市場創出型の新規事業を成功させるために、突破必須な3つのぶ厚い壁
経営思想家のピーター・ドラッカー氏によると、「企業の目的は、顧客の創造である」そうです。株価最大化や利益最大化ではなく、顧客の創造が企業の目的。
その目的のための企業の基本的機能は、マーケティングとイノベーションであると喝破しました。過去にないイノベーションを起こし、マーケティングを行い、新たな顧客を創造することが企業の目的であると。
それを考えれば、市場創出型のイノベーション(新規事業・新製品)は、企業の目的そのものと言えそうです。ただし、全くもって簡単でなく、超難易度が高いです。
未解決課題や無消費に対応する新プロダクト開発、別業界への既存延長線上とは異なる切り口での新規参入、業界常識や慣行を超える業界初の取り組みを通じた新市場の創出。
過去の市場創出型イノベーションの成功事例をみると、市場創出型の新規事業の推進のためには、突破必須な厚くて高い壁が3つありそうです。
①社内からの総反対・総スカン
②業界識者からの罵倒や見下し
③新プロダクト提供を支える複数の発明
①社内からの総反対・総スカン
「市場創出型」と言えば聞こえが良いですが、要は「今は市場がない」状態です。別業界への参入とは、「自社と関係ない業界になぜ?」と全社員が思います。業界常識を超えるとは、要はその業界の「非常識」です。
そのため、当然のように社内から反対、経営会議や取締役会で反対にあいます。表で賛成しても、裏で動かないことは日常茶飯事です。
サラリーマンの立場で、ほぼ全社員を向こうに回し、「それでもやるんだ」と主張し続け、裏では社内政治も使って進めるだけの、精神異常性・狂人性が求められます。
●ソニー社「プレステ」「ウォークマン」の場合
ソニー社の経営会議にて、ゲーム事業(プレイステーション)に参入するか撤退するかの議論では、大半の役員はゲーム事業は中止すべきという意見でした。その中で、当時課長の久夛良木氏が大賀社長(当時)に食ってかかり、大賀社長が「Do it!」と叫び、独断でゲーム事業への進出を決断したのは有名な話です。
同社のウォークマンも、役員会では井深氏と盛田氏以外は全員反対だったそうです。盛田氏が押し切って販売を決定するも、日米の販売部門責任者は面従腹背、やむなく盛田氏はコンバット部隊(専用の販売部隊)を立ち上げて販売開始せざるを得ませんでした。
●ホンダ社「ホンダジェット」の場合
ホンダジェットは、経営会議に持っていけば必ず大半の役員に反対され、航空機プロジェクトは事業化しない判断が、何度も社内でなされていました。社内では「金食い虫」と陰口を叩かれ続けていました。
そのような中で開発リーダーの藤野氏は、会社が認めないと言うなら、認めさせるまでだと、「これで航空機はやめるから、最後にチームの労を労うためにオシュコシュ航空ショーに出展したい」と、大嘘をついて出展に漕ぎ着けて一般にお披露目。ホンダジェット事業化への最後の望みを繋ぎました。
●私の場合「アクティブリード」
ITベンチャー勤務時、「ウェブアクセスデータを営業活動に活かす」という新しいコンセプトのSaaS(Software as a service)事業化を目指す際に、社内の総スカンを受けました。そのサービス企画は、当時の社内常識・業界常識から明らかにかけ離れたものだったためです。
サービス企画を練り、社内で承認を得るも、なかなか開発が進みませんでした。その時に仲の良いエンジニアが「清水さんの企画、開発チーム内で "ホットケリスト" って呼ばれてるよ」と、こっそり教えてくれました(プロジェクト名は"ホットリスト"というものだった)。
なんとか社内調整し、最低限の機能開発してプロダクト販売に漕ぎ着けると、次は営業が売ってくれませんでした。業界常識からかけ離れたもので、「こんなの売れるか」と思われたためです。唯一、SIer出身の営業1人だけ興味を示し、その人と二人で営業し、比較的すぐ2件受注できました。
②業界識者からの罵倒や見下し
業界常識を超えるやり方をすることは、業界の人からすると「非常識」です。「舐めてるのか?」「バカにしてるのか?」「素人が何を考えてるんだ?」と、当然のように感じます。
