病理結果が出て、途方に暮れる ~とあるOLの乳がん日記㊷
42.
病理結果が、先生の口から語られた。
結論から言うと、私は、本当に何も知らなくて、今日の病理結果が、第二の告知と呼ばれるくらい、重要なことだとは知らなくて、いつも笑顔だった主治医の先生が、いつもより少し真面目な顔で、初めてこの場所に来たときよりも、はるかに多い情報量と差し迫った選択肢を差し出してきて、ただただそれに、打ちのめされて、軽く絶望していた。
「顔つきのよくないガンだった」
「再発の可能性はある」
「抗がん剤を検討してもいいかも」
「抗がん剤の閉経率は30%~70%」
「抗がん剤のために、約3カ月~半年間通院する」
「手術から二、三カ月以内に抗がん剤をやる必要がある」
「ホルモン療法は5~10年」
「月経が止まる」
「このまま閉経する人もいる」
「ホルモン療法は毎日薬を飲み続ける」
「三カ月に一度はお腹に注射をする」
「妊孕性温存のために卵子の凍結を検討」
「妊孕性温存は、子供を将来授かりたい人のためにする」
「それには別の病院にかかって、温存する必要がある」
「妊孕性温存もお金がかかる」
「再発率を調べる方法がある」
「遺伝子検査は保険対象外なので40万円以上かかる」
「放射線には約1か月毎日病院に通う必要がある」
どれも、これも、全部私の将来に直結することばかりで、いつも先送りして見ないフリをしていた問題が、今までのツケを払わせるみたいに、胸倉を掴んで揺するみたいに、頭を揺らしてくるので、何から聞いたらいいのかわからなくなって、途方に暮れた。
私と同じくらい、衝撃を受けていそうな母が、かろうじて、とりあえず抗がん剤、受けなきゃダメですか、と聞いたので、先生は、受けなきゃいけないってことではないんですけど、まあ、受けたほうが安心ですよね、と言った。
先生はこうしましょう、とは言わなくて、あくまで選択肢を提示して、選ばせる形だった。
多分それは、選択をしたあとに、望まない結果になったときに、先生の言うとおりにしたのに、どうしてくれるんですかということが起きないための、医療現場の方針なのかなと思った。
母は、抗がん剤をしたら、もう終わり、っていうイメージなんですけど、と続けて言った。
なぜかと言うと、母の知り合いで抗がん剤をやった人の多くは亡くなっていて、私もそういうイメージだったので、どうなんだろうと思ったら、先生が笑って全然終わりじゃないですよと言った。
でも、抗がん剤をすると、妊孕性温存とかも考える必要があるし、もし悩むのであれば、遺伝子検査で再発率を調べて、それで選択するのもいいと思うということだった。
妊孕性温存をするのであれば、抗がん剤をする前にやる必要があって、それには別の病院にかかる必要があって、卵子を取るから早いほうがよくて、抗がん剤は手術後の二、三カ月以内にしたほうがよくて、抗がん剤をするかどうかを判断するために遺伝子検査をするのであれば、検査結果が出るのに3週間かかるから、なるべく早めに申し込んだほうがよくて、このあと内科にかかってもらって検討してと考えると、すぐに頭がいっぱいになって、何から悩んで、どれに衝撃を受けていいのかもよくわからなくなった。
泣きたい気もするけれど、そんな場合ではないとも思うし、もっと言うと、多分、何も考えたくなかった。
とりあえず差し迫ってわかったことは、私のガンは、タチが悪くて、抗がん剤をしないと、したとしても、私は少なくとも5年から10年、ひょっとしたら、一生、死ぬまで、再発に怯えて生きていかなきゃいけないんだということだった。