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CFO森雄志が語る、社員数1,300名を超えたSmartHRのコーポレート部門のこれから

2024年7月、SmartHRは約214億円のシリーズEラウンドを実施しました。未上場スタートアップとしては前例がない規模の資金調達をリードしたのは、2023年10月、29歳でSmartHRのCFOに就任した森 雄志さん(@yjmr_1101)です。強い意志をもってSmartHRのファイナンスを牽引する森さんのこれまでのキャリアや、今後のSmartHRにかける想いを聞きました。


学生時代からファイナンスに興味を持ち、新卒でIR部門に配属


──まずは森さんがSmartHRのCFOに就任するまでのお話を聞かせてください。
 

森:2016年、新卒で楽天グループ株式会社に入社しました。すぐにIR部署に配属され、3年ほどは一般的な上場企業のIR業務に携わりました。その後にM&Aやアライアンスのチームに移り、そこで1年弱くらいM&A案件のプロジェクトマネジメントを経験しました。そしてSmartHRに転職したのが、2020年の3月です。

──楽天では新卒からIR部署に配属されたんですね。大学の専攻などが関係していたんですか?

森:いえ、専攻は政治学だったんですが、大学生の頃から投資に興味があって。株式投資をやってみたり、当時は仮想通貨が流行りだしていた頃でちょっと触ってみたりもしていました。

思えば、投資に興味が向くようになったのにはきっかけがあるんです。僕の出身地の大分には、明治時代に紡績で財をなした和田豊治さんという実業家がいて、その遺産を運用する財団がありました。財団が、大分から東京に進学する学生を対象に奨学金を設けており、僕はそれを受けたんです。それで「資産運用をしてお金が増えるというのはどういうことなんだろう?」と興味を持ったのが始まりでした。

といっても、入社する会社の事業と金融への興味が強く結びついていたわけではなく、就職先は楽天に縁をもらいました。その中でも何か自分の興味に繋がることができるといいなと、ファイナンス・IRの部署を希望したんです。それで念願叶ってIR部署に配属されたという流れです。

SmartHRのファイナンス・IR部門の立ち上げへ。シリーズD、Eの資金調達をリード


──SmartHRに入社してからは5年近くが経とうとしていますが、どのような業務に携わってきたのでしょうか? 

森:入社してから経験してきたことは、2021年のシリーズD、2024年のシリーズEの2回の資金調達が大きなところですね。 

入社したときにはもちろんCFOの話などまったくなく、いちメンバーとしての入社でした。ただひたすらプレイヤーとして業務を進める立場で。最初の1年半は、2021年6月に実施したシリーズDの資金調達に向けて投資家の開拓や、実際にラウンドが始まったときのデューデリジェンス(DD)の対応、投資家との交渉などが業務の大きなボリュームを占めていました。 

当時はものすごい勢いで採用やマーケティングへの投資を拡張していたこともあって、かなりの金額を集めなければならない状況でした。結果としてシリーズDでは156億円を調達しましたが、未上場のラウンドでそれだけの金額を調達した事例は日本ではほとんどなくて。「そもそもどういう投資家がそんなに買ってくれるんだ?」と、投資家探しのところから取り掛かっていきましたね。

──過去に例のない大型の資金調達、手探り状態になりそうですが、どのように進めていったのでしょうか。 

森:この金額になると、日本国内の投資家だけでは難しく、海外の投資家をターゲットにする必要がありました。当時は、海外の投資家が、日本のSaaS企業──といっても上場企業が対象で未上場はほとんどなかったのですが──にどんどん投資している流れがありました。一方で、上場会社、未上場会社の両方に投資をする、いわゆるクロスオーバー投資家の活動が盛んになってきてもいたんです。 

そのあたりを狙って、上場しているSaaS企業の投資家リストにあたったり、証券会社主催の投資家とのマッチングイベントに積極的に参加したりしました。とにかく投資家の方々にSmartHRという会社のことを知ってもらうことが大事だったので、いろんな投資家に会いながらSmartHRへの理解を深めていただき、その後の調達に繋げていきました。

──森さんがプレイヤーとして意識していたことはどんなことですか?

