お盆休みのこの一冊(4)塩田武士『歪んだ波紋』(講談社文庫)【加速のついたレガシーメディアの転落】
お盆期間中、おススメの本をご紹介しています。今回は4回目です。
前回はこちら。
ラストの今回は、現代小説から1冊選びました。
今、勢いのある作家の一人と言える塩田武士さんの作品です。
塩田作品は、デビュー作からチェックしていますが、作風の幅の広い作家です。元神戸新聞社の記者の経歴もあり、本作のリアリティーは、さすがの一作です。
本作をとりあげる理由は、この作品で問われている新聞社やテレビ、いわゆるレガシーメディアの抱える問題がより深刻になっているという点です。
作中には、ネットメディアやフェイクニュースなどが扱われていますが、それがちょっと昔の話題と感じられるほどレガシーメディアの問題はあっという間に加速がついて深い闇に突入したという印象です。
恐らくこれらは、表層的な問題だったのではと感じます。再販制度や放送法などシステムに守られてきたレガシーメディアは、結局のところ「学歴エリート」の受け皿となり、ネット時代に突入して、批判にさらされて思考停止状態になっているのではと感じます。
先日の朝日新聞の川柳事件がその最たるものかなと感じます。川柳なんだから多少の社会風刺は、当然のことですし、一方で亡くなった権力者にシンパシーを感じる人たちが川柳に何か言うものもまた当然です。
黙ってやり過ごせないところに「育ちのよさ」と「ひ弱さ」が同居しているように見えます。
新聞社の人たちや放送局の人たちはいい人が多いのだろうと思いますが、弱肉強食と化した時代にエリートだけではメディアはやっていけない時代になったと感じます。
たくましいジャーナリズム精神を持った人から辞めているのが現実かもしれませんが、もう10年ぐらいレガシーメディアは頑張ってほしいものだと思いますが、これも甘い見通しかなと思う日々です。