「働く×やさしい日本語」で外国人にとっての人事・労務手続きをわかりやすくしたい
SmartHRが目指す「誰もがその人らしく働ける社会」。これを実現するには、働く人々が言葉という最も基本的な社会との接点を、自分だけの力で理解でき、さまざまな手続きを行えることが重要です。
しかし、外国人や知的障害のある方など、日本語の読解に難しさを抱える方を雇用する企業が増えているいま、言葉が原因で手続きが難しくなってしまう人が増えています。
SmartHRのアクセシビリティ本部では、「やさしい日本語」がユーザーにとっての「わかりにくさ」に対する力強い解決策になると考え、ヒアリングやアンケートなどの調査を進めてきました。
そして、この度「SmartHR」ホーム画面のやさしい日本語切り替え機能を提供開始しました。
この記事では、難しい労務手続きの代表である年末調整を主軸に、企業で働く外国人に対して行った調査の結果をまとめました。
「やさしい日本語」とは
やさしい日本語とは、難しい言葉を簡単な言葉に言い換えたり、漢字にふりがなをふるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のことです(※)。
SmartHRが取り組むやさしい日本語では、
伝えたいことを整理し、情報を取捨選択する
難しい漢字や言葉を、ほかの言葉に言い換える
などの調整を行うことによって、読み手にとってのわかりにくさを減らしています。
※ 法務省「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」より
この取り組みはアクセシビリティ本部を中心に、外国人や障害者、高齢者などの幅広いユーザーにもSmartHRを便利に利用していただくための改善として進めています。
同部署からベトナム出身の社員(リュウ・ホンギさん)や台湾出身の社員(リュウ・エンチュンさん)が参画し、第二・第三の言語として日本語を使う当事者の目線を重視していることが特長です。
最もサポートが必要な労務手続きは「年末調整」
ユーザーアンケートの結果から、外国人従業員がSmartHRで手続きを行うとき、人事労務担当者のサポートを最も必要としているのは「年末調整」であるとわかりました。
そこで、企業で働く日本語検定が中級以下の外国人9人に対して、SmartHRで使われている通常の日本語文章と、やさしい日本語に書き換えた文章の両方を読んでもらい、理解度の変化を調査しました。
調査結果
アンケートによる理解度変化の調査
このアンケートでは、企業で働く日本語検定が中級以下の外国人9人に対し、SmartHRの年末調整の手続きで使われている「通常の日本語」と「やさしい日本語」の両方を読んでもらい、文章の理解度を尋ねました。
調査の結果、「通常の日本語」では「読めば読むほど迷う」や「言葉も難しい、読みたくもない」であったものが「やさしい日本語」では「簡単で読みやすい」「簡単に理解できた」に変化することがわかりました。
設問1
【やさしい日本語への変換】
書き換え
「退職」から「会社をやめる」
「退職」は、日本語の中級レベル以上の漢字なので、「会社をやめる」に書き換えました。
設問2
【やさしい日本語への変換】
書き換え
「給与収入」から「給与」
「給与収入」は、日常会話のみを勉強している人にはやや難しい言葉です。
「下記に該当する場合」から「あなたは下の場合の人だったら」
「該当する」から、「〜の場合だったら」に書き換え、また日本語は主語を省略する特徴があり、対象が分かりづらくなるため「あなたは」を補いました。
その他
選択→選ぶ
かけもち→ほかの仕事
転職→仕事が変わりました
前職から収入→やめた会社からのお金
設問3
【やさしい日本語への変換】
書き換え
「かけもち」から「ほかの仕事」
「かけもち」は漢字を使わない言葉ですが、日常会話で耳にする機会が少なく、外国人にとって難しい言葉です。
「所得税の甲乙の判定」を削除
企業で働く外国人の多くは、最終的に正しく手続きができれば、制度名など(ここでは甲乙判定)を厳密に理解する必要性は高くありません。知らない言葉の量が増えると、読むのに疲れたり、混乱してしまう場合もあります。
通常の日本語では「所得税の甲乙の判定のところよく分からない」のというコメントがありましたが、やさしい日本語では全員が理解でき、「簡単で読みやすい」という声もありました。