森:2021年の1月頃から動き出して6月にクローズしたのですが、その間は赤字なので、資金はどんどん減っていきます。仮に資金調達がスムーズにいかず投資を止めれば成長は鈍化する。そして成長が鈍化したら更に資金調達が難しくなります。そういう状況下で、必要な投資は止めずに、資金調達をいかにスピーディーに、スケジュール通りに完了させるかについてはすごく意識していましたし、プレッシャーを感じていたところでもありました。 

個人的には、ファイナンス・IR部門の立ち上げメンバーという立ち位置で入社していたので、結果を出して自分の価値を示していかねば、という思いは強かったです。僕がSmartHRに入社した頃の従業員数は200人ほどでした。その規模の企業では、コーポレート部門は立ち上げ期、メンバーも1人2人、というケースが多いです。僕もまさに2人目のファイナンス部門メンバーでした。

新規立ち上げの部署はどんな部署であっても、社内の人たちに対して「自分たちは何をやる人なのか、会社にとってどんな価値をもたらすのか」を示していく必要があると思っています。そこは意識していて、目に見えるかたちで成果を残していかなきゃいけないという思いは強く持っていましたね。 

──そういったマインドもファイナンス部門の成果や評価につながっていったんですね。その後、森さんとしては2回目の資金調達、シリーズEを2024年に成功させました。2回経験してみて、どうでしたか? 

森:シリーズDの3年後にシリーズEの資金調達を行ったわけですが、難易度ははるかに高かったですね。 

シリーズDのときは、マーケット環境が非常に良かったんです。赤字でも高い成長を示しているSaaS企業にはある程度資金が集まる状態でした。2022年以降にSaaSマーケットのバブルがはじけて資金調達の難易度は格段に上がりました。 

それにシリーズE、Fとレイターになればなるほど、相対的に投資家を見つけるのは難しくなります。今回はOTPPとKKRいう2社が新規で投資してくださったのですが、そのDDの中で、過去の実績や今後の成長戦略、事業計画については相当深く見られました。今後5年、7年というスパンで会社が成長していくことを信じてもらえないと、投資は受けられない。事業計画における数値や戦略はもちろんのこと、その計画を実行できる経営陣が揃っているかというところも見られます。CFOである僕だけではなく、CEO、COOはじめ経営陣全員、深いDDを受けました。 

あとは資金調達のスキームも複雑化しました。新株の発行と同時にセカンダリーの株式譲渡も行ったため、そこの手続きの複雑さも大変でしたね。

自分の脳みそ・腕っぷしにこだわる姿勢は逆に無責任。チームで成果を最大化する 


──メンバーとして1回、そしてCFOになってから1回、資金調達において中心的な役割を果たした森さんですが、自分自身、CFOになって変わったなと思うところはありますか? 

森:自分はマネジメントをしつつプレイヤーでもあったので、自分の頭で考えて答えを導かなければいけないという、 “自らの腕っぷし勝負”みたいな意識がすごく強かったんです。 

CFOになって一番変わったのは、自分でやったかどうかよりも、チームとして事業成長に貢献するアウトカムが出せているかどうかがすべてだと思うようになったところですね。もちろん自分自身も自己研鑽を続けながら成長はしていくのですが、急成長企業においては求められる役割や成果は、自分の成長曲線以上に高まっていくわけです。

1メンバーだった頃は、仮にアウトカムが芳しくなければ、自己評価で悪い評価をつけて終わりです。一方CFOになると、自らのアウトカムが会社の成長を左右します。そのヒリヒリ感に気づいた時に、「自分の頭で答えを導き出せたか」というプロセスに拘る姿勢は、逆に無責任だと思うようになりました。 

チームとして出せた成果が大事で、それが自分の頭で考えたことなのかどうかにこだわる必要はないし、最終的な成果物が自分が思った形から変わっていても別に構わないわけです。 

その代わり、「自責」という意識はいっそう強くなりました。自分の力だけで成果を出さなくてもいいけれど、その代わり、自分が受け持つチームや組織で起きていることは、ネガティブなことも含めてすべて自分に責任があると。手放すところと、責任をとるべきところ、そのバランスを考えるようになりました。 

──マインドが変わったことで、実際に自分自身やメンバーに求める仕事のやり方も変わりましたか?

