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開発組織に所属するドメインエキスパート。事業領域の深い知識と開発者目線を併せ持つ専門家の役割とは。

SmartHRの開発組織では、ドメインエキスパートという職種を設けています。
会社によって定義の異なるポジションですが、SmartHRでは、「SmartHR」が扱う人事・労務領域の専門知識と、プロダクト開発に携わるために必要なITやシステムの知識をかけ合わせてプロダクト開発に貢献する役割と定義しています。
(ポジションの概要については、以下のTechBlogをご覧ください)
労務知識をプロダクトに還元していたら、開発チームの一員になっていた話

そこで、今回はSmartHRのドメインエキスパートとしての取り組みや、ドメインエキスパートという職種の広がりについて、同ユニットに所属する大塚さん(@chankes)と中島さん(@Nakaji)のおふたりに聞いてみました。

ーーまずは自己紹介をお願いします。

大塚さん:前職では給与計算システムの導入コンサルタントを7年ほどしており、ユーザーに近い目線で人事・労務の実務に触れていました。2020年4月にSmartHR入社してからは、人事労務研究所の所属としてプロダクトと社内向け労務の両方を担当し、2021年1月よりプロダクトに特化するドメインエキスパートの役割を担っています。

大塚さんの写真。ソファに座っている。
大塚さん

中島さん:SmartHRには2022年4月に入社しました。前職で人事・労務業務のほか、財務や社内SEなど幅広い経験を積んだ後、人事労務の実務経験を活かして開発に携われる仕事をしたいと思い転職しました。

中島さんの写真。ソファに座っている。
中島さん

SmartHRのドメインエキスパートについて

ーードメインエキスパートとして働くのは、おふたりともSmartHRが初めてなんですね。
開発組織の中での立ち位置や、お二人の役割分担について教えてもらえますか?

大塚さん:ユニットはプロダクトサイドにあるPM(プロダクトマネジメント)グループに所属していて、メンバーは僕たち二人だけです。「SmartHR」の中でも、法律や制度の変更が直結する機能の開発チームに各々が入って活動をしています。具体的には、僕が電子申請や届出書類に関する機能を、中島さんが「年末調整」機能を担当しています。
それ以外の機能は二人で協力する形を取っており、開発組織の中で唯一僕たちだけがドメイン知識の収集と各プロダクト組織への共有・発信業務を担当しています。

中島さん:実際の開発ロードマップの検討はPMが担当していて、僕たちはドメイン知識を元にどういった要素を追加・変更するのが良さそうか、といった情報を伝えるのがメインの役割です。また、伝えるために必要な情報収集や、PM以外への情報発信も行っています。
「年末調整」機能における情報収集では、「令和4年度の税制改正」など年末調整に関する法律や制度の公表内容を確認し、プロダクトへの影響などを整理しています。発信については、社内向けに行う勉強会から、SmartHR Mag.SmartHRガイドでの執筆といった社外向けのものまで幅広い場所で行っています。

大塚さんと中島さんの写真。ふたりともソファに座っている。

大塚さん:僕が担当している電子申請や届出書類に関する機能は、中島さんの担当している「年末調整」機能の領域と違い、法改正や制度変更の時期を読みにくい点が特徴的です。そのため、プロダクトの仕様変更が必要になりそうな発表が無いか、年間を通じて確認を行っています。「法改正ウォッチ」と名付けて、社内労務のメンバーと一緒に厚生労働省など電子申請や社会保険に関わる省庁のホームページで公開されている情報の定点観測を行っています。

中島さん:ここまで、制度や法律関連の話が続きましたが、お客様に関する情報収集も部分的に僕たちの担当です。お客様に対してPMやPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)と一緒に直接ヒアリングに参加するケースもあれば、CS(カスタマーサクセス)やSP(カスタマーサポート)がお客様からいただいた要望の内容を咀嚼して開発組織に還元するケースもあります。お客様に近い目線で要望の勘所を押さえながら、開発組織が取り組みやすい形に翻訳するのが僕たちの役割だと考えています。

ーー担当するプロダクトによって、役割や求められることが微妙に異なっているのが興味深いです。お二人が最近手がけられたお仕事についてもお話しいただけますか?

