若者との会話から気づいた「らしさ」のこと|遠藤佑介
子育て経験がなく教員免許も持っていない僕だが、「親でも学校の先生でもない大人」として、10代の若者と関わる仕事をしていた。
主に15歳~34歳の若者を利用対象とした施設の職員で、そこでは勉強を教えることや、生活態度を注意することを求められるわけではない。しかし、施設の管理者として安心安全に過ごせるよう気を配りながら、ときには若者と同じ目線に立ち、彼ら彼女らに新たな気づきや出会い、居心地のよい空間を提供する、という役割だった。それまで他業種の一般企業で働いていた僕は、当初は多岐に渡る業務内容に四苦八苦していた。
ボランティアの大学生と町内会のお祭りでテントを立てること。
高校生のバンドマンとライブを企画してミキサーを担当すること。
キッチンカーを走らせて中高生と一緒にワッフルを焼くこと。
文字だけ見ると確かに多岐に渡っているが、その一つひとつには、
歳の離れた子どもや年配の方と交流することで「第二の地元」ができたり、
新たな仲間と出会い自己表現することで自己肯定感が高まったり、
セーフティーネットからこぼれ落ちそうな子の支援に繋がったり、
若者にとっては小さな、けれど、重要な意味が込められている。
そんな現場ではデスクワークだけでなく、一般的に「男性が得意とされる作業」も求められた。
筋力がなく、テントの重りを片手でひょいっと持てなかったり、
音響機材をセッティングしても、ケーブルの配線を間違えたり、
ペーパードライバーのため、運転の際は気合を入れてからエンジンをかけたり、
といった具合に、アウトドアで、体育会系で、機械に強くて……というタイプとは真逆の僕は、「男の仕事だししょうがない」「これができて男性職員として一人前なんだろう」という感覚でそれらをこなしていた。
しかし、いつしか「男だから得意と思われても困るんだよな」とも考えるようになり、「男性らしさ」「女性らしさ」が関連する話題に対し、妙に反応するようになっていった。
例えば施設へよく勉強をしにきていたS君に
「最近忙しくて部屋がちらかってるんだよ」と話したときのこと。
「へぇー、じゃあ掃除してくれる人を早く見つけないとですね」
と、からかってきた彼に向かってこう答えた。
「うーん、掃除してくれる人って、カノジョってこと?でもカノジョ=お母さんじゃないからねー」
そのときは、恋人は身の回りの世話をしてくれる人ではなく、対等なパートナーであると言いたかった。しかし「お母さん」という言葉を使った途端、結局は家事=母親の仕事、女性がするものだ、というメッセージになる。
「一緒に住んでいたら、掃除は相手、洗濯は自分って分担できるんだけどな」
「二人とも苦手だったら、いっそ家事代行サービスに頼るのも手だよね」
いま振り返ると、伝え方はいろいろあったように思う。
こんな風に気にしてみると、若者との会話には様々な「男性らしさ」「女性らしさ」の価値観が表れていた。
「クラスの女子はバカばっかり。早く大学で上質なカノジョを作りたい」
「わたし、あの人絶対オネェだと思うんですよ。しゃべり方が変だもん」
「進学先なら北大しか考えてないから。男だし道内の一番を目指します」
不意打ちで投げかけられる無邪気な言葉に、僕自身はそれについてどう思うのか、自問自答させられた。
上質なカノジョってどんな人を指すんだろう。相手に求めるなら、自分も「上質なカレシ」になるつもりなのかな?
オネェって女っぽい人?女装する人?ゲイの人?
曖昧な単語だけど、他人が「絶対」って決めつけてよいものだろうか?
一番を目指すのに男子も女子も関係ないような気もするけど、彼の目には一番を目指す女子はどう映るんだろう?
今まで気にも留めず、考えてもこなかったけれど、どうやら世間はこうした「らしさ」に溢れかえっているようだった。
自分の中で作った「男らしさ」「女らしさ」は、時に周囲の人を傷つけたり、時に自分自身を苦しめたりすることがある。
アウトドアでも、体育会系でも、機械に強くもなく、一人前の男性職員像を勝手に描いていた僕が、いい大人になってから段々と気づいていったことだ。
(とはいえ、今でもこうした考えに引っ張られるときは多々ある)
しかし、いまこの瞬間も、固定概念を無理に受け入れようとして、困ったり悩んでいたりする若者は、案外すぐ近くにいるんじゃないだろうか。
周囲が口にする何気ない「らしさ」に、彼ら彼女らは口をつぐんでいるんじゃないだろうか。
・・・・・・
それから数年経ち、僕は当時とは別の施設の職員になった。それでも仕事や私生活で、子どもや若者と接する機会はたびたび訪れる。
そんなとき「親でも先生でもない大人」の一人として、自分なりのメッセージを言葉や態度で示せたらいいなと思っている。
遠藤 佑介(札幌市市民活動サポートセンター職員)
プロフィール
広告制作会社の勤務を経て、ユースワーカーにジョブチェンジ。その後、若者がジェンダーについて考えるきっかけを作りたく「りぷる」50号の制作に携わり、現在は札幌市市民活動サポートセンター職員。趣味はバラエティ番組と演劇鑑賞。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?