新規事業の成功率は10%未満
「新規事業がうまくいかない」、「どうすれば新事業がうまく進むのか」、「なぜうまくいかないのだろう」企業で新規事業に携わる方はこのように思い、四苦八苦しているかもしれません。
ただそのように悩む前に、新規事業について知るべき1つの事実があります。それは「新規事業の成功確率は10%未満である」ということ。
私の個人的な感覚でもそのくらいであり、新規事業の経験豊富な友人や起業家に聞いても同様の感覚を持つ人が多いです。
新規事業の成功確率:10%未満とは、失敗確率は90%以上であるということ。新規事業に10回以上取り組み、9回は失敗し、1つでもうまくいけば上出来というのが、新規事業開発の実情です。
「新規事業の成功確率10%未満」
新規事業に取り組む人や企業は、この成功確率をきちんと認識することが、新規事業開発の成功に向けた最初の一歩です。
■新規事業の成功率10%ほどの会社の例
新規事業の成功率はもっと高いのでは?、と思うかもしれませんが、新規事業が得意な会社でさえ成功確率10%ほどのようです。
【リクルート社】
新規事業を作り続ける企業として有名なリクルート社は、新規事業プログラムRingを1982年から35年以上やり続けています。Ring全応募の中で、ブラッシュアップして事業化フェーズに進むのは2%、そのうち黒字化するのは15%だそうです。ブラッシュアップのために、社内で新規事業立上げ経験のある7人が専任で企画者を支援します。
ある年は応募630件、絞り込み12件の事業化(2%)、黒字化に至るのが2件(15%)の成功確率。応募数を分母、黒字化を分子とするなら、成功率は 0.3%で、失敗率は99.7%です。
Ringから生まれた事業で実際に事業化(収益化)したのは、応募してから5年以上経過してからであり、機関事業に成長したものは10年に1つほどのようです。
・1983年 カーセンサー
・1991年 ゼクシイ
・1992年 ホットペッパー
・2011年 受験サプリ
https://www.itc.or.jp/about/inv20131115_recruit.pdf
【DeNA社】
大手ネットベンチャーDeNA社も、新規事業に積極的に取り組むことで有名です。同社の新規事業として、2014年からの4年で約40サービスを世に出しました。その後の2018年末時点で事業継続している4〜5サービスほど。
つまり事業開始・サービスリリースした後に、9割はサービス・事業を閉じています。新規事業の成功率は、全身全霊をかけて”打率1割”、失敗9割だと、同社の元役員も語ります。
【オリックス社】
「大企業のサラリーマンに向くような人は採らない」ことで有名なオリックス社会長の宮内氏は、新規事業の多くは失敗すると認識しており、「成功率はイチローの打率より低い」と表現します。
イチローさんの生涯打率は3割強であり、オリックス社の新規事業の成功率は0〜30%の間だと想像されます。
僭越ながら、私がこれまで取り組んだ新規事業の成功率も、イチローさんの打率より低いと思われます。
【ユニクロ社】
平成30年間で、日本で最も成長した会社の一つのユニクロ社。平成元年の売上約100億円から30年後には売上2兆円を超え、200倍以上の大成長。
同社社長の柳井氏の書籍「一勝九敗」にある通り、新しい取り組みの成功率は「一勝九敗」。つまり成功率は10%で、失敗率は90%です。
【ソニー社】
日本を代表する大企業ソニー社を再生させた元社長の平井氏は、社長就任翌年の2013 International CESで、ライフスタイルを変える新商品開発について、次のように語っています。
社内で言ってることですが、、、出して失敗してもいいじゃない、と。私はエンタメ出身なんで、レコードも、新人10人出しても、1人当たるか当たらないかですよ。だからといって新人を出さないのはあり得ない。
新製品もどんどん出せば良くて、当たればいいし、ダメなら次のものをやる。「そういうことはやっちゃダメ」という環境になってはいけない。私が自ら、独断と偏見かもしれないけれど、「これ、やろうよ」という雰囲気に、どんどん会社を変えていこうとしているんです。
【ホンダ社】
