見出し画像

吉田秋生の”河の流れ”

 Upstream or Downstream

 ただ、好きというだけでなく、少なからず影響を受けたマンガ家さんを"note"していきます。


 吉田秋生さんの代表作と言えば、なんといっても『BANANA FISH』ですよね。

画像1

 ”バナナフィッシュ”を巡る謀略という骨太の物語の中で、”アッシュ”という唯一無二の存在と”英二”との友情?が織りなすドラマで、大人気だった作品ですよね。

 バナナイエローで統一された装幀もかっこよかったですよね。

 ただ、自分にとって、この『BANANA FISH』よりも印象が強い作品があって、それが ”BANANA FISH前” の『吉祥天女』と『河よりも長くゆるやかに』なのです。


**********

 

 吉田秋生さんの画風は、ちょっと独特で、無駄のないシンプルな画面構成が気になって読み始めたのですが、最初に読んだのが『吉祥天女』だったので、ちょっと怖いイメージが優先しちゃったんですよね。

画像2

 叶家の娘、美貌の少女、小夜子が街に帰ってきたことから、不穏な空気が立ち込める。地に囚われた自らの運命を呪う少女。
 そして叶家の財をねらう遠野家の陰謀渦巻くこの街で、小夜子の領域を侵す者が次々に死んでゆく。


 描線を少なくして、黒ベタを多用した光と影のコントラストの強い画面で、小夜子の持つ二面性が強調されて、静かな迫力があったんですよね。

画像3

 こ、怖いですよね...
 物語の方もドロドロしていて、次々とダメな男が小夜子の虜になっちゃうんですよね。......そして、死んでいく。

 読んでると”ゾワッ”とさせられることも多くて、読み始めると途中でやめられなくなっちゃうのです。
 とにかく、この『吉祥天女』はインパクトが強かったのです。


 そして次に読んだのが『河よりも長くゆるやかに

画像4

 『吉祥天女』とは、打って変わって、能天気な作品でした。

 女とみればヤリたがり、大麻ときけば吸いたがるニッポンの高校生トシ、深雪♂、秋男。けっこうシビアな現実を抱えてたりもするのだが、涙をこらえて脳天気なふりをしてみせるのさっ。ゲイバーでバイト、ドラッグ密売、スーパーでナンパと、りりしくしぶとくスケベに生きる3人組が今日も行く。

 紹介文でもこんな感じで、とにかく、明るくバカな男子生徒の生態が描かれていたんですが、ちょっと大人の高校生トシの生活に、ちょっと憧れてしまいました。

 『吉祥天女』とのあまりのギャップに、同じ作家さんなのかと疑うほどですが、こちらもまた魅力的なマンガなんですよね~。

 大好きだったんですが、2巻が刊行された後、続きが出ない.... あれ、終わりだったのって感じのままで、まだ、完結した実感はなかったりします。(今でも続きを待ってます!)

 2巻の最後の方で、トシと深雪の二人が、河を眺めながら、上流ではきれいだったのに下流では、こんなに汚れちゃって....みたいな会話があります。

 でもさ、海に近くなると汚れはするけどさ
 深くて広くてゆったりと流れるじゃないか

 どっちがいい

 うん、そうだな____


画像5

 この会話が、やっぱり心に残ってるんですよね~
 今でも忘れられない。

    人生を河の流れ例えるのは、美空ひばりさんの「川の流れのように」よりも、かなり前でしたからね。
 自分にとっては、人生の考え方に大きく影響している言葉です。


 私の人生も下流になってきてますが、河よりも長くゆるやかに生きてきたのかな~って思いますね。

 吉田秋生さんは、『BANANA FISH』以降も『YASHA-夜叉-』や『海街diary』などの名作を描き続けているんですが、そのルーツは、シリアスでサスペンスフルな『吉祥天女』や、能天気だけど、ふっとリアルが顔を出す『河よりも長くゆるやかに』の中にあるような気がするのです。

 最近、発表ペースがゆっくりとなっているような気がしますが、まだまだ作品を読ませてもらいたい作家さんなのです。


**********



■■ 吉田秋生さんの映像化作品 ■■

 ”King Gnu” の「Player X」がエンディングを飾ったアニメ『BANANA FISH』は、2018年の作品なんで、原作から30年という、まさに満を持してという感じでしたが、以前から吉田秋生さんの作品はけっこう映像化されてるんですよね。


    映画作品だけでも

 『櫻の園』(1990)*2008年に再映画化
 『ラヴァーズ・キス』(2003)
 『吉祥天女』(2007)
 『海街diary』(2015) などなど

 ステキな4姉妹を描いた『海街diary』も良かったのですが、やっぱり一番記憶に残っているのは1990年の『櫻の園』です。

 女子高校の演劇部に所属する普通の生徒たちの1日の物語。
 かなり原作に忠実に作られていて、何も特別なことはないのに、引き込まれていくんです。

 映画を観た後に原作を読みなおすと、頭の中で、ノクターンが聴こえてくるのです。