アラン・スミシーの『ハートに火をつけて』と、デニス・ホッパーの『バックトラック』
ちょっとマイナーな映画作品の記事です。
アラン・スミシー:Alan Smithee
この名義を知っている方は、私と同世代ぐらいの映画ファン(特にB級映画多め)の人だと思います。
ただ、知っていても、その作品を観たことがある人は限られてくるのではないかと思います。
このアラン・スミシーという名義は、アメリカ映画で2000年頃まで使用されていた架空の映画監督の名前なんです。
いろんな事情で、監督が自分の名前をクレジットすることを拒否した場合、代わり使われてきたのがアラン・スミシーという名前なのです。
この名義が使われた時点で、既にその映画にはトラブルがあるということなので、日本で公開された作品自体多くはないんです。
ただ、未公開作品でも、レンタルビデオによく通ってた方なら、何本か出会ったことがあるかもしれません。
まあ、そういう私自身、観てるのは3本だけなんですけどね。
そんなアラン・スミシー監督作品なんですが、自分にとって印象的な作品もあって、それが日本では1991年に公開された『ハートに火をつけて』という作品なんです。
ということで、今回は、この『ハートに火をつけて』について ”note” していきたいと思います。
+ + + + + +
『ハートに火をつけて』
(原題:Catchfire)
監督:アラン・スミシー
主演:ジョディ・フォスター、デニス・ホッパー
この映画、実は主演のデニス・ホッパー自身が監督した作品です。
が、最終段階の編集で制作会社と対立、アラン・スミシー名義となり、全米での公開中止、日本やヨーロッパのみで公開された作品なんです。
その後、オリジナルの編集を行い、デニス・ホッパー監督名義として『バックトラック』というタイトル(これも皮肉っぽいですが…)で公開されています。
当時は、私が、一番映画を観ていた時代なんですが、この作品には私的に期待するポイントがいくつかありました。
◎個人的期待ポイント
①:ジョディ・フォスター!
大好きだったんですよね、ジョディ・フォスター…
20代のジョディ・フォスターは、特に魅力的なんですよね~(誰に言ってる?)、ジョディ・フォスターにとっては『告発の行方』後、『羊たちの沈黙』前に位置する作品です。
②:怪優デニス・ホッパー!
自分的には、『ランブルフィッシュ』でのアル中の父親役や、『ブルーベルベット』での謎の男など… 何か起こしそうな雰囲気を持った俳優さんで、けっこう好きだったのです。(ちなみに『スピード』での爆弾テロリスト役は1993年です。)
③:映画監督デニス・ホッパー!
そもそもデニス・ホッパーといえば、アメリカン・ニューシネマの代表作『イージー・ライダー』の監督としても有名なんです。
とはいえ、いろいろあって、ハリウッドからは干されてた訳なんですが、ストリートギャングを題材にした1988年公開の『カラーズ 天使の消えた街』がヒットして、それに続く監督作ということで、かなり期待値が高かったんです。
④:アラン・スミシーの特別感!
いろいろあったというのは、『イージー・ライダー』が大ヒットした後の監督作品『ラストムービー』の時も編集を巡ってハリウッドの大御所と衝突しちゃったことなんです。
デニス・ホッパーがトラブルを起こす事って、もう想定内だし、だからこそのホッパーなんですよね。
なので、たとえアラン・スミシー名義であったとしても、本国アメリカでは観れない作品!という特別感があったのです。
◎『ハートに火をつけて』の個人的感想
はじめに言っておきます。
期待値は高かったんですが、それほど面白いわけではありませんでした!(おいッ)
あらすじとしては、偶然、マフィアの殺人現場を目撃してしまった女性(ジョディ・フォスター)の口を封じるために雇われた殺し屋(デニス・ホッパー)が、あろうことか標的の女性に恋し、彼女を救うために一緒に逃亡する!って感じです。
前作『カラーズ 天使の消えた街』のようなリアルなバイオレンスに溢れたノワールを期待したのですが、今ひとつパンチのない出来栄えだったんです。
特に、二人での逃避行になってからは、中途半端だし、結末は ”これでいいのか!” って感じで納得しがたい部分があったのです。
まあ、3時間あったものを100分程度に編集したがため、こんなになっちゃったのかなって、これがアラン・スミシー監督作品ということなんだ。
と、当時は思ったのでした。
◎『バックトラック』の個人的感想
その後、デニス・ホッパー監督名義として再編集された『バックトラック』は、1995年に公開となっているのですが、多分、私の住んでる地域では公開されていません… w
が、当然、ビデオではちゃんと観ましたよ!