設問4
【やさしい日本語への変換】
書き換え
収入見込→予定の収入
かけもち→ほかの仕事
比較→比べる
「全部わかった」は2倍に増加し、「全くわからない」割合は三分の一まで減少。しかし「見込み収入・予定の収入」に何が含まれるか分からないことから、理解しづらいと感じる人は残りました。
設問5
【やさしい日本語への変換】
書き換え
退職した→やめた
給与を受け取る→給与をもらう
読み方の追加
源泉徴収票は書き換えることができないため、よみがなをカッコの中に追加
設問6
【やさしい日本語への変換】
説明の追加
障害者→障害者(目の見えない人、耳が聞こえない人、手が動けない人、など)
書き換え
該当→当たる
この設問では対象に含まれる専門用語を書き換えませんでしたが、質問を簡単にして、冒頭の文章だけでも答えが分かる工夫をしました。
設問7
【やさしい日本語への変換】
伝え方を変更
税法上の扶養家族→お金を送っている家族
「税法上の扶養家族」の定義を知っている人は少なく、説明を追加するとしても複雑で難しい内容になるため、簡潔に「お金を送っている家族」に変更しました。
設問8
【やさしい日本語への変換】
伝え方を変更
2024年の年末調整で保険料控除を申告しますか?→2023年、会社からもらった保険証以外、ほかの保険を買いましたか?
企業で働く外国人(この場合は特定技能実習生)の多くの人は「保険料控除」を申請することがありません。そのため概念自体を知らず、どの場合に報告するべきなのかも分かりません。よって「申告しますか?」ではなく、状況を説明する質問にしました。
オンラインインタビューによる「年末調整」に関する課題調査
この調査では、年末調整について、企業で働く外国人本人と支援者に質問しました。
以下はインタビュー時のコメントをまとめたものです。
担当者が感じる課題
「年末調整では、労働者から扶養家族に関する質問があります。家族の誰が扶養家族の対象になるか、減税の対象になるのは何歳で金額はいくらまでか、証明書の準備についてなどです。
減税になる送金額についての説明など、間違ってしまうと従業員に大きな影響があるものについては説明の責任が大きく大変です。」
「日本独自の制度については、翻訳しても意味が伝わらない。翻訳された用語について質問されても会社は答えられない。」
企業で働く外国人が感じる課題
「年末調整をやるとき、漢字が読めず、調べられないこともある。毎年変わる内容もあるので、どうしたらいいかわからない。」
「専門的な用語はベトナム語に翻訳してあっても意味がわからない。ベトナム語で調べても情報を見つけられないことがある。日本語で書いてあると自分で検索できるし、日本人に質問しやすい。」
調査のまとめ
やさしい日本語を通じて、設問の理解度がかなり改善されました。
必ずしも、外国語に翻訳すれば分かりやすくなるわけではないことが分かりました。
また、やさしい日本語で設問を読めれば、担当者への問い合わせもしやすくなります。
SmartHRを使う従業員と人事労務担当者、両方の不便さを解消したい
SmartHRのやさしい日本語の取り組みでは、おもに2つの不便さの軽減を目指しています。
一つめは「個別の質問に答える」などの方法で従業員をサポートしている人事労務担当者の負担軽減です。この不便さに対して、SmartHRでは手続きに関するFAQの拡充や、用語集の提供を検討しています。
すでに以下のnoteでは、給与明細や扶養に関するやさしい日本語版の用語集をまとめていますのでぜひご活用ください。
二つめは、SmartHRでさまざまな労務手続きを行う従業員自身が、周囲の助けを必要とせず手続きを完了できるようにすることです。このためには、プロダクトの文言自体をやさしい日本語にすることが必要だと考えています。
この2つの不便さを軽減することによって、企業は幅広い従業員とよりスムーズに仕事を共にできるようになるでしょう。
やさしい日本語を必要としている方は、外国人だけではありません。
これまでは主に、急増している外国人従業員への対応としてやさしい日本語の取り組みを行ってきましたが、最近では、知的障害者の方を多く雇用する企業からも関心を寄せられています。
今後は外国人以外の方々にも調査にご協力いただき、言葉の面からより多くのユーザーの使いやすさを支えていきたいと考えています。