新規事業開発7つのステージ【補足2:各ステージの期間と売上規模】
新規事業開発の7つのステージは、それぞれやるべきことは異なるものの、各ステージは完全分割された活動ではなく、一定の連動性をもって取り組まれます。
■最初の大きな判断 ③事業企画&プロダクト企画の承認
新規事業開発プロセスにおける、最初の大きな判断は、③事業企画&プロダクト企画を承認し、④プロダクト具現化のための投資判断をすることです。
スタートアップでは、新規事業開発はあらゆる意味でアジャイルなため、新プロダクトを開発しながら顧客に当てて検証を進め、スジが悪いと判明したら、社長の一声ですぐ終了や方向転換が可能です。プロダクトの具現化ステージであっても、クイックに活動を止める判断がなされます。
一方で企業の新規事業では、開発投資判断がなされて、④新プロダクトの具現化・開発ステージに入ると、その前のステージに戻ることが相当難しくなります。投下する予算規模的にも、関わる社員の多さやパートナー企業との契約の観点でも、プロダクトの具現化・開発の活動を進めている途中で致命的問題を発見したとしても、プロダクト具現化の活動を止めることは、サラリーマンにはほぼ不可能なのが現実ではないでしょうか。
新プロダクトの方向修正は、プロダクト機能や使い勝手のレベルの修正はできるでしょう。しかし想定ターゲット顧客や市場の変更、想定プライスやビジネスモデルの変更は、この時点で行うことは困難です。だからこそ、③事業企画&プロダクト企画ステージまでが決定的に重要であり、十分なリソースをかけて突き詰めておくべきです。
③事業企画&プロダクト企画ステージに前向きに取り組む新規事業リーダーは、自らが企画する内容を事業化させたい誘惑に駆られます。新規事業担当なのに、新規事業を具現化するステージに進めないのは、仕事していないように感じてしまうからです。社内からの「遊んでていいねえ」「金食い虫」といった陰口も耳に入ってくるかもしれません。 しかし、そのような自らの誘惑に基づくのではなく、本当にいけると心の底から信じられる事業企画&プロダクト企画を作ることに注力しましょう。
■⑤事業立上げステージに到達したら、ようやくスタート
新規事業開発というと、企画〜開発〜ローンチ&販売開始につい意識が向きがちですが、新プロダクトのローンチ・販売開始はゴールなどではなく、ようやくスタート地点に立ったに過ぎません。
新規事業の企画から社内調整、事業具現化のための様々な業務は、本流事業業務と異なる種類の壁や苦労があり、新プロダクトのローンチに至ることができると、ある種の達成感があるものです。しかし冷静に捉えてみれば、①初期アイデア創出ステージ〜④プロダクト具現化ステージまでは、社内やパートナー企業・発注先とのやり取りに限定される話です。
新プロダクトのローンチ・販売開始後に初めて、顧客やユーザーの審判を受けることになります。
事前のユーザー調査で多くの人に「欲しい」と言われたかもしれません。で、実際に売れ始めたか?
企画段階で綿密な調査を通じて、値決めをしたことでしょう。で、実際に売れ始めたか?
顧客視点でサービスや接客の仕方を作り込んだことでしょう。で、実際にそれは無理なく実行できているか?
それまで社内という内輪で練ってきたことが現実世界に投入され、初めて顧客やユーザーの目に留まり、顧客やユーザーの反応を得られ始めてようやく新規事業のスタートです。
■新規事業の一旦の成功と言える ⑥事業初期成長ステージへの到達
事事業立ち上げステージで、実際の商売の成立、検証と修正を通じた新プロダクトのブラッシュアップ、成長のための拡大方法の3点が概ねクリアできたら、⑥事業初期成長ステージに移ります。 このステージに到達できた新規事業チームには、「おめでとうございます!」と言いたいと思います。
何もないところから頼りなく始まった新規事業開発の営みは、新規事業チーム内で数えきれない喜怒哀楽を共にしてきたと思います。よくまあここまで来たもんだなと、是非、新規事業チームでささやかな祝杯をあげてください。
■7つの各ステージの期間と売上規模新規事業開発7つのステージ
それぞれの期間や売上規模は、会社規模や新規事業の慣れ不慣れ、作る新事業案によって変わるものの、私はおおよそ次のような目安を設定しています。
①初期アイデア創出ステージ〜②顧客と顧客課題の定義ステージ〜③事業企画&プロダクト企画ステージ
この3つのステージの期間は、2〜12ヶ月ほどです。
行ったり来たりを繰り返すため、この3つのステージをひとまとまりとして捉えます。顧客課題についてある程度仮説がある人が新規事業リーダーになったり、創る事業が上からの指示である場合は、このステージは2-3ヶ月で練り上げることができるかもしれません。一方で白紙の状態から取り組む場合には、丸1年ほどかかるかもしれません。
取り組むに値する顧客課題を見つけ出すのは、想像以上に難しいものです。
