ヘッドライトは点いているか? 消えているか?...(There is a Song)
『メインテーマ』:薬師丸ひろ子(1984)
『スタンダードナンバー』:南佳孝(1984)
最近、角川映画の主題歌に関する記事を書いていて、あらためて、薬師丸ひろ子さんのアルバムを聴き直してたりしています。
好きな曲ばかりなんですが、「メイン・テーマ」を聴くと、やっぱ、南佳孝さんの「スタンダード・ナンバー」も聴きたくなっちゃうんですよね。
ご存知の通り、この「メイン・テーマ」と「スタンダード・ナンバー」は、作詞:松本隆/作曲:南佳孝/編曲:大村雅朗さんらによる競作曲なんですが、歌詞とアレンジが異なるんですよね。
実は、自分にとって、この曲は思い入れが深い曲で、前に1度、記事にしているのですが、今回、あらためて掘り下げてみたいと思います。
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松本隆さんの歌詞では、夜の浜辺に停めた車の中の男女の場面を、「メイン・テーマ」では女性目線、「スタンダード・ナンバー」では男性目線で描いています。
同じ場面を、男女で描き分けた歌詞は、松本隆さんが手がけた歌詞の中でも特徴的で、やっぱりセットで聴きたくなるんです。
今回の記事タイトルの【ヘッドライトは点いているか? 消えているか?】っていうのは、それぞれの歌詞の最初の方で、「メイン・テーマ」では ♪ ヘッドライト点して~ と歌われているのに対して、「スタンダード・ナンバー」では ♪ ヘッドライトを消して~ と歌われてるので、実際、ライトはどうなってんの?という意味です。
男女それぞれの目線なんで、同じような場面でも感じてるものが微妙に違ってたりして、それぞれの角度から見ると、なんとなく、二人の間で交わされている”駆け引き”みたいなものが感じられて、面白い仕掛けのある歌詞なんですよね。
共通に出てくる「あっけないKISSのあと」や「愛ってよくわからないけど、傷つく感じが素敵(いいね)」などの歌詞も、それぞれの歌だけではちょっと分からなかったりするし、なんで女性が泣いてるのかつかめなかったりするんですが、併せて聴くと、二人の様子が浮かび上がってくるようになっているのです。
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(できれば、「メイン・テーマ」の歌詞を見ながら「スタンダード・ナンバー」を、「スタンダード・ナンバー」の歌詞を見ながら「メイン・テーマ」を聴いてみることをお薦めします。)
「メイン・テーマ」1984年5月16日
「スタンダード・ナンバー」1984年4月21日
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さてさて、歌詞で描かれる男女の”駆け引き”等について、まず自分が感じたのは次のとおりです。
・二人はまだ恋人ではない。
・女性は20歳だけど、男性はちょっと年上。
・女性は男性の事が好きだけど、男性は遊び程度に思っていた。
そして、場面としては、ドライブの途中、海辺に車を停めて、いい雰囲気と思って、男性の方がキスしたら、女の子の方が泣きだしちゃって...
なんか気まずい雰囲気で、ただ、時間が過ぎていってる... って状況だと思います。
この場面を「時は忍び足で、心を横切るの」で始める松本隆さんって、やはりただ者ではないですよね~、天才的です!
この「あっけないKISS」というのは、遊び気分で気軽に男性がしちゃったキスで、これが波紋を呼んでる状況なわけなんですよね。
サビでは「愛ってよくわからないけど、傷つく感じが素敵(いいね)」って歌われているのですが、この「あっけないKISS」で、お互い、なんか傷ついたらしいのです。
男性の方は、~なんか自分のこと好きっぽい感じだったのに、キスしたら泣き出すなんて、俺の事好きだったんじゃないのかよ~って感じかな ... でも、そのことで、返って気になり始めてる自分に気づいた様子で、まあ、分かりやすいといえば分かりやすいですよね。
でも、女性の方はどうなんでしょう.. ~自分はすごく好きなのに、なんか軽い気持ちでキスされたことがショックで涙が止まらない... でも、そんな風に、自分の気持ちを正直に出せてることに、なんか新鮮な気持ちになってるって感じなのかな...
「メイン・テーマ」の2番の歌詞に、上記のような歌詞が出てくるのですが、聴き比べていくと、この部分だけ「スタンダード・ナンバー」に対応する歌詞がないんですよね。
恐らく、この箇所がポイントになっていて、泣いたことで、昨日までは我慢するだけだった自分の変化を感じてるんだと思うのです。
追いかけるだけだった自分から、追いかけさせる自分への変化を...
男性の方も、最後は、すっかり心が傾いてしまっているようで、思わず、「ほろ苦い男の優しささ」なんて言ってます。
ただ、ここでの”優しさ”は思いやりの方ではなくて、"弱さ"みたいな感じですよね。
女性の涙には勝てないと言いますが、松本隆さんが描いたのは、そんなメロドラマではなく、女性の成長とともに、恋愛の主導権がスルっと入れ替わった瞬間だと思うんです。
では、問題とした【ヘッドライトは点いているか? 消えているか?】ということについてなんですが、「メイン・テーマ」と「スタンダード・ナンバー」の2番の歌詞を見比べてみると、常に女性の方が先手の感じなんですよね。
このことを踏まえると、先に女性の方がヘッドライトを点けさせて、男性の方が消したのかなと思います。
つまり、今は消えているかと...
もしかすると、「あっけないKISSのあと」、女性は帰ろうとするけど、男性はちょっと待てよ、みたいなやり取りの雰囲気だったのかもしれません。
なんかいろいろ想像させる歌詞なんですが、私としては、そんな感じで解釈してるのです。
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あらためて、2つの曲を聴くと、松本隆さんの詞の世界もさることながら、大村雅朗さんのアレンジが素晴らしすぎですよね。
やさしく繊細に流れる「メイン・テーマ」に対して、「スタンダード・ナンバー」では強めのタッチでピアノが奏でられるので、歌詞中の男女の性格が、より一層、際立つアレンジだと思います。
女性の「メイン・テーマ」に対して、男性の「スタンダード・ナンバー」というタイトルも意味ありげで、なんか深く考えちゃいますよね。
そんな風に感じてしまうのも、作詞の松本隆さんに作曲の南佳孝さん、編曲の大村雅朗さんという3人に、薬師丸ひろ子さんという存在が加わることで実現した、この世界観に奥行きがあるからだと思うのです。
そのうち、松本隆さんの詞の世界については、また、取り上げていきたいと思います!
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