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セントレア新滑走路建設が賢明なワケ

この記事は、2022年9月1日に一部文言(並行誘導路が建設された所以)について加筆しました。それに伴い、参考文献も追加されています。

1.はじめに

すこし時間が経ったが、セントレアの新滑走路計画が本格化してきた。しかし、なぜ今なのか、どのように変化し、私たちにどのように影響を及ぼすのか。このようなことについて論じている記事はない。そこで、私の推測が混じるが、先の問題群などについて述べていきたい。結論を述べておくと、滑走路の建設は「賢明な判断」であり、非常に合理的である。ただし、我われ乗客は、より円滑に搭乗するよう配慮する必要性がある可能性が高い。

また、筆者は航空マニア歴2年目の初心者である。この記事は非常にイキっているが、予め了承してほしい。

2.工事概要

まず、工事概要について説明しておこう。

完成イメージ(中部国際空港将来構想推進調整会議 2021:15)

完成形としては、現在のRWY18-36に平行する形でもう一本建設するもとなっている。この状態へ持ってくるために、第一段階として、現在の並行誘導路(※1)を滑走路へと転用し、従来の滑走路を閉鎖する。なお、転用された滑走路は非精密進入(※2)のみの滑走路であって、精密進入は不可能である(中部国際空港将来構想推進調整会議 2021)。

第一段階でのイメージ(中部国際空港将来構想推進調整会議 2021:17)

第2段階、すなわち完成した状態が下の図の通りとなる。

最終完成形のイメージ(中部国際空港将来構想推進調整会議 2021:18)

3.どう賢明なのか

前章を踏まえて、どのようにこの事業が賢明なのか検討してみよう。

3-1. 「今」を最大限に活用

まず、やはり「今」動き出したことは意義深いものがある。コロナ禍によって航空業界が大打撃を受けており、航空機の離発着も少ないことから今のうちに手を付けることで、工事を円滑に進めようという意図が見える。完成した頃にはポストコロナ時代であり、航空機の取り扱い数はコロナ禍前の水準にまで戻っていると考えると、タイミングとしては「絶好の機会」である。

また、埋め立てに用いる土砂は、これまでに堆積していた名古屋港における土砂を用いる。庄内川からの堆積物が非常に多く、浚渫しなければならない状況が迫って来ていたことから、この工事でついでに解決しようという点も素晴らしい(中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会 2021b)。

3-2. B滑走路の非精密進入化

B滑走路は、誘導路から転用するため転移表面(※3)の長さ上、やむなく非精密進入専用の滑走路となっている。だが、新A滑走路が完成するとセミオープン方式による運用となるため、B滑走路は出発専用の滑走路となる。すなわち、出発専用の滑走路であるからこそ、非精密進入でも十分満足な運用を可能である(中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会 2021a; S. Aviation 航空系動画・雑学いろいろ 2022)。

平行滑走路間の距離に伴う運用形態の違い(中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会 2021a:12)
B滑走路の運用方法に関する資料(中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会 2021a:13)

3-3. お客様への最大限の配慮

3-2に関連して、スカイデッキは少し削られることとなる。だが、確実に以前よりも、B滑走路はスカイデッキに近づいて離陸シーンや着陸シーンを見ることが出来る。そういったお客様への配慮が垣間見られるところも素晴らしいと思う(S. Aviation 航空系動画・雑学いろいろ 2022)。

3-4. セミオープンにした理由

3-2で空港はセミオープン方式での第2滑走路の建設とのことだが、なぜ西側は海が広がっているのにも関わらず、同時離着陸ができない形態を採用するのか疑問に感じた人もいるだろう。背景には海底の地形と建設費が強く関連している。

空港島と地域開発用地(上用・広浜ほか 2002: 96)

上の図を見て分かるように、新滑走路をより西側へ移動させると急に水深が深くなるので、その上に滑走路を建設しようとなれば莫大な建設費がかかることを踏まえて、セミオープン方式を採用したのだろう。最終的な目標は主要空港としての見劣りをなくすことと、発着回数を増やせるように容量を増やすことだったのだから、一定の目標を達成するために最低限の埋め立てに留めたのだと思われる。

3-5. 誘導路を失くした理由

多くの人は「ふーん」で終わるかもしれないが、よくよく考えれば並行誘導路をなくすというのは実に、大きな変化ではないだろうか。もともと、並行誘導路が建設されていた目的は、現在の貨物地区に当たる部分を整備地区として計画していたため、航空機のすれ違いを可能とするためのであった。並行誘導路をなくしてしまっては航空機との行き違いは困難となり、航空管制官も複雑な業務をこなさねばならないと思う。しかし、これがそうはならないと言うところ、これがこの滑走路建設における一番のすごいところ、と言っても過言ではない。

誘導路の移動方向(中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会 2021:14に筆者加筆)

上の図を見て頂けると分かるように、エプロン(※11)にある誘導路は到着・出発に関わらず、必ず一方通行になる。このことから滑走路が一本増設されたとしても、そもそもすれ違いが発生することはない。したがって、すれ違いのための誘導路は必要なく、廃止しても大きな問題がないのである。

4.航空マニアの気になるトコロ!