中島さん:先日、今年の年末調整に関する対応が一段落しました。各種変更に関する情報収集と開発チームへのインプットにはじまり、当社の社内労務ユニットが「SmartHR」を利用したり従業員からの問い合わせに対応する際のサポートも行いました。
また、将来的な制度変更の情報も一部公開されているため、対応の優先順位づけや対応方法の検討など、来年以降の機能開発についても考えています。変更する可能性は高いものの具体的な変更点が見えていない制度は、PMへ情報を共有します。

大塚さん:僕は、社内労務チーム協力のもと、機能が一般公開される前の実務的なテスト(いわゆる、ドッグフーディング)を行いました。たとえば、先日はとある書類の電子申請を行う機能をSmartHR社のアカウント上にだけ適用して、行政への届出が正しく完了するかの確認を行いました。細かな粒度で課題を発見でき、さらに受け取ったフィードバックをすぐに開発に活かせるのでいつも助かっています。

大塚さんの写真。中島さんの背中越しにSmartHRロゴと共に写っている。

ーーお話から、仕事の幅の広さが垣間見られてワクワクしますね。外部との取り組みもあったりするんですか?

大塚さん:社会保険システム連絡協議会という、社会保険関係の電子申請のソフトウェアを提供するベンダー会社の団体に加盟しています。協議会としての取り組みの一例として、行政の方々にソフトウェアベンダーとしての意見や要望をお伝えしたり、全国社会保険労務士会連合会と情報交換をしています。
また、官民会議体「電子申請API対応のための会議」が今年発足しました。デジタル庁や厚生労働省の方々もメンバーに入っているため、e-Govをテーマに定期的な意見交換ができる非常に貴重な場となっています。

ドメインエキスパートという役職の広がりについて

ーー「SmartHR」が正しい前提に基づいた機能を開発・提供できている理由の一つに、お二人の活動があることがよくわかりました。
少し話が変わるのですが、開発組織の中にドメインエキスパートを置いている企業は多いんですか?

中島さん:先日、日本国内のドメインエキスパートについて調べる機会がありました。SmartHRにとっての人事・労務のように、特定業務の知識が求められるサービスを開発している企業や、建築・医療など特定業界の知識を求められるサービスを開発している企業など、多種多様な企業にドメインエキスパートが居ることに驚きました。一方で、担当する領域や組織体制などが各社で違っており、発展途上な職種だと思います。

中島さんの写真。大塚さんの背中越しにオフィスの風景と共に写っている。

大塚さん:そもそもプロダクト開発って、自分たちが作ったものをユーザーに便利だと感じてもらえる確証が無くて、ゴールに至る過程もわかりにくい、不確実性の高い営みだと思っています。だからこそ、ユーザーの目線とドメイン知識とを兼ね備えたメンバーが開発組織に対して貢献できることは大きく、職種の広がりにつながっている印象です。
また、一般的な開発体制においてPMが担う役割は広いので、法律・制度などのキャッチアップの難易度が高い領域では、役割を切り分けるのも、自然な流れのように感じています。余談ですが、SmartHRはPMの他にPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)という職種があるなど業務の細分化が進んでいます。

ーーどういった人がドメインエキスパートになっているんですか?

中島さん:まだまだ確立されていない職種なので、会社によってほしい人材、スキルは異なると思います。ただ、提供しているサービスのドメイン知識とシステム開発の知識の両方を一定レベルで持っている人に対しては、広く間口が開かれていることを多くの人に知ってもらいたいですね。
実を言うと僕も、転職活動をするまでドメインエキスパートという職種を知らなかった人間の一人です(笑)。人事労務の経験とシステム開発の経験をかけ合わせた結果、現在の職種にたどり着いているので、特殊なスキルは必要ないと思っています。

大塚さん:プロダクト開発の経験はなくても、強い興味がある方にこそ知ってほしい職種だと思っています。
プロダクト開発の経験がない方がプロダクト開発に携わるための転職をされる際、待遇などの条件を下げざるをえないのが一般的です。一方で、ドメインエキスパートであれば、ドメイン知識の面で開発チームに貢献しながらプロダクト開発に関する知識やノウハウを吸収できるため、今までのキャリアを活かしながらジョブチェンジしていくことが可能です。

ーードメインエキスパートという職種の発展にかける思いを感じました。
最後に、今後の抱負をお願いします。

中島さん:自身がメインで担当している機能の開発に貢献するのはもちろん、SmartHR全体を見渡して、ドメイン知識を活かせることが他に無いか模索したいと思っています。そのため、ドメインエキスパートとしての能力に加えて、プロダクトオーナーやPMの目線やスキルも学んでいきたいです。

大塚さん:組織を拡大させていくと共に、開発体制におけるドメインエキスパートの役割を、より明確にしていきたいと考えています。たとえば、現時点ではあまり開発に関与できていない機能に対しても何ができるのかを見極め、SmartHR全体のバリューアップにつなげていきたいと思っています。

大塚さんと中島さんの写真。SmartHRロゴが書かれた壁の前に並んでいる。

ーーおふたりともありがとうございました!