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配属先は、脚本課。①


  死んだ私の魂が、「字が上手い」という理由からあの世で筆耕係をすることになった。

  ある時、休憩時間中に先輩と話していると上司から呼び出された。

  きみを手放すのはとても惜しい。

  辞令だった。上司はこうも言った。

「きみには個性がある。とても素晴らしいことだ。だが筆耕係に個性は必要ない。字に個性がついてしまうからだ。だからきみは、きみの個性を存分に発揮出来るところへ異動するのだ。脚本課にね。」

  脚本課。それは文芸部の花形部署である。そんな派手なところに地味なのが行くなんて、死にに行くようなものである。

 まぁ、もうすでに死んでいるんだけど。

  そもそも。死んでから今までのことがあまりにもめまぐるしすぎて、生きていた頃のことなんかちっとも覚えていない。名前も、住んでいた地域も、どんな人生だったのかも。全て。でもそれは、こっちの人は皆そうらしい。まるで赤ちゃんが、お母さんのお腹の中にいた頃の記憶がないような、生まれてすぐの頃の記憶がないような、そんな感覚なのかもしれない。

  それでも人は気にならないのだろうか。

  気づいたら死んでいて、気づいたらなんとなく働いていて。

  気づいたらそこにあった、ここでの日常より、以前の自分に。

 そんなふとした疑問も流してしまう位に、

 移動から赴任までがとにかく早すぎる。

 私の脚本課での日常も、気がついたら始まっていた。

つづく


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