森:僕自身は人に頼ることをおぼえました。自分ですぐに答えが出せないことは以前より早く周りの人に聞くようになりましたね。また採用面でも意識が変わりました。今のチーム全体を見回して、今後の会社の成長のために育てるべき能力は何かをすごく考える。自分のプライドは捨てて、自分よりも優秀な人を採用するという思考になりました。 

よく「自分よりも優秀な人を採用しなさい」と言いますよね。僕ももちろん頭ではわかっているつもりではいたのですが、なぜそうしなければならないか、本当に腹落ちしたのはCFOになってからです。そうしないと、会社が求める成長に追いつけないからなんですよね。かなりのスピード感をもって会社のフェーズが変化していく中、会社として解決していかなければならない課題に対して、自分より適任な人は、今いるメンバーにしろ、新規採用にしろ、絶対にいる。その人を探しにいこう、という感覚に自然と変わっていきました。 

こういう話はチームメンバーにもよくしています。コーポレートの領域では、その道のスペシャリストとして成果を出し、管理職やマネジメントに就く人が多いです。自分の専門性を武器に自分の市場価値を上げてきた人は、自分だけでなくチームで成果を出すという発想に切り替えられない人もままいます。僕自身もそうでした。 

本当に自分の力だけで、今、会社が求めているレベルの進化ができるのかを問い続ければ、おのずとチームの力が必要であることがわかるはずです。チームメンバーの力を頼り、足りないスキルは新規の採用で補う、そうやって会社の成長を加速させていくというマインドを、コーポレート部門の各リーダーには持ってもらいたいですね。

常に2歩、3歩先をイメージして組織を形作っていく 


──会社の成長を支える組織として、コーポレート部門のあるべき姿についてもうかがいたいです。森さんはどのように考えていますか? 

森:会社のタイプやフェーズによりけりですが……僕のイメージでは、特に成長フェーズにあるスタートアップやベンチャー企業だと、コーポレートに求められる水準は直線で高まっていくというよりは、階段状で、ある日突然、多くのものが求められるようになります。 

たとえば資金調達でいうと、シリーズDは、調達額61.5億のシリーズCと比較すると、一気に2.5倍以上の調達額になりました。そこで、シリーズCは基本的に日本の投資家リードだったものを、シリーズDからいきなり海外投資家リードで進めなければならなくなった。語学力はもちろん、社内のDDの体制、契約書の体制など、急に難易度も2倍、3倍になる感覚です。さらにシリーズDからEになると、調達環境の悪化などによって難易度は5倍、10倍になりました。急に高い壁にぶち当たる感覚ですね。 

これに対してコーポレートはどういう力をつけるべきかというと、常に2歩、3歩先のフェーズをイメージしながら、逆算して業務を形づくっていくことが求められると思います。今の会社の少し先のフェーズを経験して知っている人を採用することも、ものすごく大事になってきます。 

かといってコーポレート部門では特に、過剰投資は押さえなければならない側面もあります。やる必要はあるけれど、備えすぎるとかえって会社の成長を阻害することにもなりかねない。僕も迷いながらですが、いい塩梅を見極めていくことがとても大事だと考えています。 

──少し先の姿を見据えて会社の体制を整えていくことが、コーポレート部門には求められているんですね。 

森:あるべき会社の姿を社員に対して明確に示して目標を共有していくことも、我々の大事な役割だと考えています。 

コーポレート部門は、全社に対して社の方針やメッセージを伝える機会を非常に多く持っています。社員が日々使っている業務ツールに関することやコンプライアンス研修もそうですし、内部統制上必要なプロセスの導入などについても、コーポレート部門が発信します。こういった情報から、会社のフェーズが変わってきたことや、今求められている組織の水準がどのあたりにあるのか、間接的に会社の変化が社員に伝わるんです。 

SmartHRが企業として成長するにつれ、社会的責任も大きくなっていきます。それに比例して組織としてもレベルアップしていくことが求められるわけで、そういう意味合いを社員に対して伝える役割を、コーポレート部門は持っていると思うんです。だからこそメッセージを発するときには、変更や改善、新規導入の背景にあるもの、なぜそれが必要なのかをしっかり説明するように意識しています。 

また、社内で形骸化したプロセスがあると感じたら、変えることを厭わないスタンスも必要です。SmartHRは常に成長を続けており、事業環境もどんどん変化している中では、制度もすぐに陳腐化します。一度定着してしまうと変えることに対して腰が重くなりがちですが、そこはこまめに変えていく勇気を持ってほしいです。 

