優しすぎる安部恭弘の歌声(シティ・ポップの記憶⑥)
The City-Pop in my Memory Ⅵ
私が “シティ・ポップ” として聴いていたアーティストに関する “note” ですが、今回は、安部恭弘さんについて記事にしていこうと思います。
安部恭弘さんは、杉真理さんが大学在学中に結成したマリ&レッド・ストライプスに竹内まりやさんらと一緒に参加するものの解散…
その後一旦は就職するものの、音楽を諦めきれずにソロアーティストとなった方です。
もしかすると、これまで紹介した方の中では1番地味な存在だったかもしれません。
でも、ヨコハマタイヤのCMシリーズを追いかけていた自分にとって、中学時代、最もはまったのが、実は安部恭弘さんでした。
寺尾聰さん、井上鑑さん、稲垣潤一さんに続いて、CMに起用されたのが、同じ東芝EMI(EXPRESS)所属の安部恭弘さんだったのです。
このCMで知ったアーティストさんだったのですが、都会的で洗練されたムードを持ちつつも、寺尾聰さんほど暗くなりすぎない爽やかさが、ちょうどいい加減だったんですよね。
そして、そのちょうどいい加減を生み出していたのは、間違いなくあの優しい歌声だと思うんです。
例えば、安部恭弘さんが稲垣潤一さんに曲を提供した「ロング・バージョン」について、安部さん自身がセルフカバーしたバージョンと聴き比べてみると、その優しい感じが伝わってくると思います。
「ロング・バージョン」
作詞:湯川れい子/作曲:安部恭弘
<安部恭弘 Ver.(編曲:安部恭弘)>
<稲垣潤一 Ver.(編曲:井上鑑)>
もちろん、アレンジが異なることも大きいのですが、稲垣潤一さんの歌声は、切迫感というか焦がれるような感じがするのに対して、安部さんのセルフカバーの方は、断然、優しい感じがするんです。(どちらが好みかということとは別に…)
この優しい歌声にですね、当時の自分はハマったんですよね。
◎松本隆さんの歌詞との絶妙なブレンド
ただ、安部恭弘さんの優しい歌声が甘くなりすぎないよう、ちょうどよいバランスを生んでいたのは松本隆さんの歌詞だと思っています。
松本隆さんは、安部さんのデビューシングルから2ndアルバムまでの全曲の作詞を担当してるんですが、当時の松本隆さんらしいダンディズムを漂わせながら、まるで映画の一場面のようなストーリー性を感じさせる歌詞に痺れたんですよね。
ヨコハマタイヤのCMに使われたシングル曲の一つ「CAFE FLAMINGO」では、カフェ・バーにて女性とお別れする場面が描かれています。
「CAFE FLAMINGO」1983.2
作詞:松本隆/作曲:安部恭弘/編曲:清水信之
きてますよね~、松本隆さんの風街の感じが!
歌の中の男性は、女性に未練を持ちながらも、きっぱりとお別れしていきます。
この頃の松本さんの歌詞って、”♩苦手な男さ” みたいな捨て台詞的な言葉使いも多いんですよね。
こういうダンディズムは寺尾聰さんへの歌詞にも共通してるんですが、歌声は優しく、曲調も軽快な感じなんですよね。
この歌詞に対して、この歌声と適度にポップな感じが絶妙なブレンドになってると思うんですよね。
そういう意味で、私が夢中になった安部恭弘さんは、この松本隆さんの詞の世界とセットだったりするのです。
そして、シングル「CAFE FLAMINGO」のB面で、同じくCMに使われた「STILL I LOVE YOU」でも、別れの場面が描かれています。
「STILL I LOVE YOU」1983.2
作詞:松本隆/作曲:安部恭弘/編曲:清水信之
CMに使われた曲でありながら、当時、アルバムに収録されなかった曲で、それが悲しくて、悲しくて、シングル盤を買いに行ったんですよね。
それぐらい好きだった曲なんです。
風という言葉は出てきませんが、風の吹く駅での別れの場面を描いた曲です。男性は、女性に別れを告げ、列車に乗って遠くに旅立っていくのです。
…. ところが
走り出した列車から飛び降りちゃうんですよ!
カッコ良過ぎです!(そんな列車、無いだろ!なんて突っ込みを入れてはいけませんよ!)
