選択肢を狭めて標準化することで、わかりやすさを向上させつつ、「自分に合ったメニュー感」を感じてもらえることを狙いました。
限定することで、裏側の作業フローの効率化と標準化によりコストダウンを図り、オンライン注文が可能となるようにしました。 

「既存プロダクトと、新プロダクトの対比」
・既存プロダクト:1人あたり金額2〜5 万円、最低注文は10〜20万円〜
・新プロダクト:マイシェフは1人あたり金額4000円〜6000円、最低注文は1.5万円〜
既存プロダクトより圧倒的に安価に提供し、無消費者も普通に手が届くようにし、無消費者を消費者に転換し、新市場を創造しました。

■無消費者向け新プロダクトで新市場創造事例3:ホンダ スーパーカブ北米参入

このように事例を後講釈で整えると、「無消費者」はさも簡単に見出せると勘違いしかねません。
たまたま無消費者を発見し、うまく新市場創出に成功した事例として、書籍「イノベーションのジレンマ」にあるホンダのスーパーカブの北米市場進出事例を紹介します。 

初代スーパーカブを販売した1958年の翌年1959年に、創業11年のベンチャー企業のホンダは、川島喜八郎氏ら3人が米国進出のためにロサンゼルスに派遣され、営業拠点を設立。

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その頃、アメリカ人はオートバイを長距離ドライブに使っており、重視されるプロダクト特性は大きさ・馬力・スピードで、マーケットのほとんどは排気量500cc以上の大型オートバイで占められていました。アメリカ向けに開発したホンダの大型バイク売ろうとするも、馬力は弱いし故障も多く、ほとんど売れなかったそうです。 

北米攻略に攻めあぐねる中、川島氏らは、自分たちの移動用に日本から持ってきていたスーパーカブで、気晴らしに丘陵地域をツーリングに出かけていました。そのツーリングの様子を見たアメリカ人が、そのバイクはどこで買えるか尋ねてくるようになり、そのような人々のために日本に特別注文して個別に販売していたそうです。
そのように、スーパーカブは2年に渡り非公式に販売されました。 

その後、日本本社に対して、大型バイク参入の戦略は失敗したが、スーパーカブで新しい市場開拓戦略に切り替えるよう進言。もともとアメリカには存在していなかった、新しいレクリエーション用のオフロードバイクという新市場を開拓するに至りました。
小型バイク戦略が正式に決まると、販路開拓の困難に直面。小型バイクは安くて利幅が薄く、また無消費者向け市場だったためバイクディーラーに理解されませんでした。ようやく数件のスポーツ用品店で販売してくれることを取り付け、ホンダの新市場創造型の革新的な北米戦略が生まれました。

ホンダのスーパーカブ北米参入の事例は、結果としては、無消費者向けの新市場創造の大成功事例です。
しかし、あらかじめ成功を予見した戦略が練られていたかといえば、そうではありません。無消費者向けの新市場創造は、これほどまでに難しいものです。


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