日本を代表する大企業ホンダ社を創業した本田宗一郎氏は、次のように語ったと言われます。
「多くの人は皆、成功を夢見て望んでいるが、私は『成功は、99パーセントの失敗に与えられた1パーセントだ』と思っている。開拓者精神によって自ら新しい世界に挑み、失敗、反省、勇気という3つの道具を繰り返して使うことによってのみ、最後の成功という結果に達することができると私は信じている。」
創業事業である自動車修理業からモノづくりを目指してピストンリング製造に挑戦し、ピストンリング開発スタートから9カ月経った1937年11月に大手トヨタ自動車に納入する機会を得ました。ピストンリング3万本ほど作り、厳選した50本をトヨタ自動車に納入したところ、トヨタから合格認定を受けたのはたったの3本だったそう。
つまり、2万9997本は不良であり、不良品率99.99%からのスタートでした。
新規事業が得意な会社は、新規事業の成功率の低さを理解した上で、新規事業の取り組みを進めています。 新規事業がうまくいかないと嘆く前に、新規事業はほとんどうまくいかず、成功率は10%未満であることを知っておきましょう。
■新規事業は失敗するのが当たり前
新規事業の成功率が10%未満ということは、良いと思うやり方で一生懸命取り組んだ結果、90%以上は失敗するということです。「新規事業がうまくいかないのはなぜだろう」という考え方自体が間違っています。失敗するのが大半で、ごく当たり前だからです。
これまでの成功パターンでやると、失敗します。世の中的に良いと言われるやり方でやると、失敗します。良いと思うやり方や既存成功パターンでやるとまず失敗する、という事実を理解し、今までの当たり前ややり方とは異なる、「新規事業を進めるためのやり方や物事の捉え方」を探らねばならない、ということを理解し、その考えに立脚した行動が必要です。
あなたの常識や直感に反するやり方をせねばならず、ビジネスに対する思考回路のパラダイムシフトを受け入れることが、新規事業のスタート地点となります。
この理解は新規事業開発リーダーやメンバーだけが必要なのではありません。会社の最終意思決定機関である経営陣、会社のリソース配分や事業ガバナンスを担う経営企画や人事部、会社の実務レベルの実質的意思決定層である保守本流事業の部課長も、この理解が必要です。
「新規事業の成功率は10%未満」であり、大半の取り組みは失敗すること。新規事業に20回挑戦し、18回か19回は無残に朽ち果てるのが普通であること。新規事業を進めるには、既存のやり方ではなく、新規事業を進めるためのやり方で推進せねばならず、それは社内常識や直感に反する内容であること。
取り組みの大半が失敗する取り組みは、新規事業の他には、企業における基礎研究があります。
2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野氏は「基礎研究は10個に1つ当たれば良い方」「90%は無駄な研究をしないとその一つが出てこない。無駄をなくすとゼロになる」と言います。実際に吉野氏も、リチウムイオン電池の研究に取り組む前に、3回連続で基礎研究に失敗しています。
イノベーション創出の試みは、ほとんどの失敗の中から生まれる可能性を持つことを、積極的に認める価値観・哲学を、企業の経営者が持っていることが必須です。
「新規事業の成功確率10%未満」という事実を知らないと何が起こってしまうのか。野球で例えてみましょう。
プロ野球の世界で、打率8割9割を選手に要求する監督はどこにもいません。なぜなら、打率3割で優秀バッターであると知っているから。4割打ったら日本新記録です。
監督はもちろん、打者も投手も、野球関係者も、このような数値を当然理解しています。もし選手に8割打つことを要求したら、野球を全くわかっていないズブの素人だと看做されます。野球を知らないにもほどがあると。
企業の新規事業において、100%の成功率を要求したり、1発必中の成功を期待するのは、この野球の例と同じくらいズブの素人です。
企業で新規事業に関係するあらゆる人が、新規事業の成功確率10%未満であると認識することが、新規事業開発の成功に向けた最初の一歩です。