以上を踏まえて、この大規模工事において注視したいところを挙げておく。

4-1. なぜもっと前に始動しなかったのか?

この新滑走路工事は15年近くかかる。航空機の取扱数の増加や2010年にATFMC(航空交通流管理センター)(※4)が創設されたを鑑みれば、本来はもっと早く工事に手を付けるべきだった。いや、むしろこの空港を造る際に、最初から2本にしていても問題なかったはずだ。にも拘わらず、なぜ今なのか。コロナ禍になって思い付きで始めたようにも見えてしまう。

私の推測ではあるが、おそらく背景にあるのは愛知万博の存在だと思う。そもそも、セントレアは愛知万博に間に合わせるように、急ピッチで建設された空港である。知恵袋などでは、愛知万博に間に合わせるためにちゃんとした調査がなされず、横風に弱い『欠陥空港』と揶揄されている言説もある(私は少なくともそうは思わないが)。調査してみたがそれを裏付ける論文等が見つからなかったため、真実かは一概に言えない。

急ピッチで作る必要があったからこそ、2本目の滑走路を造るだけの時間はなかったのではないか。現時点においても、現在の滑走路1本における発着容量を超えているわけではないため、ここまで引き延ばしてきたのだろう。

4-2. スカイデッキの眺め

第一に、第一段階で並行誘導路を滑走路に転用した際の、スカイデッキからの眺めがどのように変化するのかと言うことである。少し削るだけで、むしろ滑走路からは近くなるので魅力が向上していると言うべきだが、見にくさはあるかもしれない。NGOベースで撮影している航空ファンにとっては、この点はかなり大きな注目点だろう。

4-3. 航空管制における運用の変化

私にとって、もっとも気になるのは航空管制の運用の変化であろう。
特に気になるのは次の通りである。

①第1段階において天候が悪くなった際の前A滑走路の解放
中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会(2021a)によれば、天候不順時は、A滑走路を使用するとのことだったが、NOTAM(※5)が発出されるのかいかなる変化があるのか、私には未知の世界であり非常に興味深い。

②滑走路横断
新滑走路が完成すれば「CROSS RUNWAY 18R…」などの用語を聞けるようになる。これは我々、管制専攻の航空マニアにはたまらないことであろう。滑走路を横断する際、出発機との関係性から最も神経をとがらせる一場面である。管制官が複数の航空機に対して、同時に滑走路横断を指示する際「breakbreak」を用いるのか、それともそれぞれの航空機に対して、それぞれ指示をするのか、管制官の判断ではあるがこれも気になる点だろう。

③滑走路変更に伴う運用の問題
3-5で示したように、並行誘導路は廃止されエプロン内にある1本の誘導路で、航空機を移動させなければならない。1本にしても一方通行のため、問題にならないと述べたが、それは滑走路が定まっている時の話である。風の方向が変化したことによって滑走路変更が行われる際、これに伴って誘導路の方向も逆になる。航空管制官は滑走路変更完了する前から、航空機のタキシング指示が変わることから、この際のすれ違いをどのように対処するのかが見どころである。

④SID(※6)やSTAR(※7)の経路変更
滑走路が増設されることによって、当然、AIP(※8)も更新されることになる。特に大きな変更があると思われるのは、着陸機や出発機の管制間隔(※9)の問題から、一部の航空路で少し迂回するような経路に変わるかもしれない。だが、あくまでも私の空想であり、そこまでの変更が発生するかは何とも言えない。

4-4. NOTAMの発出時期と表記

2022年6月12日現在、中部空港からは私が調べる限り、掲載されていない。
(もし掲載されているならば、コメント欄に[年月日とその内容]を引用していただきますようお願いします。)どのような形でいつ、NOTAMが発出されるのか、大変気になるトコロである。