えらくドラマチックな詞の世界観なんですが、安部恭弘さんの声だと、なんかカッコつけすぎてない.. 嫌味がない感じに思えるから不思議なのです。
A面の「CAFE FLAMINGO」と同じく別れの場面を描いておきながら、結末は逆になるという、この裏表の展開をシングルにまとめるあたりが流石なのです。
◎聴き込んだ2枚のアルバム
1st及び2ndアルバムは全曲、作詞:松本隆さんだったのです。
安部恭弘さんって、今ひとつ大ヒット曲はないんですが、アルバムはとっても良かったんです。
アップチューンあり、ポップスあり、さわやかなAORあり、バラードあり、たまにはファンクなナンバーもありで、色んな楽曲があるんですが、この2枚のアルバムについては、詞の世界と歌声で、ある種のトーンでまとめられてる感じだったのです。
『HOLD ME TIGHT』1983.3
作詞の松本隆さんに加えて、編曲はすべて清水信之さんが手掛けていて、このアレンジがなかなかお洒落なんです。
『MODERATO』1984.3
そして2ndの「MODERATO」は、特に思い出深いアルバムです。
なぜなら、高校合格祝いとして、ようやく買ってもらえた(自分だけの)オーディオコンポで、初めて聴いたのがこの「MODERATO」だったんですよね。(もう、その春は、ずっとこのアルバムを聴いてた気がします。)
このアルバム、A1以外の曲はLAでレコーディングされたもので、編曲はチャーリー・カレロが務めたりしてるんです。
正直、チャーリー・カレロのアレンジの特徴を語れるほど詳しくはないのですが、当時のLAのミュージシャンたちが参加してるんで、やっぱ、あの時代のAORやソフトロックっぽい仕上がりなってるんですよね。
こういう洋楽志向の音作りこそが、私の感じていた “シティ・ポップ” だったと思うんです。
そして、この「MODERATO」の中で、松本隆さんのストーリー性のある歌詞で痺れさせてくれたのが、後にシングルカットされた「Rainy Day Girl」という曲なんです。
「Rainy Day Girl」
作詞:松本隆/作曲:安部恭弘/編曲:チャーリー・カレロ
当時は気が付かなかったのですが、今、聴くと、イントロはそのまま "エアプレイ" って感じですよね~。
また、”硝子色” って言葉から始まる歌詞が、もう松本ワールドです。
後の歌詞を見るとわかるんですが、硝子色って、雨が降ってることを表してるんですよね、そんな雨の日に、昔、付き合っていた彼女に出会うとこから歌が始まるのです。
行き場もなく、陸橋で話を始めるわけなのですが、昔の彼女がどんな風に暮らしているのか、やっぱ気になっちゃうんですよね。
どうやら幸せに暮らしてるらしいのですが、具体的に尋ねることはできないのです。
それはそれで、かすかなジェラシーがあるんですよね。
タイトルの「Rainy Day Girl」というのは、つき合っていた頃の雨の想い出からなんですが、そんな雨の日に再会した彼女は、すでに結婚していて子どもも生まれて来るらしい話を聞いてしまうんです。
男性の方は、それぞれが過ごしてきた違う時間を、否が応でも感じちゃうんですよね。
彼女が去った後、1人残されて、電車ではなく時間を見てるなんて、なんか切なすぎる感じがしませんか?
そんな切ない歌詞なんだけど、悲観的過ぎず爽やかな感じに聴こえるのが、まさに、安部恭弘ブレンドだと思ってるのです。
同じく、このアルバムに収録されている「トパーズ色の月」も名曲なんで、以前の記事をどうぞ!
◎よりポップな世界へ進む3rdアルバム
残念ながら、2ndアルバムの後、松本隆さんとのコンビは解消になるのですが、様々な作詞家の方が起用され、より多彩なポップスへと世界が広がっていきます。
「Double Imagination」1984.9
作詞:松宮恭子/作曲:安部恭弘/編曲:清水信之
「スカイライン」CFイメージソング
いわゆる、”ニューマン・スカイライン”のCMソングとなった「Double Imagination」は、ほんとポップな感じなんですよね。
弾みすぎの感じで、ちょっと自分の好みではなかったりするんですが、その後リリースされた3枚目のアルバム『SLIT』でも、ほんといろんなタイプの曲が収録されていました。
『SLIT』1984.12
松本隆作詞のようなダンディズムが薄くなっているのが残念なのですが、それでも安部恭弘さんのポップセンスで彩られたいいアルバムなんですよね~
「アイリーン」
作詞:康珍化/作曲:安部恭弘/編曲:清水信之
この「アイリーン」なんか聴くと、ほんと、安部恭弘さんのポップセンスが溢れてる感じなんですよね。
なんか、前2作より伸び伸びした感じにも思えたり…
前作は海外レコーディングだったし、以前、松本隆さんの詞の世界に、ついていくのが精いっぱいだったみたいなインタビューを読んだことがあるので、かなりのプレッシャーがあったのかもしれませんね。
その分、この3rdアルバムでは開放感のある感じに仕上がってるんでしょう。
この『SLIT』には 康珍化さんをはじめとして、大貫妙子さん、吉田美奈子さんらが詞を提供してるんですが、アルバムの最後に収められている「君の愛がすべて」というドラマのタイトルのような曲では、安部さん自身が作詞もしています。
「君の愛がすべて」
作詞:安部恭弘/作曲:安部恭弘/編曲:清水信之
5年間つき合っていた彼女から「ついていけない…」と、告げられる悲しい内容の歌なんです。
でも、なんか優しさが溢れていて、泣けるんです💦
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身に覚えが?….
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知ってる人は少ないかな~と思いつつも、私にとっての ”シティ・ポップ” を語る上では外せない1人なんですよね。
”シティ・ポップ” が再認識されている昨今、安部恭弘さんも再評価されていいアーティストだと思うんです。
興味を持たれた方は、ぜひ、今回紹介の3枚のアルバムを聴いてみていただければと思います👍
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