そのような業界知見者の声を覆すだけの、根拠や圧倒的な情熱、過去にない方法が求められます。
●リクルート社「受験サプリ」の場合
リクルート社の受験サプリ(現スタディサプリ)を立上げ時、山口文洋氏は予備校カリスマ講師を巻き込むべく、ツテをたどって静岡の肘井学氏に相談します。その際、肘井学氏は「オンライン教育はどこの予備校もチャレンジしてるけど、うまくいってない。リクルートの若造が、スマホで授業教えるなんて、教育舐めるなよ」と断るつもりで山口氏と会ったそうです。
●ホンダ社「ホンダジェット」の場合
藤野氏が考えた「主翼の上にエンジン」のアイデアは、ジェット界では非常識なものでした。藤野氏は主翼の上にエンジンがある航空機の模型を作り、ボーイング社の実験設備を借りて風洞試験を行いましたが、「ホンダのやつらは飛行機のことをわかっちゃいない」と、ボーイングのエンジニアの間で格好の笑いのタネになっていました。
●私の場合「マイシェフ」
創業した会社のシェア型出張シェフサービスの「マイシェフ」は、市場相場の8割ダウンの料金帯で提供するため、料理人の常識に反するやり方をしていました。
料理の「仕込み」が重要なことは、プロ料理人の世界では常識です。仕込みが料理の出来を左右します。しかしマイシェフでは「事前の仕込みはNG」としました。料理人からするとあり得ないことであり、サービス開始初期は何人もの料理人から「料理人をバカにしてるのか?」と批判されました。
③新プロダクト提供を支える複数の発明
未解決課題や無消費が存在したり、イマイチな品質のサービスが存在し続けるのには、相応の理由があります。主たる理由はコストと技術レベルです。
例えば私が創業した出張シェフ領域は、都度出張して人件費がかかり、都度単発注文のため、最低注文額が10〜20万円ほどが業界相場でした。そのため実質的に富裕層向けのサービスであり、大半の人には手が届かない=無消費なものでした。
このような状態の中で、無消費に対応して新たに市場創出を狙おうとすると、過去の延長線上の改善では実現不可能であり、何かしらの発明が必要です。
●オンワード社「KASHIYAMA the Smart Tailor」の場合
プロジェクトリーダーの関口猛氏は、従来オーダースーツは最低10万円する一方で、既成スーツの平均単価は4万円ほど。既成スーツの価格帯でオーダースーツを提供しようとしました。
オーダースーツは納品1ヶ月という社内常識の中、納期を1週間にしたいと社内に伝えました。生産・物流・縫製すべての部門から「そんなのできるわけない」「品質が下がる」と猛反対にあったそうです。
短納期実現のためには、縫製工場の徹底的な自動化が必要と判断。中国の工場を買収し、IoT導入や最新機器・システム導入し、デジタルミシンがスーツを作り、ロボットが生地裁断、受注から在庫管理・製品移動や輸送まで自動化を実現、全自動の革新的スマートファクトリーを構築することで、注文から納品まで1週間という常識外れの短納期を実現しました。
●クックパッド社「クックパッドマート 」
インターネットやスマホが広がり、小売におけるEC率は年々高まり、大手小売各社がネットスーパーに参入するも、生鮮食品のEC化率は低いままでした。ネックとなっていたのが配送料、鮮度と受け取りでした。その領域に、独自のやり方で生鮮食品ネットスーパー参入したのが、レシピサイト大手クックパッド社。
通常ネットスーパーが、"専業主婦の母親が、日中は家にいる" を暗黙の前提とするのに対して、"共働きで買い物時間なく、日中家にいない" というユーザー像を前提にサービス全体をデザイン。配送料、注文ロット、受け取り時間などをトータルに検討し、自宅近くにある「生鮮宅配ボックス」で受け取れる形にしました。
「生鮮宅配ボックス」は市販の受け取りロッカーでは要件を満たさなかったため、IoT冷蔵庫=生鮮宅配ボックスを自社開発しました。
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