【architecture】森のピロティ|長谷川豪
前回のnoteでヨコハマアパートメントという建築を紹介した
今回はヨコハマアパートメントでもコミュニティの場である『ピロティ』について考えてみようと思う
今では不動産表示などでも見慣れるようになってきた『ピロティ』という表現であるがどのようなイメージを持っているだろうか
“屋根のついた屋外の部分”といったイメージを持つ方が比較的多いかもしれない
具体的にかっちり決まった定義はないので間違ってはいないと思う
元々は近代建築の巨匠ル・コルビュジエがサヴォワ邸という住宅で扱った1階部分の柱で持ち上げられた空間を意味する
フランス語でピロティは『杭』を意味しており、建物を地盤に支える杭を持ち上げて地上に持ってきたイメージだ
ル・コルビュジエはピロティにより地上空間を公共性のある場所として開放することに可能性を感じていくつもの建築で採用している
以前取り上げたフランスのユニテ・ダビタシオンという共同住宅も巨大な建築がピロティで持ち上げられてピロティ部は一般に解放されている
散歩をする人やランニングをする人など様々な人が利用できる場所だ
ヨコハマアパートメントも同じようにピロティをコミュニティの場として活用した例である
日本ではこのピロティが公共施設で用いられた
そのピロティを日本的に使ったのが建築家の丹下健三氏である
広島平和記念資料館の1回はピロティで持ち上げられた空間である
また丹下健三氏の代表作のひとつでもある香川県庁舎は日本の伝統とモダニズム建築を融合したデザインとして有名であるが、やはりピロティは秀逸である
県庁舎という公共施設において誰でも自由に出入りの出来るピロティは市民の憩いの場として親しまれているだけでなく、街と建築の干渉領域として”入りやすい空気感”を生み出している
多くの庁舎建築でピロティが採用されているのはこの入りやすさにあるように思う
(香川県庁舎の写真はHPより引用しました)
さて表題の『森のピロティ』であるが、こちらは建築家の長谷川豪氏による軽井沢の森の中に建つ週末住宅である
1階部分が細い鉄骨の柱で支えられたピロティになっており2階に住居がある
森の一部を切り開きつくられたこの建築のピロティは高さが約6mあり、周囲の木々に囲まれた気持ちの良い空間である
この高〜いピロティが自然の中に溶け込むような解放感を楽しませてくれる訳だが、ピロティも高さや作り方によって全く違う空間になる
柱が極めて細く、周囲の木々と同化すると天井が浮いているような感覚になる
ヨコハマアパートメントでは囲まれ具合が逆に安心感を生むし、ユニテ・ダビタシオンでは荒々しい柱が、ダイナミックさを演出している
ピロティを『女性のスカートのようなもの』と説明したのはかつてル・コルビュジエの元で2年間修行をした建築家の吉阪隆正氏である
この森のピロティはサザエさんのワカメちゃんの如く超ミニスカートと言えるが、このスカートの丈の長さには相当緊張感を持って決定したことだろう
今ではピロティと言えばお出掛け前に雨が降っていても濡れなくて便利な場所やガレージ的な意味合いが強いように思う
しかし、本来は人々が集まる開かれたコミュニケーションの場としての意味合いを持ってつくられたものである
ピロティのあり方を考えてみるとまた新しいコミュニティのあり方が見えてくるように思う