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「働く」と「生きる」|田川清彦

30歳、男性。家族は、3つ上の妻と、もうすぐ1歳になる息子の3人家族。
僕は、今の職場である札幌市男女共同参画センターに異動してきた2017年12月からの2年半で、価値観が大きく変わった。というか、変わらざるをえなかった。

当時の僕にとって、「男女共同参画」も、「子育ての両立」も、「ワークライフバランス」も、聴いたことはあるけれど、どこか他人事だった。
当時は結婚したばかりで、子どももいずれほしいとは思っていたがそのことに関して、不安に思うことも何もなかった。それは自信があったわけでも、知識があったわけでもなく、むしろまったくイメージができていなかっただけだった。

それから数か月後。
「働き方改革」事業を担当するように言われた。
職場の業務の進め方や効率化には課題感があったので、「働き方改革」を担当するのは良い経験になるだろう、くらいに思った。
しかし、企画のための情報収集をしているときに、出会ってしまったのだった。この動画を見たことががすべての始まりだった

衝撃だった。
なにが一番恐ろしかったかというと、「男性の長時間労働が妻の第二子以降出産の意欲に関係し、生涯において自分がどう見られるか変わってくる」といういわゆる「愛情曲線」の話だった。
「一人目の子育てのときに残業ばっかりしてたら、妻に二人目はもう生まない、って言われちゃう」という話だ。

にわかに不安になった。
妻の目に、自分はどう映っているんだろうか。
仕事は好きで楽しく、残業も苦にならないタイプ。むしろ好んで遅くまで残っていたり休日出勤したりすることもある。

家事は妻に任せがち。料理なんて最後にしたのいつだったかなというレベル。
それと自分がこれから社会人として成長していけるのかも不安になった。
仕事ばかりしていて、仕事以外のインプットはほとんどない。あって本を読むくらい。オレ、このままじゃワークもライフも充実できないんじゃないかな 。ヤバイかも 。......

その時から意識が変わり始め、できることから始めてみた。
自分たちの業務を見直してやり方を変えたり、スケジュール管理やタスク管理の仕方を工夫したり、見える化を提案したり。
うまくいったこともあればいかなかったものもある。

そういえば、自分の成長のためにと思って参加した地域クラウド交流会(ちいクラ)が結構衝撃的だった。

そのイベントは地域の起業家が事業内容についてプレゼンし、参加者は応援したい起業家に投票でき、起業家同士・参加者同士で交流ができるイベントだ。
そこで僕は今まで出会ったことのない価値観を持っていたり、知らない仕事をしていたりしている人たちと出会い、今まで自分の殻にこもっていることに気づいた。
このままでは社会人としての成長は少ない。
イベント後の親睦会を通していろんな人と話し、大きく視野が広がり自分の殻を破るきっかけができた。

それからちいクラを通してサイボウズという会社を知った。
一人ひとりの理想の働き方を追求しているすごい会社だ。
すごい人、すごい会社、すごい働き方、……自分の中の理想がどんどん膨らんでいく。
しかし、状況はなんにも変わってなかった。残業はあるし、学びの機会を多く取れない。
ワークライフバランスの大切さや必要性を知っているだけにすごくモヤモヤした。
啓発している立場のはずの自分が全然できていない。
この葛藤・矛盾の時期は長く続いた。

そんな中でワークとライフで変化がたくさん起こった。
妻が妊娠し、それに伴い家を買い、引っ越した。
そしてワークの方では役職が上がり、新規事業を担当することになった。
思うようにいかないことは以前より増え、かなりいっぱいいっぱいだった。
妻はつわりがひどく、家事も自分が行わなきゃいけない、妻の心のケアも必要。
引っ越しをしたこともあって生活環境やリズムにも慣れていない。
精神的に落ち込むこともあった。

そんなときに考えたことはたくさんの「なぜ?」だった。
今の働き方がダメなのはなぜ?仕事がうまく進まないのはなぜ?
同僚とのコミュニケーションがうまくいかないのはなぜ?
関係者と話がうまく進まないのはなぜ?
家事を効率的にできないのはなぜ?
妻が落ち込んでいるのはなぜ?
疲れやすいのはなぜ?
……などなど。

たくさんのなぜを考え、 解決 するために自分自身でたくさん考えたり、上司や同 僚と話したり、妻と話したりした。
働き方を変えるために生き方も考えるようになった。
自分はどう生きたいのか。
働き方と生き方はつながっていて、どちらかだけを考えるのではなく、セットで考えることで進みたい方向性を見出すことができた。

僕は「家族を大切にして生きていきたい」と気づいた。


今年僕はもう一つチャレンジをした。
「3カ月間の育児休業の取得」である。
これまでの男性の育児へ の関わり方は妻に任せきりで、時間をあまり取れない人が多かったはず。
今は少しずつ多様になってきていると思う。
その中で僕は育休を取得し、一定期間育児に専念することを選択した。

でもこの選択肢はまだまだ当たり前ではないと思う。
時代の変化で取りやすくなる流れがあるが、気持ちのハードルが高い気がする。
僕は、せっかく育休を取るならこの先その 選択 をしたいと考える人を増やすために、できることをやろうと決めた。
いろんなことを試行錯誤し、個人として発信していこう。
仕事に復帰したら、仕事としても男性育休を広めるための何かをしたいと思っている。

僕は、出産直後は有給 で2週 間休み、妻が復帰 する 予定 日の 2ヶ 月前から3ヶ月間の育児休業を取得した。
この休み期間中感じることはたくさんあるが、一番は子育ての大変さだ。もっとこうしたいのにうまくできない。
ちょっと仕事のためにしたいことがあるのに、子どもがグズっていて何もできない。
なんだか疲れやすい。
子育ては思い通りにならないことだらけだと気づいた。
もうすぐ働きながら子育てをすることになるが、その前にいろいろなことに気づき、ゆっくり準備できる時間があるのは本当にありがたかった。

子育てと仕事の両立は今では考えられないくらい大変なことだろう。
これからも働き方と生き方を考え直すことはあると思うが、その度にこの 2年半で 得た経験と価値観の変化を思い出し、自分も家族も周りにいる人もいろんな人を巻き込みながら、より良い毎日を過ごしていきたい。

田川清彦(札幌市男女共同参画センター職員)

プロフィール
札幌出身。環境 プラザ・児童 会館での勤務を経て男女共同参画センターへ。毎日のようにジェンダーの気づきがあり、意識も行動も大きく変わってきました。趣味 はスノーボード、登山 、ボルダリングなどアウトドア。
人生でやりたいことは「自分と自分が関わる人が大切にしたい何かを大切にできる環境作りをする」こと。こちらもどうぞ



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