最近、「ゼロベースで物事を考える」というのをキーワードにしていて。コーポレートだけではなく全社のメンバーに対して、意識してもらいたいと考えています。前年の延長、前例踏襲でなんとなく物事を決めていないか。このプロセスは今必要なのか、そのKPIの設定の仕方は今に合っているのか、このツールを使い続けるのが適切なのか……その慣れ親しんだ前例を疑うことが、すごく大事。ゼロベースで、成長を最大化しようと思ったら何をするか、しがらみや慣習を取り払ってすべてを考える姿勢を浸透させたいです。 

ここまで会社の規模が大きくなってくると、全従業員が納得できるハッピーな意思決定というのもなかなか難しくなってきます。もしかしたらこれまでと変わることで、不満が生じる社員もいるかもしれません。でも、会社があるべき姿で成長していかないことには、最終的には社員もハッピーになれないので。社員がどう感じるかも大切にしながら、コーポレートとしてやるべきことを、毅然とした態度でやることも必要になってきますね。

SmartHRは自分の30代を捧げるのに最も価値のあるプロジェクト 


──シリーズEの資金調達が完了し、さらに成長を加速させていこうというステージに来ました。
 

森:僕たちSmartHRは2030年に向けて、国内のSaaS企業がこれまで経験したことのないような、本当に高い山を目指すことを決めました。前例のない大きなチャレンジに挑んでいくにあたって、苦労もたくさんありますが、その分ますますやりがいのあるフェーズになっていくと思っています。未知の領域でノウハウもなく、今の経営陣ですら答えを持っているとは限らない中、社内の英知を結集して取り組んでいく必要がある。つまり、多様な人がそれぞれに活躍できるチャンスに満ちているということでもあります。

僕自身も、入社して3年半という短い間にメンバーからCFOまでやらせていただくに至りました。こういうステップアップの機会も、これからたくさんあると思います。本当に面白いフェーズになるんじゃないでしょうか。苦労も多いけれど、目標に到達できたときの達成感はひとしおだと思います。 

──森さんもそれを期待してSmartHRに入社したんですか?

森:SmartHRに入社したのは、もともとはファイナンス・IR部門をゼロから立ち上げることに興味があったからです。実際にその経験を積み、その後CFOの打診を受けたわけですが、当然のことながら、いち社員でいるのとはまったく異なるコミットメントが求められます。取締役になるからには、「ちょっと自分のやりたいことができたから、来年辞めます」というわけにはいきません。会社に求められている限りは、それなりに長期間のコミットメントが必要です。打診を受ける前、自分はどうしたいのだろうとよく考えました。 

そこで僕は思いました。高い山を目指そうとしているSmartHRは、単に目標が高いというだけではなくて、今のSmartHRのアセットを活用すれば、その高い山の頂上に到達することは全然不可能ではないな、と。CFOの打診を受けたとき、僕はちょうど30歳になろうという頃でしたが、SmartHRは自分の30代を捧げるのに最も価値あるプロジェクトだと思いました。それで引き受けたというのはありますね。 

──森さんの強く熱い思いが伝わってきました。最後に森さんから、今いる社員、これから入社する人へのメッセージをいただけますか。

森:とにかく状況は刻一刻と変わっていくので、先ほどお話しした「ゼロベースで物事を考える」を徹底してほしいです。そして、今も本当に、会社の中は課題だらけです。未上場のスタートアップとしてはかなりの規模になってはいますが、2030年に到達すべき山の高さから考えると、今を第二創業期と捉えて、会社をまるごと作り変えていくくらいのことをやっていかないと到達できないんじゃないかなと思っています。

「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」というミッションのもと、SmartHRというサービスを世の中になくてはならない真の社会インフラへと育てていきたいと思っています。そのチャレンジに力を合わせて挑んでいきましょう。


SmartHRを社会インフラへと育てていくために、SmartHRでは多種多様な職種の採用を加速しています。ご興味をお持ちいただいた方は、まずはカジュアル面談からでも、ぜひお話しできればと思います。

SmartHRのシリーズEラウンドに関しては、以下の記事もご覧ください。