5. 乗客への影響

最後に新滑走路の工事中(特に第一段階)、並びに完成後に、我われ乗客に与える影響について考察してみたい。

新滑走路が完成したことによる乗客への影響は大きなものではないと思われる。新滑走路の完成によって発着回数が増加する一方で、スポット(※10)の数が増加するわけではないので、航空機がいかに円滑に素早く出入りできるのかが重要になる。しかし、その時間の流れに関する裁量はあくまでも航空会社に委ねられており、乗客はグランドスタッフの案内に沿って搭乗することしかできない。

すなわち、我々はこれまで通り、ゆとりを持って保安検査場を通過し、定刻かそれより早く出発できるように協力するほかない

脚注

※1 並行誘導路・・・並行誘導路とは、滑走路に並行している航空機が使う道路であり、滑走路とは異なって、飛行機が離陸や着陸などのために移動する道となっている。
※2 非精密進入・・・無線標識から発射された電波で、高さや斜距離しかわからない状態において、着陸しようとする進入方法。
※3 転移表面・・・着陸のミス等で急旋回して離脱するためのエリアとして設けられている空間のこと(岩本 2017)。
※4 ATFMC・・・着陸空港の処理能力を超える航空機をあえて遅らせる(これをATFM(航空交通流管理)と言う)ことで、処理能力を維持・安定させるための一元的管理を行う機関。
※5 NOTAM・・・航空情報の一つで、飛行場、航空保安施設、運航に関連する業務方式の変更、軍事演習のような危険の存在などについての情報である。航空情報とは、国際民間航空機関(ICAO)の基準に基づいて、国が運航関係者に対して発行する情報で、航空機の運航のために必要な情報を提供することを目的としている(コトバンク 2022)。
※6 SID・・・航空路を高速道路に例えるならば、本線に合流するための道路(経路)を指す。航空管制に置き換えるならば、本線がエンルート、入り口の料金所が離陸を指す。
※7 STAR・・・航空路を高速道路に例えるならば、本線から離脱後、料金所へ向かうための経路。航空管制に置き換えるならば、出口の料金所は着陸を指す。
※8 AIP・・・航空路誌のこと。日本全国にある飛行場の航空路や空港の外観図、機体や気象条件による着陸方法など、いわば「マップ」的存在である。
※9 管制間隔・・・航空管制において、最低限必要な航空機と航空機の距離(間隔)のこと。
※10 スポット・・・空港において航空機が乗客を載せたり降ろしたりするスペース。駐車場に例えるなら、車一台が止められる空間を指す。
※11 エプロン・・・例えるならば、何台も駐車できる「駐車場」のことを指す。航空機の駐車が決まった場所で可能であり、また移動するための通路も確保されているような場所を指す。

参考文献

岩本守弘, 2017,『【空港周辺の上空】ドローン航空法とは? ~許可取得の方法まで~【徹底解説】』(2022年6月12日取得, 【空港周辺の上空】ドローン運用基礎の基礎!ルール遵守で正しいフライト!! | DroneAgent).
S. Aviation 航空系動画・雑学いろいろ, 2022,『「2本目滑走路でセントレアのターミナルは”削られる”」説は本当か?~制限表面のお話~』YouTube, (2022年6月8日取得, (8) 「2本目滑走路でセントレアのターミナルは”削られる”」説は本当か?~制限表面のお話~ - YouTube).
コトバンク, 2022,『NOTAM』(2022年6月12日取得, NOTAMとは - コトバンク (kotobank.jp)).
上用敏弘・広浜全洋・山脇司, 2002,「中部国際空港セントレアの建設工事」『海洋開発論文集』18: 95-100.
中部国際空港将来構想推進調整会議, 2021,『中部国際空港の将来構想』(2022年6月6日取得, future-concept.pdf (centrair.jp)).
中部国際空港将来構想推進調整会議検討部会, 2021a,『空港の現況と第二滑走路の必要性について』(2022年6月8日取得, PowerPoint プレゼンテーション (centrair.jp)).
────────────────────────────, 2021b,『中部国際空港沖公有水面埋立事業について』(2022年6月8日取得, meeting11-05.pdf (centrair.jp)).
中部国際空港PI推進協議会, 2022,『中部国際空港滑走路増設PIレポート 【構想・施設計画段階】』(2022年9月1日取得, report.pdf (centrair.jp)).
Yahoo!知恵袋, 2008,『Yahoo!知恵袋ホームページ』(2022年6月12日取得, 中部国際空港は風が強く離着陸が遅延になり欠陥空港と聞きました考察お願いし... - Yahoo!知恵袋).

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