例えば、クラウド労務管理SaaS「SmartHR」の創業者は、起業後にSmartHRのプロダクト案に到るまでに、「創案→ヒアリング検証→案の取り下げ」を12回繰り返したそうです。
私が以前勤めた会社で、「ウェブコンシェルジュサービス」という、BtoBのサブスク型のデータ分析&改善支援サービスを事業開発した際は、社長が紙ペラ1枚の初期事業コンセプトを作成しており、私はその領域に土地勘があったこともあり、①〜③のステージと初期顧客獲得まで2カ月で行いました。
④プロダクト具現化ステージ
このステージは、3〜12ヶ月ほどかかります。
法令などで高品質が義務付けられる業界(例:エネルギー産業)でない限り、最初から100点満点を目指すのではなく、必要最小限の機能(MPV)の実装を目指すのが賢明です。
⑤事業立上げステージ
このステージは、6〜18ヶ月ほどかかります。
まず、事業仮説の検証と修正を繰り返します。検証とプロダクト修正を繰り返すことで、顧客ニーズにフィットするポイントに到達できると、売れ始めて事業が離陸します。そして、顧客獲得や新事業のスケーラビリティと再現性を実現する成長ドライバーの発見を目指します。
例えば、リクルート社の「受験サプリ(現スタディサプリ)」は2012年10月の販売開始時1科目5000円の売り切りモデルでした。販売開始前に、数百人にインタビューしたところ「5000円なら購入したい」という声が多かったそうです。
しかし蓋を開けてみれば、1科目5000円では全然売れず、ユーザー数も増えず。調査などを通じて、2013年3月に料金体系を刷新。動画配信サービスと同価格帯の月額980円に設定し直したところ、ユーザー数が伸び始めました。受験サプリの場合、新プロダクトのローンチ後、事業仮説の検証と修正の繰り返しに6カ月かかりました。
私が以前勤めた会社で立ち上げた、「ウェブコンシェルジュサービス」は、初期の立ち上がりから調子が良く、3カ月で15件受注獲得できました。顧客獲得の再現性はなかったものの、顧客課題と新サービスのフィット具合を確認できたため、事業部門として切り出して私が部門責任者となり、事業の本格成長に更に投資することになりました。
事業立上げ活動を通じて、実際に商売が成立したか、検証と修正を通じて顧客課題と新プロダクトがフィットしたか、成長のための拡大方法が見えたか、この3点が概ねクリアできたら、次のステージに移ります。
月の売上が安定して100万円〜500万円くらいに到達すれば、事業が離陸したとみなして良いでしょう。
⑥事業初期成長ステージ
このステージは、6〜36ヶ月ほどかかります。
新プロダクト自体の検証と修正に加え、プロダクト以外の様々な活動や業務領域についても試行錯誤を通じて、事業を成長朝せることを狙います。プロダクト具現化ステージに進んだもののうち、このステージまで至ることができるのは10%ほどではないでしょうか。
例えば、リクルート社の新規事業プログラム「Ring」は、事業化判断をした中で、黒字化に至るのは15%ほどだそうです。新規事業が超得意な会社であるリクルート社でさえ、そのくらいの成功率です。
(全応募の中で事業化判断をする割合は2%ほど。割合的には、事業案を350個考え、その中から7つ事業化判断し、その中の1つが黒字化に至るくらいの成功確率です)
事業が成長状態に入り、確度の高い事業拡大方法や施策群が見いだせたら、次のステージに移ります。月の売上が1000万円〜5000万円くらいに到達すれば、事業が成長状態に入ったと判断して良いでしょう。新事業の月の売上が5000万円ほどは、スタートアップであれば数年後のIPO(株式上場)を見据え始める規模感です。
⑦事業安定成長ステージ
このステージは、業務の標準化や組織的な運営体制を進め、継続成長ができる状態を目指します。月の売上が1億円〜5億円ほど、つまり年間売上が2桁億円に至れれば、大企業の新規事業として遜色ない事業規模ではないでしょうか。
ゼロからその売上規模に至る期間で参考になるのは、スタートアップの創業からIPO(株式上場)までの期間です。2020年にIPOした会社は93社あり、その創業からIPOまでの平均期間は17年でした。大企業のリソースを活用することで、もう少し期間短縮が狙える新事業はあるかもしれません。
さて、私が以前立ち上げた、「ウェブコンシェルジュサービス」はその後どうなったか。
⑥の事業初期成長ステージでは、新規事業1年目の売上は、ほぼ目標通りに右肩上がりに成長しました。しかしその頃、リーマンショックが業界を襲い、急成長した新規事業は急激に逆回転し始めました。その後は坂を転げ落ちるように売上は減少し、私は部門責任者を外され、その後、既存事業部に吸収される形で新規事業としては終わりを迎えることになりました。残念ながら、⑦の事業安定成長ステージに至ることはできませんでした。