『バックトラック』(原題:BACK TRACK)
またしても、はじめに言っときます。
私的には、アラン・スミシー版と、そんなに印象が変わりませんでした!(おいッ)
いや、むしろテンポ的にはスミシー版の方がいいんじゃないかと…w
まあ、『ハートに火をつけて』でも納得できなかった結末が変わってないことが大きいんです。
それに、シーンの加除はあるんですが、上映時間としては10分伸びたぐらいなので、やっぱり後半はドタバタしてる感じなんですよね。
結果として、この『ハートに火をつけて/バックトラック』は、映画としては中途半端な印象なのです。
ただ、だからと言って見所がないわけではありません。
私的に偏愛するポイントがあるんです!
もちろん、デニス・ホッパー監督ならではの出演者、ジョー・ペシやジョン・タトゥーロなどの個性派に加え、映画監督のアレックス・コックスやボブ・ディランが登場することも楽しいです。
また、男性目線で言えば、殺し屋が覗き見るシャワーシーンや、拉致された後のストッキングをはかせる場面など、もはやホッパーの変態願望を画にしたような、ジョディ・フォスターのセクシーなシーンもたまらないです!
でも、そこだけじゃないんです。(ホントです💦)
私的な偏愛ポイントは
現代アートが映画のテーマに影響してる部分なんです。
(私自身、一応、美術を勉強してた時期があるんで)
ホッパー演じる殺し屋は標的であるジョディ・フォスターを丹念にリサーチするんですが、実は、この女性は現代美術家という設定で、実際のアート作品も登場したりするんです。
この女性が制作しているのは、彼女の言葉が流れる電光掲示板を使った現代アートなんです。
殺し屋は彼女の作品(言葉)に触れることで、彼女の言葉をコレクションするようになったりして、段々、影響されていくわけなんです。
そこらへんが描かれる前半部は面白いんですよね~。
このフォスター演じる現代美術家のモデルとなったのは、ジェニー・ホルツァーというアーティストさんです。
実際のホルツァー作品では、彼女のメッセージが電光掲示板をはじめとした様々なメディアで流され、作品と対峙してると、なんか啓示的な瞬間があったりするんですよね~。
このジェニー・ホルツァーの作品が重要な役割を果たすところが、アート好きのデニス・ホッパーらしいとこなんですよね。
この映画の影のテーマは、殺し屋として生きてきた人間が、アートを通じて ”生” を得ていくことだと思うんです。
私の納得できなかった結末のあたりで、デニス・ホッパーがサックスを吹きまくってるシーンがあるんです。
その様子が滑稽過ぎて、映画には不似合いなシーンなんですよね。
でも、影のテーマ的には、ソニー・ロリンズを敬愛していた殺し屋が、上手く吹けずに嫌悪していたサックスを、最後は夢中で吹けるように(表現できるように)なった姿が描かれてるんですよね。
いろいろ突っ込みたくなる部分ではあるんですが、ホッパー的に矛盾はないんだと思います。
まあ、ジェニー・ホルツァーを体験したことない人には、作品から啓示を受ける感覚は伝わりにくいんじゃないかと思うんですけど…. それでもというデニス・ホッパーの強いこだわりが好きなのです。
+ + + + + +
一応、私の中で、もっとも印象的だったアラン・スミシー監督作品『ハートに火をつけて』を紹介してきましたが、俳優デニス・ホッパーや、監督デニス・ホッパーについては、いずれまた別の記事にしていこうと思います。
最後に、その他のアラン・スミシー監督作品を紹介しておきます。
日本未公開でビデオのみの作品も含んでいますが、見つけられたものだけで… 中には真偽不明のものもありますので、その旨ご了承ください。
ちなみに太字作品が私の観たことのある作品です。
知ってる作品ありますか?….
(参考:アラン・スミシー)
(ジョディ・フォスター関連記事)
*